EP 8
「台本のないアイドル勇者を公開論破したら、放送事故(大炎上)になった件」
「さあ、アーサー君。最初の質問だ」
帝国の国営第一放送局、メインスタジオ。
俺はカメラに向かって最高の笑顔(仮面だが)を作りながら、隣で震えるアーサーにマイクを向けた。
「君は昨日、『アノニマスが輸送路を塞いだせいで王都に食料が届かない』と言った。……でも、俺たちが開けた第4物流倉庫には、『王都・救済用』と書かれた未開封の食料が山ほどあった。あれは一体、どういうマジックなんだ?」
「そ、それは……っ!」
アーサーの目が泳ぐ。彼はチラチラとカメラの裏に立つ情報将校の方を見るが、プロンプター(カンペ)の画面はジゼルのハッキングによって『アノニマス最高!』というアスキーアートに書き換えられている。
「あ、アノニマスが! そう、君たちが偽物の木箱を用意して、あたかも帝国の倉庫にあるように見せかけた捏造映像だ! 騙されないぞ!」
苦し紛れの言い訳。だが、俺は呆れたように首を振った。
「捏造ね。じゃあ、なんでその『偽物の倉庫』の警備に、帝国の正規兵が数百人も配備されてたんだ? 全員、タマネギの催涙ガスで大泣きしてたけど、あれも俺が雇った劇団員だって言うのか?」
「あ、う……そ、それは……」
アーサーが言葉に詰まる。台本にない想定外の質問をされ、彼の思考は完全にフリーズしていた。
コメント欄が加速する。
『アーサー、目泳ぎすぎだろw』
『カンペないと喋れないのかよ』
『完全にアノニマスの論破ペースじゃん』
「ええい、そこまでだテロリスト!」
見かねた情報将校が、ついにカメラの前に飛び出してきた。
「アーサー様をこれ以上愚弄することは許さん! 仮に食料を止めていたとしても、それは暴徒(お前たち)から物資を守るための正当な『安全保障措置』だ! 帝国は常に市民の安全を第一に考えている!」
さすがはエリート将校、口が回る。
だが、その「詭弁」を待っていた。
「市民の安全を第一に、ね」
俺はインカムを叩いた。
「ジゼル、例のブツを出せ」
『了解、ボス。将校サンの個人端末、ロック解除(パスワード:Arthur_Saikou_123)完了。データ抜いたよ』
ピピッ、という音と共に、スタジオの巨大モニターに一枚の文書がデカデカと映し出された。
【極秘:王都・食糧価格操作およびプロパガンダ計画書】
起案者:帝国情報局
内容:意図的な物流封鎖により王都を飢餓状態に陥れる。パンの価格が10倍を超えた時点で、アーサーの顔で『救済』を発表。王都民の帝国への依存度を100%に引き上げる。
「なっ……!? き、貴様、なぜそのデータを……!!」
将校の顔から、さぁっと血の気が引く。
「安全保障措置じゃなくて、ただの『マッチポンプ』じゃないか。自分たちで火をつけて、自分たちで消火してヒーロー気取り。……最低の自作自演だな」
俺は冷酷に事実を突きつける。
「違う! それは偽造だ! 帝国がそんな下劣な真似を……」
「まだ言うか? なら、次はお前が昨日の夜、高級クラブで帝国の重鎮たちと交わした通信記録の音声だ」
モニターから、将校の酒焼けした声が流れる。
『ガハハ! 王都の愚民どもなど、腹を空かせておけばアーサーの顔を見るだけでひれ伏しますよ! 豚は餌を与える者の靴を舐めるんです!』
……沈黙。
同接2000万人の前で、帝国の「本音」が全世界に流れた瞬間だった。
「ぶ、豚……?」
「俺たちのこと、そんな風に思って……」
帝国市民ですら、その言葉には衝撃を受けていた。王都民だけではない、自分たちもまた、彼らにとっては都合よく操られる「豚」に過ぎなかったのだと。
「あああああ! 切れ! 電源を落とせぇぇぇ!!」
狂乱した将校が、スタジオの機材を物理的に破壊しようと暴れ出す。
「おっと。見苦しいですよ?」
リズがスッと前に出て、将校の首根っこを片手で摘み上げた。
「ひっ……!」
「静かにしてください。今、いいところですから」
リズはそのまま将校をポイッと放り投げ、警備兵の山の頂上に乗せた。
俺は、床にへたり込んでいるアーサーを見下ろした。
完璧だったはずの金髪は乱れ、鎧は汗と脂で汚れ、顔は恐怖で引きつっている。
「さて、アーサー」
俺はカメラを彼に限界まで近づけた。
「お前の信じていた『正義』は、嘘と泥で固められたハリボテだった。お前自身も、カンペがないと喋れない空っぽのお人形だ。……どうする? まだヒーローの続き、やるか?」
アーサーはカメラのレンズを見つめ、震える唇を開いた。
「あ……ああ……」
そして。
「うわぁぁぁぁぁぁん!! 違う、僕は知らない! 全部こいつら(軍)がやれって言ったんだ! 僕はただ、ちやほやされたかっただけで……ごめんなさぁぁぁい!!」
同接2000万人の前で。
帝国の象徴たるアイドル勇者は、子供のように鼻水を垂らして号泣し、土下座で謝罪した。
俺の視界の端で、帝国の国威を示すゲージが、音を立ててゼロに崩れ落ちていくのが見えた。
情報戦の完全勝利。
銃弾を一発も撃つことなく、俺たちは大帝国を内側から崩壊させたのだ。




