EP 7
「神聖なる大聖堂の地下に潜入したら、ヤバすぎる『裏ビジネス』の現場だった件」
王都の中心にそびえ立つ、白亜の『大聖堂』。
聖光教団の総本山であり、普段なら数万の巡礼者で賑わう神聖な場所だ。
だが今夜、その周囲は異様な静けさに包まれていた。先日の「奇跡の種明かし配信」による暴動騒ぎで、信者たちが寄り付かなくなったからだ。
「……警備の数、スカスカだね。聖騎士団が全滅したのがよっぽど効いてるみたい」
大聖堂の屋根の上。
光学迷彩マント(ジゼル特製・150,000pt)を羽織った俺たちは、月明かりに溶け込みながら眼下を見下ろしていた。
「ボス、正面からドアぶち破りますか?」
「バカ言え、リズ。今日は『空き巣』じゃなくて『調査』だ。……ジゼル、いけるか?」
「愚問。ボクを誰だと思ってるの」
ジゼルが手元のタブレット端末を叩く。
大聖堂の周囲には、物理的な壁よりも厄介な「対物理・対魔法の多重結界」が張られている。だが――。
「教団の結界術式、ベースは50年前の古い規格だ。ボクの作った『遅延型ジャミング・パルス』を流し込めば、システムが『正常』だと誤認したまま、3分間だけ穴を開けられる。……ほら、開いたよ」
「さすが天才。行くぞ」
俺たちは音もなく屋根から飛び降り、ステンドグラスの窓をすり抜けて大聖堂の内部へ侵入した。
◇
豪華絢爛な礼拝堂を抜け、俺たちが目指したのは『地下』だ。
ジゼルが事前に教団のネットワークから「奇妙な魔力消費の偏り」を検知していた場所である。
隠し扉をリズが無理やり(しかし音を立てずに)こじ開け、長く薄暗い螺旋階段を降りていく。
空気は冷たく、血と薬品の混じったような嫌な臭いが漂ってきた。
「……なんだ、ここは」
地下に広がっていたのは、祈りの場などではなかった。
無機質な金属の壁。巨大な魔力炉。そして、等間隔に並んだ数十本の『ガラス円柱(培養槽)』。
まるで、近代的な生体実験のプラントだ。
「うわ……悪趣味。これ、全部『魔物』のパーツを繋ぎ合わせたキメラだね」
ジゼルが培養槽を見上げて顔をしかめる。
緑色の液体の中には、狼の胴体に蛇の頭をくっつけたような、おぞましい肉塊が浮かんでいた。
「教団がわざわざ地下で魔物の実験? 何のためだ」
「……ボス、こっち見て」
ジゼルがメインコンソールに接続し、データを引き出す。
そこには、信じられない記録が残されていた。
【プロジェクト・エンジェル:進捗状況】
【被験体:孤児院より提供された素体100名】
【目的:魔物の因子と人間の魂を融合させ、絶対的な従順さを持つ『人工天使』を量産する】
「人工天使、だと……?」
「しかも素材は……人間!?」
リズが息を呑み、拳をワナワナと震わせた。
俺も仮面の下で目を細める。
教団は、表で信者から「お布施」という名の金を巻き上げ、孤児院を運営して「慈悲」をアピールしていた。
だがその裏では、集めた金でこんな施設を作り、孤児たちを「実験材料」として消費していたのだ。
「……胸糞悪いな。あの豚司教や腹黒聖女もクソだが、この教団の根っこ(教皇)は、根本的に狂ってる」
「ボス。これ、どうする?」
ジゼルが俺を見る。
俺は端末を取り出し、『遠隔視』のカメラを起動した。
「決まってるだろ。……『全部』撮る。帳簿も、実験記録も、この培養槽もだ。教団の連中がどんなツラして『神の愛』を騙っていたのか、全世界の連中に見せてやる」
俺はカメラを回しながら、施設内の証拠を次々とインベントリに収納していく。
その時。
『――ふむ。ネズミが紛れ込んだと思えば、話題の配信者でしたか』
背後から、ひどく穏やかで、しかし芯の凍るような声が響いた。
振り返ると、地下への入り口に、法衣をまとった老人が立っていた。
教団の最高権力者。
教皇・ウルバヌスだ。
「……教皇様自らのお出ましか。こんな地下の臭い部屋で、神への祈りでも捧げていたのか?」
「ええ、祈っておりましたとも。我が『天使たち』の完成をね」
ウルバヌスは狂気を孕んだ笑みを浮かべ、手に持った黄金の杖を床に突いた。
「聖女ルミアの小手先の奇跡など、どうでもいい。あれは資金集めのためのただの客寄せパンダに過ぎません。……真の神の力は、この『プロジェクト・エンジェル』によってもたらされるのです」
ゴゴゴゴゴ……!
教皇の背後から、異形の影が数体、這い出てくる。
先ほど培養槽に浮かんでいたのと同じ、人間と魔物を掛け合わせた『人工天使』たちだ。
その背中には、血まみれの歪な白い翼が生えている。
「さて、哀れな異端者よ。貴方のその『配信』とやらで、我が天使たちの初陣を世界に知らしめて差し上げましょう」
「ボス、あいつら……魔力量が規格外だよ! S級モンスターの比じゃない!」
ジゼルが警告を発する。
だが、リズはすでに一歩前に出て、銀色のガントレットを構えていた。
「天使だろうがキメラだろうが、子供をいじめる奴は……私が全部、ぶっ飛ばします!」
「ああ、頼むぜリズ。……俺は、この『最高のスクープ』を編集させてもらう」
俺はカメラのピントを、不気味に笑う教皇に合わせた。
さあ、第三ラウンドの始まりだ。
神様気取りの狂人を、現実(暴力と情報)で叩き落としてやる。




