EP 9
「大帝国を『言葉』だけで崩壊させてみた 〜そして解除される兵器ロック〜」
「ごめんなさぁぁぁい! 僕はただ、ちやほやされたかっただけでぇぇぇ!!」
鼻水と涙でぐちゃぐちゃになったアーサーの顔を、俺はカメラのフレームから容赦なく外した。
これ以上、この空っぽの人形を映し出す価値はない。
『さて、全世界の視聴者諸君。そして、画面の前のガレリア帝国市民の皆さん』
俺はカメラに向かって、静かに語りかけた。
『俺から見せる「真実」は以上だ。お前たちの国が、お前たちをどう扱い、何を企んでいたか。……この放送を見た上で、それでもこの国に従うか、それとも自分たちの頭で考えて行動するか。それはお前たちの自由だ』
俺は背後で気絶している将校と、泣き喚くアーサーを見下ろした。
『俺は国を支配する気なんてないし、王様になる気もない。ただの義賊だ。……クソみたいな嘘をバラ撒くメディア(頭)を、ちょっとハックしてやっただけさ。じゃあな』
ブツン。
俺が配信を切ると同時、メインスタジオの防音壁を突き破るほどの、凄まじい「地鳴り」が聞こえてきた。
「……ボス。これ、暴動の音だよ。放送局の周りに、数万人の帝国市民が押し寄せてる」
タブレットを見たジゼルが、驚きと興奮の入り混じった声を上げる。
「だろうな。……信じていたものに裏切られた民衆の怒りは、どんな軍隊よりも恐ろしい」
「どうします? このままだと、私たちも巻き込まれますよ!」
リズが窓の外を見下ろしながら言う。放送局の正門は、怒り狂った市民たちによって既に突破されようとしていた。警備の帝国兵たちも、先ほどの放送を見て戦意を喪失しており、武器を捨てて逃げ出している。
「撤収だ。俺たちの仕事は終わった」
俺たちが屋上のヘリポートへ向かうと、ジゼルが遠隔操作で呼んでおいたステルス輸送機が、音もなく降下してくる。
乗り込み、眼下に広がる帝都を見下ろす。
あちこちで火の手が上がり、帝国の象徴たる城へ向かって、民衆の怒涛の波が押し寄せていくのが見えた。
強大な軍事力で近隣諸国を脅かしていたガレリア帝国は、たった一晩の「生放送」によって、自国の民の手で無血開城(崩壊)させられたのだ。
「……すごいね。ボクたちが兵器で国を焼くよりも、よっぽど手っ取り早くて、えげつないや」
ジゼルが呆然と呟く。
「でも、これで本当に良かったの? 帝国は無政府状態になっちゃうよ」
「心配ない。腐った頭がすげ替われば、あとは下の人間たちがなんとかする。俺たちがいつまでも面倒を見る義理はないさ」
俺は深く椅子に腰掛け、大きく伸びをした。
その瞬間、視界の端でアラートが鳴り響いた。
【条件クリア:軍事力(武力)を一切使用せず、国家規模の脅威を無力化しました】
【システム過負荷を前倒しで解除します】
【配信者ショップの『軍事・兵器カテゴリ』がアンロックされました】
「おっ。どうやらシステム様も、俺の『縛りプレイ』に満足してくれたらしいな」
俺が笑うと、システムウィンドウはさらに連続してメッセージを表示させた。
【特大ボーナス:同接2,000万人突破の偉業を称え、以下の機能を解放します】
【新機能『軌道上拠点』の建築権が付与されました】
【新機能『広域・魔導ネットワークの構築(インターネットの創造)』が解放されました】
「……は?」
俺は思わず二度見した。
「ど、どうしたのボス? 変な顔して」
「ジゼル。……お前、宇宙に家を建ててみたいか?」
「はぁ!?」
「それに、この世界の全人類が繋がる『本物のネット環境』を作り出せるかもしれない」
俺の言葉に、ジゼルの目がカッと見開かれた。
エンジニアとして、そんな規格外のインフラ構築を提示されて、興奮しないはずがない。
「や、やる! 絶対やる!! アンタの稼いだスパチャ、全部ボクのラボに突っ込ませてよ!!」
「ボス! 宇宙にも美味しいお肉はありますか!?」
「宇宙肉でも探してみるか」
俺たちはステルス輸送機の中で、夜明けの空へ向かって大笑いした。
【現在のチャンネル登録者数:10,000,000人】
【獲得総スパチャ:約5億エール】
一千万人の登録者。
もはや一国の王すら凌ぐ影響力を手にした俺たちは、王都へと帰還する。
武器がなくても勝てることを証明した。そして今度は、新しくアンロックされた「神の如き権限」で、このファンタジー世界そのものを、俺たちの遊び場に作り変える時だ。




