EP 10
「地上の争いに飽きたので、アジトを『宇宙』にお引っ越ししてみた」
帝都ガレリアが無血開城されてから数日後。
王都は、かつてないほどのお祭り騒ぎに包まれていた。最大の脅威だった帝国が自滅し、食料物流も完全に回復。街の至る所で「アノニマス」を讃える宴が開かれている。
だが、その当人たちはといえば。
「むぐむぐ……んぐっ! ボス、この帝国の最高級霜降り肉、本当にほっぺたが落ちそうです!」
『リズ様、慌てずともお肉はまだトラック3台分ございますよ。ささ、お次は特製ハンバーグです』
アジト『シャドウ・ハウス』のダイニング。
リズは顔を油まみれにして肉の山と格闘し、幽霊メイドのマリアが甲斐甲斐しく世話を焼いている。
一方のジゼルは、食事もそこそこにタブレットと睨めっこし、奇声を上げていた。
「うひひ……! ヤバい、ヤバいよボス! アンタがアンロックした『広域・魔導ネットワーク構築』の仕様書、これ完全に『インターネット』そのものじゃない! しかも魔力波を使うから、ラグゼロ・容量無限の神回線!」
「お前、さっきからそればっかりだな。飯くらい落ち着いて食え」
俺は淹れたてのコーヒーを啜りながら、呆れたように笑った。
「落ち着けるわけないでしょ! この世界にネットが普及すれば、ボクたちが情報を独占できるんだよ!? しかも……」
ジゼルは目をキラキラさせ、空を指差した。
「新しいアジト、『軌道上拠点』! アンタのスパチャ5億エールを全ツッパすれば、成層圏の彼方に重力制御付きの巨大宇宙ステーションが作れる! 地上の軍隊なんか、1万年経っても手が出せない絶対安全圏だよ!」
「宇宙……!? そこに美味しいお肉の魔物はいるんですか!?」
「いるわけないでしょ、真空なんだから!」
騒がしい仲間たちを見ながら、俺は仮面を机に置いた。
ギルドを潰し、教会を壊し、帝国をハックした。
正直、地上の「国取りゲーム」にはもう飽きていた。狭い箱庭で権力を奪い合っている連中を相手にするのは、割に合わない。
「よし。じゃあ、次の企画(お引っ越し)の発表といくか」
俺は端末を操作し、配信のスイッチを入れた。
『――よう、世界中の視聴者諸君。アノニマスだ』
開始数秒で、同接数はあっという間に**【5,000,000人】**を突破。帝国の事件を経て、俺のチャンネルは完全に世界のインフラと化していた。
『今日は重大発表がある。……俺たち「シャドウ・ハウス」は、近々この王都を去ることにした』
その言葉に、コメント欄が一瞬で「えっ」「嘘だろ!?」「俺たちを置いていくのか!」という悲鳴で埋め尽くされる。
『安心しろ、引退するわけじゃない。ただ、地上のご近所トラブルに巻き込まれるのが面倒になったんでな。……新しいアジトは、ここだ』
俺が指を鳴らすと、ジゼルが合成した『完成予想図』のCGが画面に映し出された。
青い星を見下ろす、白銀の巨大な宇宙ステーション。
「な、なんだあれは!?」
「空……いや、星の海に城が浮いている……!」
王都のモニターを見上げていた民衆が絶句する。
『名付けて、軌道上スタジオ「シャドウ・サテライト」。これからは、宇宙から全世界に向けて最高級のエンタメ(配信)をお届けするぜ』
俺はカメラに向かって、不敵に笑った。
『それに伴って、この世界の全土に「魔導ネットワーク(インターネット)」を構築する。誰でも、どこでも、無料で俺の配信が見られるようになる。……さあ、世界中の王様や貴族たち、震えて待ってな。これからは、国境なんか関係ない。俺たち(インターネット)が、この世界を遊び尽くしてやる』
コメント欄が、過去最大の熱狂で爆発した。
『宇宙www スケールでかすぎwww』
『もう誰もアノニマスに逆らえないじゃん』
『インターネット? よくわからんが最高だぜ!』
『一生ついていきます!!』
「さあ、お前ら。荷造りだ」
俺が振り返ると、リズとジゼルが最高の笑顔で頷いた。
「はいっ! ボス、宇宙でもいっぱい暴れますよ!」
「ふふん、ボクの技術で、宇宙一快適な引きこもり部屋を作ってやるんだから!」
地上のくだらない争いを眼下に、俺たちは笑い合う。
道化の仮面の配信者は、ついに重力を振り切り、神の領域(宇宙)へと到達した。
俺たちの「世界征服(トレンド独占)」は、ここからが本当の始まりだ。




