EP 8
「教皇様が自慢の『人工天使』をけしかけてきたので、ワンパンで粗大ゴミにしてみた」
「さあ、我が愛しき天使たちよ! 神の敵を八つ裂きにしなさい!」
大聖堂の地下深く。教皇ウルバヌスの号令と共に、3体の『人工天使』が咆哮を上げた。
子供の体に魔獣の四肢を継ぎ接ぎし、血まみれの白い翼を生やしたおぞましいキメラ。S級モンスターすら凌駕する圧倒的な魔力が、地下室の空気を震わせる。
「ギギ……ガァァァァァッ!!」
一体のキメラが床を蹴り、不可視の速さでリズへと襲いかかった。
その鋭い爪が、リズの細い首を刎ね飛ばす――かに見えた。
「――遅いです」
ドバアァァァン!!
破裂音が響き渡る。
キメラの体が、空中で「く」の字に折れ曲がっていた。
リズの銀色のガントレットから放たれた、ただのストレート。それだけで、キメラの分厚い魔力障壁ごと肋骨が粉砕され、後方の培養槽に激突して緑色の液体をぶち撒けた。
「なっ……!?」
「神の力とか言ってますけど、動きが雑すぎます。山にいるイノシシの方がまだマシです!」
リズはプイッとそっぽを向き、残る2体に向けて地を蹴った。
速すぎる。教皇の目には、銀色の閃光が走ったようにしか見えなかっただろう。
「オラァッ!!」
「邪魔ですッ!!」
右ストレートで2体目の頭部を吹き飛ばし、回し蹴りで3体目の胴体を真っ二つに両断する。
戦闘時間、わずか5秒。
教皇が何年もかけて作り上げた「最高傑作」たちは、一瞬にしてただの肉塊(粗大ゴミ)へと変わった。
「ば、馬鹿な……。数百人の孤児の命と、数億エールの研究費を注ぎ込んだ、我が天使たちが……小娘の拳一つで……!?」
教皇が黄金の杖を取り落とし、ワナワナと震え出す。
「ボクの『月狼の爪』を舐めないでよね。装甲貫徹に特化した魔導ブースト付きだ。あんな継ぎ接ぎのハリボテ、豆腐と変わらないよ」
ジゼルが鼻で笑いながら、タブレットを操作する。
「ボス、こっちの準備も完了。サーバーのプロテクト、全部ぶち抜いたよ」
「よし。じゃあ『本番』といこうか」
俺はカメラのレンズを、絶望に顔を歪める教皇へと向けた。
「教皇ウルバヌス。お前、さっき自分で言ってたよな。『孤児を使った生体実験』だって。……その自慢話、俺だけじゃなくて『王都の全員』に聞かせてやったらどうだ?」
「……は?」
俺は指を鳴らし、教団のメインサーバーをジャックした映像を、王都中の魔導モニターへ一斉送信した。
『――さあ、哀れな異端者よ。貴方のその「配信」とやらで、我が天使たちの初陣を世界に知らしめて差し上げましょう』
画面に映し出されたのは、数分前、教皇自身が得意げにキメラを自慢していた姿だった。
そしてそれに続き、ジゼルがハッキングで引き出した『孤児たちの実験リスト』と『裏帳簿』のデータが次々とスクロールしていく。
……深夜の王都が、爆発した。
コメント欄の同接数は、驚異の【2,000,000人】を突破。
『は? 孤児院の子供を化け物にしてたの!?』
『吐き気がする。マジで胸糞悪い』
『俺たちのお布施、こんなことに使われてたのかよ!』
『教団は悪魔の巣窟だ!! ふざけんな!!』
怒り、憎悪、そして殺意。
王都の民衆のヘイトが、教皇という一個人に集中する。
俺のユニークスキル【扇動者】が、その莫大な負の感情を『魔力』と『スパチャ』に変換し、俺の体内へと雪崩れ込んでくる。
【システム:視聴者より「怒りのスーパーチャット」が殺到しています】
【現在の魔力出力:計測不能】
【獲得賞金:100,000,000エールを突破】
「き、貴様ぁぁぁ!! 何ということを!!」
教皇が狂乱し、頭を抱えて叫ぶ。
自分が信者たちを騙し、王都を支配していたはずが、たった一つの「配信」によって全てを暴かれ、国中の敵に回ったのだ。
「これで終わりだ、教皇。……お前の築き上げた虚構の権威は、今日、俺たちの『カガク』と『配信』が完全に破壊した」
俺はインベントリから、スパチャで交換した『対魔導捕縛チェーン』を取り出そうとした。
こいつを捕まえて、王国の騎士団に突き出せば完全勝利だ。
だが――。
「……終わらん。終わらんぞ、こんなところでぇぇぇ!!」
教皇の目から、正気が完全に失われていた。
彼は血走った目で天井を睨みつけ、懐から黒く濁った『宝玉』を取り出した。
「ボス! あれヤバいよ! 大聖堂の地下に溜まっていた『信者から吸い取った生命力』の巨大な塊だ!」
「何をする気だ……?」
教皇は狂ったように笑いながら、その宝玉を自身の胸に突き立てた。
「神よ! 真なる神よ! 愚かなる民衆共に、絶対的な裁きの光を!!」
ゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!
大聖堂全体が、巨大な地震のように揺れ始めた。
教皇の体から、眩いほどの黒い光が溢れ出し、地下の天井を突き破って夜空へと立ち昇っていく。
そして、王都の上空の雲が渦を巻き、空間そのものが引き裂かれた。
『――アァァァァァァァァ……』
空から響き渡る、鼓膜を破るような不協和音。
次元の裂け目から現れたのは、王都を覆い尽くすほど巨大な、六枚の光の翼を持つ『何か』だった。
顔のないのっぺらぼうの巨人が、天から王都を見下ろしている。
「あ、あはははは! 見よ! これぞ禁忌の大召喚術『神罰の天使』!! 王都ごと、貴様らを灰塵に帰してくれるわ!!」
教皇の体がミイラのように干からびていく。
自らの命と、王都の信者たちから奪った生命力をすべて代償にして、神話級の化け物を喚び出したのだ。
「ボス……! あれ、教皇の命じた通りに王都を吹き飛ばす気だよ! 熱源反応、この国の最高峰の山を消し飛ばすレベル!」
ジゼルが青ざめて叫ぶ。
空に浮かぶ巨大天使の手に、太陽のように輝く極大の光弾が生成されつつあった。
あんなものが落ちてくれば、アジトも王都も、明日には更地だ。
「……上等じゃねえか」
俺は仮面を直し、空を見上げた。
「リズ、ジゼル。……ちょっと買い物を(スパチャを)するぞ」
「ボス?」
俺の懐には、今さっき数百万人の視聴者から叩きつけられた『怒りのスパチャ(1億エール)』がある。
神殺しの準備には、十分すぎる金額だ。
「視聴者諸君。……ここから先は、有料級の特番だ。あのデカブツを、俺たちのカガクで撃ち落とす」




