EP 3
「帝国の食糧庫に潜入してみた 〜これが『正義』の裏側です〜」
深夜、王都から数キロ離れた国境付近。
そこには帝国が誇る『第4物流倉庫』が、黒い巨体のように鎮座していた。周囲には重装備の帝国兵が巡回し、最新の魔導探知機が目を光らせている。
「……ボス、警備がガチガチだよ。あちこちに『魔力感知結界』が張り巡らされてる。ボクのハッキングデバイスも、今の低出力モードじゃ射程が足りない」
茂みに潜むジゼルが、タブレットを見ながら顔をしかめた。
「なら、物理的に近づくしかないな。……リズ、いけるか?」
「お任せください。……『呼吸、停止』」
リズが短く唱えると、彼女の気配が完全に消えた。
彼女は銀髪の影となって、警備兵の視界の隙間を縫うように疾走する。音もなく、風よりも速く。
「――セット完了」
数秒後、インカムからリズの声。
彼女は結界の中継器に、ジゼル特製の小型受信機を貼り付けていた。
「よし、回線ジャック成功。……今のボクには武器は作れないけど、通信をいじるくらいなら朝飯前だよ」
ジゼルが指を躍らせると、倉庫の監視カメラ映像が俺の端末へと流れ込んできた。
「さあ、お宝拝見だ」
◇
同じ頃、王都広場の巨大モニター。
『太陽の騎士アーサー』は、目に涙を浮かべて「演説」の佳境に入っていた。
「……信じてほしい、王都の友よ! 我が帝国は、アノニマスの脅威を排除し、一日も早く君たちにパンを届けるために、不眠不休で交渉を続けている! 彼は倉庫を焼き、道を塞いでいるのだ……!」
アーサーの美しい顔がアップになり、その背後には「アノニマスによって焼かれたとされる偽の食糧庫」の映像(CG)が流れる。
信じ込んだ民衆の悲鳴と、アノニマスへの怒号が広場に満ちた。
『――よぉ、アーサー。熱演中、悪いな』
突如、アーサーの背後の映像が、激しい砂嵐と共に切り替わった。
「……なっ!?」
絶句するアーサー。
映し出されたのは、真っ暗な、しかし巨大な「本物の倉庫」の内部だった。
『視聴者諸君。アノニマスだ。……今、アーサーは「俺が倉庫を焼いた」って言ったよな?』
俺の端末が捉えた映像が、王都中の全モニターを強制ジャックした。
カメラを構える俺の足元には、高く積み上げられた木箱の山。
「リズ、その箱を一つ開けてみろ」
「了解です! ……よいしょっ!」
リズがガントレットで蓋をこじ開ける。
中から現れたのは、黄金色に輝く大量の小麦。そして、焼きたてを魔法で凍結保存したであろう、数万個のパンの山だった。
「……嘘だろ?」
「アノニマスの後ろにあるのは……全部、食い物か?」
王都の民衆が息を呑む。
俺はカメラをズームし、箱に刻印された『王都・救済用』という文字をハッキリと映し出した。
『見ての通りだ。帝国は「アノニマスのせい」と言いながら、こっそり食料を溜め込んでいた。……それも、わざと「王都向け」の刻印をつけたままな』
「ち、違う! それはアノニマスの捏造だ! 映像を止めるんだ!!」
アーサーがカメラに向かって叫ぶが、彼の完璧なイケメンフェイスは、焦りと怒りで醜く歪んでいる。その「生の表情」こそ、俺が見せたかったものだ。
『捏造、ね。……じゃあ、もう一つ面白いものを見せてやる。ジゼル、音声データを流せ』
スピーカーから、アーサーがミサ(放送)の直前に、裏でスタッフと話していた会話が流れる。
『――おい、王都のパンの値段はまだ上がるか? もっと釣り上げろ。飢えれば飢えるほど、奴らは俺に縋るようになる。アノニマスを悪者に仕立て上げる絶好のチャンスなんだからな』
……王都が、凍りついた。
そして次の瞬間、大聖堂を揺るがすほどの、凄まじい「怒りの声」が上がった。
「アーサー……貴様ぁぁぁ!!」
「俺たちの腹を空かせて、人気取りの道具にしていたのか!!」
『さて、アーサー。お前の「物語」はここで打ち切りだ』
俺はカメラを直し、不敵に笑った。
『今から、この倉庫にある食料を全て「回収」する。……明日の朝、王都の広場で特大の炊き出しをやるぜ。帝国から奪った「最高級の肉とパン」をな!』
同接数が爆発的に跳ね上がる。
【同接:8,500,000人】
アーサーのチャンネルから、何百万人という視聴者が俺の方へ雪崩れ込んできた。
「リズ、全品お持ち帰りだ!」
「はい、ボス! ……お腹いっぱいの未来が見えてきました!」
絶叫するアーサーと、呆然とする帝国軍。
俺は放送を切る直前、カメラに向かって指を鳴らした。
『正義のヒーローごっこは、もう終わりだ。……これからは、リアル(現実)の時間だぜ』




