EP 5
「偽物のヒーローと、グリーンバックの『答え合わせ』」
その日の昼。
王都広場の巨大モニター、そして世界中の魔導端末は、ガレリア帝国の臨時国営放送一色に染まっていた。
『――緊急特報です。我々は、昨夜、帝国領の辺境の村で起きた、あまりに無慈悲な虐殺の映像を入手しました』
画面に映し出されたのは、神々しい光のエフェクトに包まれた『太陽の騎士アーサー』だった。彼の顔は、かつてないほどの悲しみと、抑えきれない怒りに満ちている。
『見よ、これがアノニマスの「真の姿」だ!』
アーサーが叫び、映像が切り替わった。
そこには、俺の格好をした人物が、燃え盛る村で、泣き叫ぶ民間人を次々と魔法で薙ぎ払い、高笑いしている様子が克明に映し出されていた。
「ひ、ひどい……」
「アノニマス……お前、本当に義賊じゃなかったのか?」
「炊き出しだって、俺たちを骗すためのポーズだったんだ!」
王都の民衆が息を呑み、どよめきが広がる。
アーサーの公式チャンネルの同接数は爆発的に跳ね上がり、コメント欄はアノニマスへの非難と、帝国への賛辞で埋め尽くされた。
洗脳は、完成したかに見えた。
『皆、骗されてはいけない! アノニマスは暴力で世界を支配しようとする悪魔だ! 我がガレリア帝国は、この邪悪な存在を……』
『――はい、カット、カット! そこ、台詞の感情が乗りすぎ。もっと爽やかに泣きなよ、アイドル勇者様』
突如、アーサーの感動的な演説を遮り、気だるげな声が王都中に響き渡った。
「……なっ!?」
絶句するアーサー。
彼の背後の「燃え盛る村」の映像が、激しいノイズと共に切り替わった。
◇
映し出されたのは、燃える村などではなかった。
全面、真っ緑色の壁に囲まれた、巨大な撮影スタジオ(グリーンバック)。
その真ん中で、俺の格好をした偽物が、演技の指示を出しているスタッフ(帝国の将校)の前で、マヌケなポーズで高笑いをしている様子だった。
『――よぉ、視聴者諸君。アノニマスだ。帝国の映画撮影の「メイキング映像」が手に入ったから、みんなで見ようと思ってね』
俺の端末が捉えた映像が、アーサーの配信画面をミラー配信でジャックしていた。
「……は?」
「グリーンバック……? 撮影……?」
王都の民衆が呆然とする中、俺はさらに「答え合わせ」のデータを流し込んだ。
【メイキング映像(音声付き):】
偽アノニマス『(棒読みで)ガハハ、殺してやる! これでいいですか、将校殿?』
将校『ダメだ、もっと邪悪に! エフェクトで炎と悲鳴を入れるから、ここは大きな身振りで! アーサー様の「正義」を引き立てるための、大事なシーンなんだぞ!』
さらに、第24話で盗聴した、アーサーとプロデューサーの密談の音声が重なる。
『民衆は馬鹿です。センセーショナルな映像を見せれば、真実などすぐに忘れますよ』
……王都が、世界が、凍りついた。
そして次の瞬間。王都の広場から、大聖堂を揺るがすほどの、凄まじい「怒りの声」が上がった。
「騙したのか……!」
「俺たちの感情を、台本とCGで弄んでいたのか!!」
「帝国ふざけんな! アーサー様なんかただの人形じゃないか!!」
同接数は爆発的に跳ね上がる。
俺のチャンネルの同接数は、朝の炊き出しを遥かに超える、過去最高の**【15,000,000人】**を突破。
『さて、アーサー。お前の「物語」は、ここで打ち切り(オワコン)だ』
俺はカメラに向かって、そして天に向かって、指を鳴らした。
『忘れるな、帝国の豚ども。俺たち配信者(義賊)は、台本(嘘)なんかじゃ殴らない。……俺たちが殴るのは、お前らの「隠し事(真実)」だ』
ブツン。
放送が切れる直前。モニターには、焦りと恐怖で顔を歪め、サクラのコメントすら止まった地獄絵図の中で、ただ一人、呆然と立ち尽くすアーサーの姿が映っていた。
.◇
アジト『シャドウ・ハウス』。
俺はヘッドセットを外し、コーヒーを飲み干した。
「ははっ、完璧な『答え合わせ』だったね、ボス。これぞ現代のカタルシス(ざまぁ)だよ!」
ジゼルが自慢げに鼻を鳴らし、コーラを煽る。
【チャンネル登録者数:6,000,000人突破】
【投げ銭総額(本日の暴露配信中):50,000,000エール】
帝国のメンツは、これにて粉砕。アーサーはもう二度と「ヒーロー」としては表舞台に立てないだろう。
「これで終わりですね、ボス! 明日はもっとパンケーキを焼いてもらわないと!」
リズが尻尾を振って喜んでいる。
「ああ。だが、これで帝国は完全にメンツを潰された。……情報は、銃よりも相手を怒らせる」
俺はモニターに映る、帝国の作戦本部の動きを見た。
情報戦で敗北した帝国軍が、なりふり構わず、最大戦力でここ(アジト)を潰しに来るのが見える。
「ジゼル。システムのエラーはまだ解除されないか?」
「うん。兵器のロックはまだ。……でも」
ジゼルが不敵に笑い、タブレットにアジトの地図を表示させた。
「アンタの言った通り、アナログなトラップ(罠)の準備は完璧。爆薬、落とし穴、滑る床、そして……大量のタライ。……おもちゃがなくても、ボクの『技術』は、あの時代遅れのコスプレ集団(特殊部隊)を地獄に送れるよ」
俺は仮面を直し、コーヒーカップを置いた。
さあ、第四ラウンド。おもちゃ無しのタワーディフェンスの始まりだ。
「さあ、視聴者諸君。ここから先は、有料級の特番だ」




