EP 6
【聖騎士団の突撃? いいえ、ただの的当てゲームです】
王都の郊外、深い森に囲まれたアジト『シャドウ・ハウス』。
その正門前に、白銀の鎧に身を包んだ数百の軍勢が整列していた。聖光教団が誇る最強の武力、『聖騎士団』である。
「――見よ、あの呪われた洋館を!」
部隊を率いる聖騎士長が、馬上から剣を突き上げて叫んだ。
「あの中に、我らが聖女様を侮辱し、民衆を惑わした悪魔の使いが潜んでいる! 神の裁きを下し、一匹残らず浄化せよ!」
おおおおおおっ!
狂信的な雄叫びと共に、聖騎士たちが一斉に突撃を開始する。
先頭を行くのは、分厚い魔力盾を展開した重装甲の盾兵部隊。その後ろから、攻撃魔法の詠唱を終えた魔導兵が続く。
王国の正規軍すら容易く蹂躙する、隙のない完璧な陣形だった。
――だが、ここは既に剣と魔法の常識が通用する場所ではない。
アジトの地下モニター室。
俺はコーヒーのマグカップを置き、隣でキーボードを叩くジゼルに視線を向けた。
「来たな。……お客さんの数は?」
「約三百ってところだね。密集陣形での正面突撃。……バカなの? 近代戦でそんな的の集まりみたいな真似、自殺行為だよ」
ジゼルは呆れたようにため息をつき、エンターキーを叩いた。
「防衛システム、フェーズ1起動。――『お掃除』開始」
その瞬間、屋敷の庭の至る所から、偽装されていた無数の銃身が姿を現した。
ジゼルが独自に設計・開発した、六銃身のガトリング式自動迎撃タレット群である。
外で突撃を指揮していた聖騎士長が、突如現れた金属の筒を見て鼻で笑う。
「フン、なんだあの奇妙な鉄パイプは? あんなもので我々の絶対防壁が抜けるものか!」
「撃てぇ!」という命令と共に、魔法部隊の放った炎弾が屋敷へと殺到する。
しかし、炎は屋敷を覆う不可視の結界に触れた瞬間、波紋だけを残して完全に霧散した。
「なっ……魔力攻撃が一切通じないだと!?」
驚愕する聖騎士長。
だが、彼らが絶望するのはここからだった。
ヴゥゥゥゥン……!
タレットの六つの銃身が、モーター音を響かせて高速回転を始める。
「排莢よし、給弾よし。使用弾薬、5.56ミリ規格ミスリル・フルメタルジャケット弾」
モニター越しに、ジゼルが冷徹な声で告げる。
「毎分3000発の『神罰』を味わいな」
ズガガガガガガガガガガッ!!
夜の森を切り裂くような、凄まじい発砲音。
タレット群の銃口から、一斉に猛烈なマズルフラッシュが噴き出した。
放たれた銃弾の雨は、一条の光の線となって聖騎士団の陣形に突き刺さる。
「ぐあぁぁぁぁっ!?」
「ば、馬鹿な! 盾が、一瞬で紙切れのように……ッ!」
教団が誇る魔力盾など、圧倒的な運動エネルギーの前では無意味だった。
ミスリルでコーティングされた弾頭は魔法の干渉を無効化し、分厚い白銀の鎧ごと、聖騎士たちを次々と薙ぎ払っていく。
それは戦闘ですらなかった。完全な一方的蹂躙である。
わずか数十秒。
タレットの銃身が赤熱し、空の薬莢が山のように積もった頃には、正門前に立っている聖騎士は一人もいなかった。
数百の精鋭部隊が、一歩も屋敷に近づくことすらできずに無力化されたのだ。
「ひっ、ひぃぃぃ……! な、なんだあの化け物じみた武器は……!」
後方で難を逃れた聖騎士長が、腰を抜かして地面を這いずっている。
その頭上に、ドスン! と凄まじい着地音と共に銀色の影が降り立った。
「あーあ、もう終わっちゃいました? ボス、私も運動したいです!」
月明かりを背に現れたのは、銀髪の獣人少女、リズだ。
彼女の両腕には、威圧的な光を放つ『月狼の爪』が装着されている。
「あ、悪魔め……! 近寄るな!」
聖騎士長が震える手で剣を振り回すが、リズはそれを指二本でつまんでへし折った。
「私は悪魔じゃありません。アノニマス様のお手伝いです!」
ニカッと無邪気に笑ったリズの裏拳が、聖騎士長の腹部にめり込む。
「がぼぁッ……!?」
白目を剥いて吹き飛び、大木に激突して聖騎士長は沈黙した。
「……ミッション・コンプリート。残存敵対勢力ゼロだよ、ボス」
モニター室で、ジゼルがドヤ顔でVサインを作った。
俺は彼女の頭を軽く撫でてやる。
「上出来だ。これでお前も立派な『義賊団』の一員だな」
「ふ、ふん。ボクの技術からすれば、こんなの準備運動にもならないよ」
照れ隠しにそっぽを向くジゼル。
俺は端末を操作し、今しがた全滅した聖騎士団の惨状(もちろん、死なない程度に手加減はさせている)を、教団の本部へ映像データとして送りつけた。
メッセージは一つだけ。
『次は、そっちに行く』
教皇とルミアの震え上がる顔が目に浮かぶようだ。
さあ、舞台は整った。
狂った宗教組織の最奥に潜入し、最後の大暴露といくか。




