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EP 6

「最新鋭の特殊部隊が攻めてきたので、タライとバナナの皮で迎撃してみた」

 深夜。

 王都郊外、アジト『シャドウ・ハウス』の周辺は、異常な静寂に包まれていた。

 森の木陰から、漆黒の装甲服に身を包んだ数十人の集団が、音もなく姿を現す。

 ガレリア帝国が誇る最強の暗殺部隊、『対・魔導テクノロジー特殊部隊(通称:アンチ・テック)』だ。

「――ジャミング結界、出力最大マキシマム

 部隊長が低く命じると、部隊が掲げた特殊な魔導具から、目に見えない妨害電波がアジトを包み込んだ。

「これで奴らの『自動迎撃タレット』も『ドローン』も全て鉄くずだ。……情報戦でコケにされた恨み、ここで晴らすぞ。一匹残らず始末しろ」

 部隊長は冷酷に笑い、突入のハンドサインを出した。

 特殊部隊は音もなく庭へ侵入し、アジトの玄関扉へと迫る。

 彼らは完璧な対魔法・対機械の訓練を受けている。いかなる高度なセキュリティも、彼らの前では無意味――のはずだった。

「よし、ドアを破……」

 先頭の隊員がドアノブに手を掛けた瞬間。

 カチャッ。

 何やら『とても嫌な、アナログな音』が鳴った。

「ん?」

 隊員が見上げると、ドアの真上に設置された巨大な黒いバケツが、傾くのが見えた。

 ――ドバァァァァァッ!!

「ぐわぁぁぁ!? な、なんだこれ!? 粘着性のスライム液か!?」

「くそっ、目が開かん! しかもメチャクチャ臭いぞ!!」

 最新鋭の暗殺部隊が、頭から強烈なニオイを放つ緑色のドロドロ液(ジゼル特製:腐った沼の泥&激辛スパイスMIX)を被ってパニックに陥った。

 

「慌てるな! ただの嫌がらせだ、踏み込め!」

 部隊長が怒鳴り、後続の隊員たちが玄関を蹴り破って屋敷の中へ雪崩れ込む。

 だが、彼らが踏み込んだ床は、ピカピカに磨き上げられ、大量の『最高級・潤滑油ローション』がぶち撒けられていた。

「突入――って、うおぉぉぉ!?」

「す、滑るッ! 止まらん!!」

 ツルーンッ!!

 重装備の特殊部隊員たちが、まるで氷の上のペンギンのように派手にすっ転び、お互いにぶつかり合いながら廊下の奥へと滑っていく。

 そこへ、天井からカランコロンと、無数の銀色の物体が落ちてきた。

 ガァァァァン!! ゴォォォン!!

「いってぇぇぇ!! な、なんだ!? 鉄のタライ……!?」

「なぜこんな古典的な……ぐふっ!」

 滑って転んでいる無防備な顔面に、容赦なく金属製のタライがクリーンヒットしていく。

 最新鋭の装甲服も、顔面に直撃する物理的な「タライ落とし」には対応していなかった。

          ◇

「ぷっ……あはははは!! ボス、見てよあの間抜けな顔! ボクの計算通りの滑りっぷりだよ!」

 地下モニター室。

 監視カメラの映像を見ながら、ジゼルが腹を抱えて爆笑していた。

 軍事兵器はロックされても、監視カメラ(民間用)やただのロープと滑車を使った『からくり』は通常通り動くのだ。

「ジャミング結界を張ったから『機械の罠はない』と油断したんだろうな。そこをアナログなイタズラで突く。……防衛戦の基本だ」

 俺もコーヒーを噴き出しそうになるのを堪えながら、カメラの映像を全世界に配信ストリーミングし続けている。

『うっわwww』

『帝国のエリート(笑)』

『タライ直撃は草』

『アノニマス、完全に遊んでるだろw』

 コメント欄は大爆笑の渦だ。

 

「さて、リズ。お散歩の時間だ。滑って転んでるゴミを掃除してこい」

「はーい! 待ってました!!」

          ◇

「ええい、クソッ! こんなフザけた罠で……!」

 廊下の奥で、泥まみれになりながら部隊長が立ち上がった。

 その目の前に、ひらりと銀色の影が降り立つ。

「こんばんはー! お客様、お足元が滑りやすくなっておりますのでご注意くださーい!」

 ニコニコと笑う獣人少女、リズ。

「小娘が! 射殺しろ!!」

 部隊長が魔導銃を構えようとした瞬間。

「あ、それ結界のせいで使えないと思いますよ?」

「――なに?」

 ジャミング結界は、敵の機械を無効化する代わりに、強力な電波干渉で味方の精密な魔導銃をも一時的に不調にする欠点があった。カチャカチャと引き金を引いても、銃は沈黙したままだ。

「それに、近接戦なら……私の勝ちです!」

 リズが床を蹴った。潤滑油の撒かれた床を、彼女は爪をスパイク代わりに突き立てて完璧に制御し、瞬動する。

 ドゴォォォォン!!

「がはっ……!?」

 リズの容赦ないアッパーカットが部隊長の顎を捉え、そのまま天井へと叩きつけた。

 バタバタと倒れる部隊員たち。

 最新鋭の特殊部隊は、一度もまともな戦闘をさせてもらうことなく、タライとローションと一人の獣人少女によって全滅した。

          ◇

「――はい、カット。お疲れ様」

 俺はカメラに向かって拍手をした。

「帝国の皆さん、わざわざ深夜に『お笑い番組』の体を張ったロケ、ご苦労様でした。……まあ、次来る時は、もうちょっと面白い芸を用意してきてくれよな」

 俺は気絶した部隊長たちをロープで縛り上げながら、配信を終了した。

 

【チャンネル登録者数:6,500,000人突破】

 情報戦でも物理戦でも、帝国は完全に底を見せた。

 あいつらに残された手札は、もうない。

 次は、こっちから帝国の心臓部へ「カチコミ」をかける番だ。

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