EP 2
「国家公認ストリーマー・アーサーと、見えない壁(経済封鎖)」
「――王都の皆。今、君たちの食卓からパンが消えようとしている。それはなぜか?」
王都広場の巨大モニター。ガレリア帝国の『太陽の騎士アーサー』は、悲しげに眉を寄せ、黄金の髪を風に揺らした。背景には白亜の城と、眩いばかりの光のエフェクト。
「それは、テロリスト・アノニマスが我が帝国の輸送路を脅かしているからだ。彼は自らの力を誇示するために、君たちの生活を人質に取っている。……だが安心してほしい。我が帝国は、アノニマスを拒絶する善良な市民にのみ、特例で食料を無償提供する準備がある!」
画面の下には、キラキラした装飾と共に『帝国救済基金への登録はこちら』というリンクが踊る。
コメント欄は、サクラと洗脳された大衆の絶賛で埋め尽くされていた。
『アーサー様、なんて慈悲深い……!』
『アノニマス、最低だな。結局、街を壊しただけじゃないか』
『やっぱり国家が一番信頼できるわ』
◇
「……ひっどい。全部デタラメじゃない」
アジト『シャドウ・ハウス』。ジゼルがモニターを睨みつけ、ポテチの袋を握りつぶした。
「輸送路を止めてるのは帝国の方だよ! 関所を封鎖して、わざと食料が入らないようにしてるんだ。それをボスのせいにするなんて……」
「しかも、あのアホ騎士の肌、魔導映像(CG)で補正しすぎです。あんなに光ってる人間、いるわけありません!」
リズも空腹で機嫌が悪い。今日、王都の市場ではパンの価格が昨日の3倍に跳ね上がっていた。
「ボクの防衛タレットさえ動けば、あんな放送塔、一撃で消し飛ばしてやるのに……!」
「落ち着けジゼル。武器が使えないなら、情報で殴る。それがこの第3章のルールだ」
俺は椅子に深く腰掛け、アーサーの配信データを分析していた。
同接数は500万。俺の全盛期に並ぶ勢いだ。国家が魔法放送網を独占し、強制的に王都の全端末に映像を流し込んでいる。いわば「国家規模のスパム配信」だ。
「帝国は焦ってるんだよ。教団が潰れたことで、自分たちの『裏の利権』が暴かれるのを恐れている。だから、俺を『共通の敵』に仕立て上げて、王都の民衆をコントロール下に置こうとしているわけだ」
俺は指をパチンと鳴らし、ショップから**【高感度・魔導偵察ドローン(非武装型):50,000pt】**を数機購入した。
軍事用はロックされているが、カメラ機能だけの民生用なら問題なく買える。
「ジゼル。このドローンを、帝国との国境にある『第4物流倉庫』へ飛ばせ。……そこには、王都に届くはずだった数ヶ月分の食料が眠っているはずだ」
「えっ、強盗するの? でも、武器が……」
「武器はいらない。俺たちがやるのは『実況』だ」
俺は不敵に笑い、仮面を被った。
「アーサーは『アノニマスのせいで食料が届かない』と言った。だったら、俺が『帝国の倉庫に山積みのパン』を全世界に生中継してやればどうなる?」
「……あっ。アーサーの嘘が、その場でバレる!」
「正解。さらに、その食料を俺たちが『回収』して、王都で炊き出しをすれば――民意は一瞬でひっくり返る」
俺は端末を操作し、自身のチャンネルに予約枠を入れた。
【タイトル:帝国公式の「嘘」を暴く。~豪華客船(笑)の倉庫に潜入SP~】
【待機人数:10,000人(微増中)】
「リズ。お前の仕事は、倉庫の扉を音もなく『開ける』ことだ。暴れる必要はない。ただ、真実の蓋を開けるだけでいい」
「お任せください、ボス! お腹が空いてるので、扉くらいなら食べちゃえるかもしれません!」
「よし。……さあ、偽物のヒーローに、プロの配信者の厳しさを教えてやろうぜ」
俺の目は、モニター越しに微笑むアーサーを捉えていた。
国家という巨大な「企業勢」が、個人勢の俺を潰しに来る。
これほど「炎上」させがいのある舞台は他にない。




