EP 8
「エラー(Error)vs 規格外(Bug) 〜神様、計算違いの時間です〜」
「……起動」
空中浮遊する銀髪の管理者、ゼロが冷酷に呟いた。
彼が指を鳴らした瞬間、荒野の物理法則が書き換えられた。
――ガァァァァァァァァンッ!!
リズの頭上の空間が歪み、数トンの質量を持つ「透明な立方体」が、音速を超えて降り注いだ。
「――リズ、左斜め前、45度! 3(スリー)、2(ツー)、1(ワン)、跳べ!!」
俺は、血と泥で霞む目を限界まで見開き、ゼロの周囲のデータの揺らぎ(予兆)を読み取って叫んだ。レベル1になっても、俺の「遠隔視(アナログな洞察力)」は健在だ。
「はいッ!!」
リズは俺の指示と同時に、規格外の鉄塊ハンマーをバランサー代わりにして、重力を無視したような動きで左斜め前へと跳躍した。
直後、彼女がいた場所には、巨大な透明なブロックが激突し、荒野の岩盤を粉砕していた。
「……ほう。データの流れが読めない君が、僕の攻撃を予測するか」
ゼロは微かに眉をひそめた。
「予測じゃねえ。俺のリスナー(民衆)が運んできた砂埃の動きを見て、お前の『空気の歪み』を読んでるだけだ! アナログを舐めるな!」
「くだらない。……ならば、次はこれで消去だ」
ゼロが両手を掲げると、空中に無数の赤い光弾――『追尾式・消去プログラム(ホーミング・マジック)』が生成された。数千、数万の光弾が、死角なしにリズへと殺到する。
「――ジゼル! 例の『ノイズ(EMP)』を、あいつの頭上に全開で叩き込め!!」
「了解、ボス! ボクのガラクタの意地、見せてやるんだから!!」
ジゼルは泥だらけの手で、即席の受信機を改造した『指向性EMPガン』をゼロへ向けて構え、トリガーを引いた。
――バリバリバリバリバリッ!!
システム(世界律)には依存しない、原始的かつ強力な電磁波の暴走。
その直撃を受けたゼロの頭上で、生成されかけた無数の赤い光弾が、ノイズを撒き散らしながら『データ結合エラー』を起こし、空中で霧散した。
「な……ッ!? システムの外部からの、物理干渉だと……!?」
初めてゼロの顔に、明確な『驚愕』が走った。
管理者権限(Admin)は、システムのルール(魔法)には無敵だが、ただの「電波の暴走」や「砂埃」といったアナログな現象までは、完全には制御しきれない。
「今だ、リズ!! 全開で突っ込めェェェェ!!!」
俺の咆哮に、リズが応えた。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!! ボスの家を、返せェェェェッ!!!」
リズは、鉄塊ハンマーに仕込まれたバギーのエンジン推進器を、限界を超えて点火した。
ポーション液の爆発的な推進力と、S級魔獣の本能の脚力。
リズの体は銀色の流星となり、荒野を切り裂いてゼロへと一直線に突っ込んでいく。
システム上の「自動追尾」や「行動予測」が効かない、完全なシステム外(非承認オブジェクト)の突撃。
「……チッ。バグめ、これ以上は不愉快だ」
ゼロは焦りを滲ませ、自身の目の前に、かつてサテライトを崩壊させたあの『絶対防御(ポリゴンの壁)』を展開した。
【管理者権限(Admin):絶対防御壁(Error)を展開】
【防御力:エラー(算出不能)】
攻撃力上限9,999の魔法すら無効化する、赤いノイズを纏った透明な壁。
その壁に、リズが構えた数トンの『鉄塊ハンマー』が、超音速で激突した。
――ズガァァァァァァァァァァァンッ!!!!!
荒野全体が、巨大な地震のように揺れた。
システムの計算を超えた、凄まじい「物理質量」の衝突。
『Delete... Delete... Error... Error...』
ゼロの展開した赤い壁に、あり得ないシステムエラーのアラートが乱舞する。
「な……馬鹿な! 僕の絶対防御が、ただの鉄クズに……ッ!?」
ゼロは戦慄した。
壁は破れていない。だが、鉄塊ハンマーに込められたエネルギーは、システムの計算式を無視し、壁の向こう側の『ゼロの存在データ(HP)』へ、直接「振動」として伝わっていた。
「……お前の防御力は『絶対(Error)』かもしれない」
俺は、血まみれの口元を釣り上げた。
「でもな……このハンマーには、数百万人の『想い(物理スパチャ)』という、計算不能なエネルギーが詰まってるんだよ!」
「ボスのためなら……神様だって、殴り倒すぅぅぅぅッ!!!」
リズがさらに力を込める。ミシミシと、彼女の骨が悲鳴を上げる。
だが、その瞬間。
メキッ。
ゼロの『絶対防御壁(赤いポリゴン)』の中央に、一筋の、明確な『ヒビ』が入った。




