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EP 6

「『物理スパチャ』のお届けです! 〜数百万のリスナーと、奇跡の合流〜」

「はぁっ……はぁっ……!」

 名もなき荒野。リズは血と泥にまみれながら、荒い息を吐いていた。

 自らの拳だけで数十体の『バグ・ハウンド』を粉砕したが、システムが無限に生成する化け物の群れは、減るどころか増え続けている。

「……っ、痛……」

 足に限界が来ていた。S級魔獣の体力にも底はある。

 赤黒いノイズを纏った新たな群れが、疲弊したリズを取り囲み、一斉に飛びかかってきた。

(ここまで、ですか……。ごめんなさい、ボス……)

 リズがギュッと目を瞑り、覚悟を決めた、その瞬間だった。

「――一斉掃射ファイヤーァァァッ!!」

 ドゴォォォォォォンッ!!

 荒野を揺るがす爆発音が轟き、飛びかかってきたバグ・ハウンドの群れが、無数の炎弾と魔法の矢によって一瞬で吹き飛ばされた。

「……えっ?」

 リズが目を開けると、土煙の向こうから、地鳴りのような足音を立てて『大軍』が押し寄せてくるのが見えた。

 王国騎士団の鎧。冒険者ギルドの旗。そして、フライパンやクワを握りしめた、王都の一般市民たち。

「間に合ったぞ! アノニマスのお仲間の、銀髪の嬢ちゃんだ!」

「嬢ちゃん、怪我はないか! ポーションならいくらでもあるぜ!」

「俺たちのメシの恩人だ、化け物どもは俺たちが引き受ける!!」

 数千、いや数万の群衆が、リズを守るようにバグ・ハウンドの前に立ち塞がる。

「みな、さん……? どうして、ここに……?」

 呆然とするリズの前に、荷馬車から飛び降りた商人の男が進み出て、満面の笑みで大量の食料と毛布を差し出した。

「アノニマスの放送を聞いて飛んできたのさ! これは俺たちからの『物理スパチャ』ってやつだ! さあ、腹いっぱい食ってくれ!」

          ◇

 同じ頃、荒野の別の場所。

 ジゼルは泥だらけになりながら、即席の受信機を抱えてよろよろと歩いていた。

 体力のない彼女の足はとっくに限界を迎え、転んで膝を擦りむき、靴もボロボロだ。

「……ボス、どこにいるのさ。ボク、もう一歩も歩けないよ……」

 荒野の砂に倒れ込みそうになった、その時。

 ――ブロロロロロォォォォンッ!!

 爆音と共に、巨大な砂煙を上げて、数十台の魔導バギーや装甲車が地平線の彼方から現れた。

 車体に描かれているのは、かつてアノニマスが崩壊させた『旧ガレリア帝国』の紋章。

「嘘、帝国の残党……!? こんな時に……っ」

 ジゼルが身構えたが、バギーから降りてきたのは、軍人ではなく油まみれのツナギを着た帝国の技術者や市民たちだった。

「見つけたぞ! アノニマスと一緒にいた、天才メカニックの姉ちゃんだ!」

「姉ちゃん、迎えに来たぜ! 俺たち帝国市民の目を覚まさせてくれた礼だ、最高速フルチューンのバギーに乗ってきな!」

「え……アンタたち、帝国の……」

 ジゼルが目を丸くする。旧帝国の市民たちは、照れ臭そうに笑ってジゼルの小さな体をバギーの助手席へと乗せた。

「アノニマスの旦那が言ってたんだ。『リスナーの足』を貸してくれってな。システム(神様)の言いなりになるのは、もうご免だ。俺たちの意志で、あんたを大将のところまで送り届けてやるよ!」

 ジゼルの瞳から、再び大粒の涙が溢れ出した。

「……うんっ! お願い、ボクをボスのところへ連れてって!」

          ◇

 日が傾きかけた、荒野の中心。

 サテライトの残骸に背を預け、俺は静かに目を閉じていた。

 出血がひどい。体力は限界に近く、指先すらまともに動かない。

(……さすがに、ちょっと無茶だったか)

 笑みがこぼれる。だが、後悔は微塵もなかった。

 ――ドドドドドドドッ!!

 ふと、地面が微かに揺れるのを感じた。

 目を開けると、地平線の向こうから、とてつもない土煙がこちらに向かって迫ってくる。

 それは、王国の騎士や冒険者、帝国のバギー部隊、そして無数の市民たちが合流してできた、数百万の『民意の軍勢』だった。

 その大軍の先頭から、二つの影が猛スピードで飛び出してくる。

「ボォォォォスッ!!!」

「ボス、バカ! 大バカヤロウ!!」

 銀色の閃光となって飛び込んできたリズが、俺の胸に勢いよく飛びついてきて、俺は痛みに「ぐふっ」と声を漏らした。

 遅れてバギーから飛び降りたジゼルが、泥だらけの顔をくしゃくしゃにして俺にしがみつく。

「痛ぇよ、お前ら。……怪我はねえか」

「ボスこそ! 血だらけじゃないですかぁっ!!」

「絶対助けるって言ったのに、なんでアンタが一番死にそうになってるのさ!」

 わんわんと泣きじゃくる二人。

 その後ろでは、駆けつけた数百万の民衆が、俺たちを取り囲んで割れんばかりの歓声を上げていた。

「アノニマス! 約束通り、ツレを連れてきたぞ!」

「最高の放送だったぜ! 俺たちのスパチャ(支援)、受け取ってくれ!!」

「生きててくれてありがとう!!」

 システム(運営)には繋がっていない。

 端末の画面越しでもない。

 これが、現実の、生身の熱狂。

「……ああ、受け取った。最高のデリバリーだったぜ」

 俺は、血まみれの手で二人の頭を撫でながら、集まった数百万のリスナーたちに向かって、不敵に笑いかけた。

「さて。アイテムも金もない俺に、お前らがこんなに『武器とガラクタ(素材)』を運んできてくれたんだ」

 俺の足元には、民衆が置いていった数え切れないほどの剣、盾、ポーション、そして魔導機械のパーツが山積みになっていた。

「ジゼル、リズ。……涙を拭け」

 俺は、瓦礫を杖代わりにして、ゆっくりと立ち上がった。

「この最高の『物理スパチャ』を使って……あのクソ運営(神様)を、完膚なきまでに炎上(BAN)させてやるぞ」

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