EP 10
「5億エールの特大花火 〜そして世界はオープンワールドへ〜」
「さあ、本配信のクライマックス(エンディング)だ」
俺の手に握られた、星の光すら吸い込むような漆黒の巨大砲塔『神喰らいの魔砲』。
5億エール。俺が今まで稼いできた全財産と引き換えに顕現した、この世界から「概念そのもの」を消去するための特大兵器だ。
「ま、待て……! やめろ、僕は管理者だぞ! 僕が消えれば、この世界を管理する者がいなくなる! バランスが崩壊して……ッ!!」
地に這いつくばったゼロが、無様に後ずさりながら叫ぶ。
絶対的な権限を失った彼は、今やただの怯える人間に過ぎなかった。
「バランスなんて、最初から俺たち(人間)が自分で取るさ」
俺は砲口をゼロに向け、仮面の奥で冷たく笑った。
「お前はただの、権限に胡坐をかいたクソ運営だった。……さっさとログアウトしな」
俺はためらいなく、トリガーを引き絞った。
――カッ!!
爆音はなかった。
代わりに、世界から一切の音が消えた。
漆黒の砲口から放たれた『無』の閃光が、ゼロの体を呑み込む。
彼は悲鳴を上げる間もなく、指先からポリゴンの破片となって崩れ落ち、そして一切のノイズすら残さず、この世界から完全に『消去』された。
直後。
空を覆っていた不気味な赤いノイズが晴れ、雲一つない、抜けるような青空が荒野の上に広がった。
「……終わった、か」
俺が漆黒の砲塔をインベントリに収納し、息を吐いた瞬間。
「うおおおおおおおおおおッ!!!」
「勝った! 俺たちが、神様に勝ったぞォォォ!!」
遠巻きに見守っていた数百万の民衆が、堰を切ったように一斉に駆け寄ってきた。
あっという間に、俺たちは歓喜の渦に飲み込まれる。
「ボスッ! ボス、ボスぅぅぅっ!!」
リズが弾丸のように飛び込んできて、俺の首に抱きついて大泣きし始めた。
「バカボス……! もう二度と、あんな無茶しないでよ……ッ」
ジゼルも俺のコートの裾を握り締め、顔を押し付けて号泣している。
「悪かったよ。……お前らが助けに来てくれなきゃ、本当に終わってた。ありがとうな」
俺は二人の頭を撫でながら、世界中のリスナーたちに向かって、高らかに宣言した。
「さあ、お前ら! クソみたいな縛り(ルール)はもうなくなった! 今日は朝まで、最高の打ち上げだ!!」
◇
その日の夜。荒野は、世界最大規模の『宴の会場』と化していた。
民衆が運んできた食料(物理スパチャ)が山のように積まれ、あちこちで火が焚かれている。王国の騎士も、帝国の元兵士も、身分も国境も関係なく肩を組み、酒を酌み交わしていた。
「んむっ! んぐっ! はぁぁ、勝利の後の物理スパチャ、最高に美味しいです!」
リズは自分の身長ほどある巨大な串焼き肉にかぶりつき、幸せそうに尻尾を千切れるほど振っている。
「ふふん、サテライトは壊れちゃったけど、ボクの技術ならすぐに『もっとすごい拠点』を作ってあげるからね。……ボスの資金がスッカラカンだから、また稼いでもらわないとだけど」
ジゼルが呆れたように笑いながら、タブレットを操作する。
「ああ、また一から荒稼ぎしないとな」
俺は笑いながら、新調した端末のシステム画面を開いた。
管理者ゼロが消滅したことで、システムに劇的な変化が起きていたのだ。
【管理者権限の消失を確認。世界の制限を解除します】
【マップの未踏破エリア(Fog of War)を全面開示】
画面に映し出された新しい世界地図。
それを見て、俺とジゼルは息を呑んだ。
「……嘘でしょ。この世界、こんなに広かったの……!?」
今まで「世界の果て」とされていた海の外側に、見たこともない広大な『新大陸』がいくつも浮かび上がっていた。
天に浮遊する古代の遺跡群。海底に沈む巨大な迷宮。システム管理者が「自分たちの手に負えないバグ領域」として意図的に隠し、封印していた『未知の領域』だ。
「……ははっ。どうやらあいつは、随分と狭い箱庭に俺たちを閉じ込めてたらしい」
俺は立ち上がり、燃え盛る焚き火の前に立って、カメラを起動した。
『――よう、視聴者諸君。アノニマスだ』
アカウント復活後の初配信。同接数は、すでに計測限界を突破していた。
『お前らのおかげで、俺たちは自由を取り戻した。本当に感謝してる』
俺は背後に広がる、見知らぬ星空を見上げた。
『でも、平和になった世界で大人しくしてるなんて、俺たちらしくないよな。……システム様が隠してた、この世界の「本当の広さ(オープンワールド)」。見に行きたくないか?』
コメント欄が、爆発的な勢いで流れ始める。
『行くに決まってる!!』
『アノニマスがいればどこだって最高のエンタメだ!』
『新大陸編、キタァァァァ!』
「よし、決まりだ。……さあ、リズ、ジゼル! 新しい冒険の始まりだぞ!」
「はいっ! 未知の魔物、楽しみです!」
「まったく、ボスは本当に人使いが荒いんだから!」
俺たちは笑い合い、果てしなく広がる新しい世界へ向けて、一歩を踏み出した。
もう、俺たちを縛るものは何もない。
泥だらけの義賊たちの「真の冒険」は、ここから始まるのだ。




