第三章 『帝国プロパガンダ編』
「1億エール使ったら垢バン(武器没収)寸前になった件 ~そして現れる企業勢~」
王都の空は、今日も雲一つなく晴れ渡っていた。
あの日、宇宙からの極大レーザー『衛星軌道砲』が教皇と天使を蒸発させてから、王都には平穏が戻っていた。教団の残党は捕縛され、国王すらも俺たちアジト周辺を『不可侵領域』として認めた。
完璧な勝利。これ以上ないハッピーエンド……のはずだった。
「……え? ちょっと待ってボス、これどういうこと!?」
アジトの地下ラボから、ジゼルの悲鳴のような声が響いた。
俺がコーヒーを片手にラボへ降りると、彼女はメインモニターを指差して頭を抱えていた。
「防衛タレット群、全部オフライン! ドローンも起動しないし、魔導ライフルなんてただの鉄パイプになってる! 外部からのジャミングじゃない、システムそのものがロックされてるんだ!」
「落ち着けジゼル。お前の機械が壊れたわけじゃない。……こっちを見ろ」
俺は空中に、自身のステータスウィンドウを展開した。
そこには、見慣れない赤い文字のアラートが点滅していた。
【警告:戦略級兵器の使用によるシステム(世界律)への過負荷を検知】
【ペナルティとして、配信者ショップの『軍事・兵器カテゴリ』を30日間凍結します】
【※日用品、情報収集ツール、回復アイテム等は通常通り購入可能です】
「はぁぁぁ!? なにそれ! チート兵器売っておいて、使ったらペナルティって運営理不尽すぎない!?」
ジゼルがバンバンと机を叩く。
「ま、仕方ないさ。あんなものを連発できたら、この世界が3日と持たずに終わっちまう。世界の自浄作用みたいなもんだろう」
「ボス、笑い事じゃないよ! もし今、軍隊規模の敵が攻めてきたら、ボクとリズの近接戦闘だけで守り切るなんて不可能……」
「問題ない」
俺はコーヒーを一口飲み、仮面を指で弾いた。
「強力な武器が使えなくなったなら、頭と話術で戦うゲームに戻るだけだ。元々俺は、剣も魔法も使えないレベル1の『ただの荷物持ち』だったんだぜ? ……むしろ、この制約、面白くなってきた」
俺の不敵な笑みを見て、ジゼルは呆れたようにため息をついた。
「……アンタのそういう変態的なポジティブさ、嫌いじゃないけどね。とりあえず、アナログなトラップでも仕掛けておくよ」
◇
その夜。
俺はいつものように、定例の『雑談&情報提供配信』の枠を取った。
最近は王都の再建状況や、悪徳商人のタレコミなどを視聴者から集める、平和な(俺にしてはだが)配信が続いていた。
『――よう、夜更かしの視聴者諸君。アノニマスだ。今日はどんな面白いネタがある?』
俺はカメラに向かって語りかけた。
だが、すぐに違和感に気づいた。
「……ん?」
視界の端に表示される同接(同時接続数)の上がり方が、異常に遅い。
いつもなら開始1分で10万人は超えるのに、今日はまだ3万人をウロウロしている。しかも、コメント欄の雰囲気もどこかおかしい。
『アノニマス、お前本当に王都を救ったのか?』
『なんか最近、お前の配信つまんねーな』
『帝国の放送見たか? お前、テロリスト扱いされてるぞ』
『あっちの配信の方がエフェクトすげえし、顔出しでイケメンだしな』
俺は眉をひそめた。
俺のチャンネルの視聴者が、明らかに「他の場所」へ流れている。しかも、俺に対する不信感を植え付けられている。
「ジゼル。……隣の『ガレリア帝国』で、何か新しい動きはあったか?」
俺はインカムでラボに繋いだ。
『あ、ちょうど報告しようと思ってたところ! 昨日から急に、帝国の国営放送波が強力になって、王都の魔導モニターにも映像が流れ始めてるんだ。しかも……』
ジゼルの言葉を待つまでもなく、俺の『遠隔視』が、王都の広場にある巨大モニターの映像を捉えた。
『――嘆き悲しむ王都の民よ、どうか希望を捨てないでほしい!』
モニターに映し出されていたのは、金髪碧眼、純白の鎧に身を包んだ、絵に描いたような「完璧なイケメン騎士」だった。
背景には、荘厳な城と、美しく舞い散る光の粒子。明らかにプロの手による高度な魔導映像編集が施されている。
『私はガレリア帝国・第一騎士団長にして、公式宣伝大使のアーサー! 現在王都を支配しているという、仮面のテロリスト「アノニマス」……。彼の卑劣な暴力から、我々帝国軍が必ずや君たちを解放してみせよう!』
カメラ目線で、爽やかに、しかし力強く宣言するアーサー。
その映像の下には、驚異的な同接数が表示されていた。
そして何より、コメント欄には『アーサー様素敵!』『アノニマスなんかよりずっと正義の味方だ!』という、統制された大量のサクラコメント(Bot)が乱舞していた。
「……なるほどな」
俺は自分の配信を一時ミュートにし、低く笑った。
剣と魔法の力押しじゃ俺に勝てないと悟った帝国が仕掛けてきたのは、まさかの「メディア戦」。
圧倒的な国家予算、プロの編集チーム、そして見栄えのいい演者を使った、**『超大型の企業勢チャンネル』**の投入だ。
「相手が情報戦で俺の首を絞めに来るってわけか。……上等だ」
銃が使えない今、これは最高の暇つぶしになる。
「ジゼル、リズ。作戦会議だ」
俺は立ち上がり、仮面の奥で目をギラつかせた。
「国家公認のアイドル勇者様を、完膚なきまでに『炎上』させてやる」




