EP 7
「帝国の国営放送局に不法侵入して、勝手に『コラボ配信』を始めてみた」
「ボス、帝都ガレリアの上空に到達したよ。光学迷彩、出力安定。レーダーには一ミリも引っかかってない」
夜の闇に溶け込むステルス輸送機の中。
操縦席のジゼルが、眼下に広がる巨大な要塞都市を見下ろしながら言った。
王都とは比べ物にならないほど魔導機械化が進んだ、ガレリア帝国の首都だ。その中心に、ひときわ高くそびえ立つ電波塔――『国営第一放送局』がある。
「ご苦労。……さて、リズ、準備はいいか?」
「はい! 食後の運動にはちょうどいいです!」
リズは拳をバキバキと鳴らし、やる気満々だ。
「いいか、今回は『殺し』はなしだ。俺たちの目的はテロじゃない。ただの『突撃コラボ配信』だからな」
俺は道化の仮面を被り、配信用の小型カメラを起動した。
「さあ、偽物のヒーローに、現実を教えに行こうぜ」
輸送機の下部ハッチが開き、俺たちは夜の帝都へとダイブした。
◇
その頃、放送局の最上階にあるメインスタジオ。
『太陽の騎士アーサー』は、カメラの前で脂汗を流しながら、必死に作り笑いを浮かべていた。
『――ええ、皆さま。アノニマスが流したあの映像は、すべて彼らの捏造です! 我が帝国の特殊部隊は現在も王都で優位に作戦を進めており……』
プロンプター(カンペ)を読み上げるアーサーの声は、微かに震えていた。
それもそのはずだ。彼の目の前にあるモニターには、同接数の激減と、アンチコメントの嵐が映し出されている。もはや彼を信じているのは、情報統制の敷かれた帝国の一部市民だけだ。
「(おい、もっと堂々と喋れ! 帝国市民に不安を与えるな!)」
カメラの死角で、情報将校がカンペを叩きながら小声で怒鳴る。
「(む、無理ですよ! ネット上じゃ僕、完全にピエロ扱いじゃないですか!)」
「(黙れ! お前は顔だけが取り柄の飾りだ、台本通りに喋ればいいんだよ!)」
ギスギスとしたスタジオの空気。
アーサーが再びカメラに向き直り、愛想笑いを作ろうとした、その瞬間だった。
――ズガァァァァァン!!
スタジオの分厚い防音扉が、爆発したかのように吹き飛んだ。
「な、なんだ!?」
「テロだ! 警備兵を呼べ!!」
将校とスタッフたちが悲鳴を上げる。
土煙の中から現れたのは、放送局の屈強な警備兵たちをロープでぐるぐる巻きにして引きずる、銀髪の獣人少女だった。
「ふぅ、ちょっと数が多かったですけど、全員『お昼寝』させときました!」
リズがニコニコと笑いながら、警備兵の山をスタジオの隅に転がす。
「貴様ら、何者だ! ここをどこだと……ッ!?」
将校が腰の魔導銃を抜こうとしたが、それより早く、俺が悠然とスタジオに足を踏み入れた。
「やあ、アーサー。生放送中にお邪魔するぜ」
俺は自前のカメラを回しながら、スタジオのど真ん中、アーサーのすぐ隣に立った。
帝国の国営放送のカメラと、俺の配信カメラ。二つのレンズが、俺とアーサーを同時に捉える。
「ア、アノ、アノニマス……ッ!? なぜここに! 特殊部隊はどうした!」
アーサーが腰を抜かし、情けなく後ずさる。
「あいつらなら、今頃アジトの床掃除をしてくれてるよ。……それより、随分と寂しい配信になってるじゃないか」
俺はジゼルに合図を送る。
スタジオの副調整室は、すでにジゼルが物理的に制圧を完了していた。
『ボスのカメラ映像、帝国の放送波にミックス完了! これで世界中の端末に、このスタジオの「無修正映像」が流れるよ!』
ジゼルの声と共に、スタジオの巨大モニターの表示が切り替わる。
俺のチャンネルの同接数と、アーサーの放送の同接数が統合され、【20,000,000人】という、この世界における前人未到の数字を叩き出した。
「さて、視聴者諸君。そして帝国市民の皆さん」
俺はアーサーの肩にポンと手を置き、マイクに向かって語りかけた。
「今日は、帝国のアイドル勇者・アーサー君と『コラボ配信』をしにやってきた。……彼、台本がないと何も喋れないらしいから、今日は俺が直接インタビューしてあげるよ」
「や、やめろ……ッ! 放送を切れ! 早く!!」
将校が叫ぶが、副調整室をジゼルに抑えられている以上、彼らに放送を止める術はない。
「さあ、アーサー。世界中が見てるぜ」
俺は仮面の奥で、冷酷に笑った。
「お前らが流したフェイクニュースのこと、食料を独占して王都を飢えさせようとしたこと。……全部、お前の口から『本当のこと』を語ってもらおうか。質問の始まりだ」




