EP 4
「軍事兵器が使えなくても、100エールの『おもちゃ』で帝国軍を制圧してみた」
「アノニマスだ! 捕らえろぉぉぉ!!」
「食料を奪い返せ!!」
配信を切った直後。第4物流倉庫のシャッターをぶち破り、完全武装した帝国兵の大部隊が雪崩れ込んできた。
数百人の兵士たちが、一斉に剣と魔法を構える。
「ボス! 囲まれたよ! どうするの、ボクのタレットは使えないんだよ!?」
ジゼルがインカム越しに悲鳴を上げる。
「慌てるな。……リズ、荷造りは終わったか?」
「はい! この『無制限収納袋』に全部詰め込みました!」
リズがポンポンと、腰に下げた小さな袋を叩く。中には王都の数万人を1ヶ月養える量のパンと肉が詰まっている。
「よし。じゃあ撤収だ」
「逃がすかぁぁ! 撃て!!」
帝国兵の指揮官が叫び、魔導士たちが一斉に炎弾を放とうとする。
だが、俺はインベントリから、あらかじめショップで買っておいた『日用品(非武装カテゴリ)』を取り出し、床に投げつけた。
「――『超強力・催涙玉(タマネギエキス100倍濃縮)』と、『爆音クラッカー(パーティ用)』だ」
【購入価格:合わせて 150 pt】
パンッ!!
という派手な破裂音と共に、強烈な閃光と催涙ガスが倉庫内に充満した。
「目がぁぁぁぁ!?」
「ごほっ、げほっ! 痛い、目が燃えるぅぅぅ!」
「なんだこの音は! 耳がキーンとするぞ!」
最新鋭の魔導装甲も、パーティ用の視覚・聴覚妨害と、粘膜を直接刺激するアナログな催涙ガスには無意味だった。
大混乱に陥り、同士討ちを始める帝国兵たち。
「リズ、天井だ!」
「はいっ!」
リズが俺の腰を抱え、人間離れした跳躍力で倉庫の天窓を蹴り破る。
夜空に舞い上がった俺たちは、そのままジゼルが待つステルス輸送機(民間用)へと乗り込んだ。
「ははっ、チョロいな。兵器がなくても、150エールの『おもちゃ』で帝国軍の足は止められる」
俺は眼下で涙と鼻水を流して転げ回る兵士たちを見下ろし、仮面の下で笑った。
◇
翌朝。王都・中央広場。
朝日が昇ると同時に、広場には信じられないほど良い匂いが漂い始めた。
「……肉の焼ける匂い?」
「あっちからだ! おい、誰か火を焚いてるぞ!」
飢えと不安で疲れ切っていた王都の民衆が、ふらふらと匂いの元へ集まってくる。
そこで彼らが見たものは、広場の中心に設営された巨大なテントと、山のように積まれた黄金色のパン、そして鉄板で豪快に焼かれる極厚のステーキ肉だった。
「やあ、王都の皆。おはよう」
俺は、ガレリア帝国の国旗(太陽の紋章)を敷いたテーブルの上に立ち、カメラを回した。
「昨日の配信の公約通り、最高級の朝食を用意したぜ。……遠慮はいらない、全部タダだ!」
「おおおおおおっ!!」
「パンだ! 本物の肉だぁぁ!」
歓声と共に、民衆が押し寄せてくる。
リズとマリア(幽霊メイド)が凄まじいスピードで配膳を行い、瞬く間に笑顔が広がっていく。
「うまい! なんだこの肉、とろけるぞ!」
「子供が、子供がやっとご飯を食べられました……! ありがとう、アノニマス!」
「アーサーの言うことなんか嘘っぱちだ! 俺たちを救ってくれたのはアノニマスだ!!」
同接数は朝から**【4,000,000人】**を突破。
俺は焼きたてのパンを齧りながら、カメラに向かってウインクした。
「聞いてるか、アーサー。お前らが王都の民を飢えさせるために溜め込んでた食料、最高に美味いぜ。……『ごちそうさま』」
◇
ガレリア帝国・放送局のスタッフルーム。
そこでは、完璧なイケメンだったはずのアーサーが、血走った目でモニターを睨みつけていた。
「くそっ……! くそぉぉぉぉっ!!」
彼の公式チャンネルのコメント欄は、今や完全に地獄と化していた。
『泥棒帝国!』
『パン返せ!』
『嘘つきヒーロー!』
『アノニマスの方がよっぽど義賊じゃねーか!』
洗脳が解けた視聴者からの大炎上。同接数は激減し、チャンネルの低評価ボタンが限界を超えて押され続けている。
「アーサー様。……このままでは、帝国の威信に関わります」
背後に立つ、冷徹な目をした帝国のプロデューサー(情報将校)が静かに告げた。
「アノニマスが『正義』になってしまった。……ならば、彼を再び『悪』に引きずり下ろすしかありません」
「ど、どうやって!? 奴は食料を配って英雄気取りだぞ!」
「簡単なことです。……『映像』を作りましょう」
将校がパチンと指を鳴らすと、背後の大型モニターに映像が映し出された。
そこには、アノニマス(の格好をした偽物)が、帝国領の村に火を放ち、泣き叫ぶ民間人を虐殺しているという、極めて精巧なフェイク映像(CG)が流れていた。
「今日のお昼の放送で、これを全世界に流します。アノニマスは残虐なテロリストであると。……民衆は馬鹿です。センセーショナルな映像を見せれば、真実などすぐに忘れますよ」
アーサーは歪んだ笑みを浮かべた。
「……素晴らしい。奴を世界中から孤立させてやる!」
だが、彼らは気づいていなかった。
そのスタッフルームの天井の隅で、小さな『ハエ型ドローン(20pt)』が、彼らの密談をすべて録音し、アジトにいるカナタへと送信し続けていることに。




