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EP 5

「聖女様の『奇跡』が手品以下だったので、本物の魔法カガクを見せてみた」

 王都・中央広場。

 信者たちの熱狂が最高潮に達したその瞬間、大聖堂の巨大モニターと、教団の公式配信画面が突如として暗転した。

「……え?」

「なんだ? 魔導具の故障か?」

 ざわめく数万人の群衆。

 バルコニーに立つ聖女ルミアとガロ司教も、怪訝な顔でモニターを振り返る。

『――あー、テステス。王都の迷える子羊たち、ごきげんよう』

 真っ黒だった画面に、ノイズと共に「道化の仮面」が映し出された。

 アノニマスだ。

「なっ……貴様、悪魔の配信者!?」

「なぜ教団の回線に……!」

 ガロ司教が血相を変えて叫ぶ。

 俺はアジトのスタジオで、コーヒーを片手にマイクへ向かった。

『今日は聖女様の素晴らしい「奇跡」の配信だと聞いてね。ぜひ俺ともコラボさせてもらおうと思って、少しだけシステムをお借りした』

「ふざけるな! 今すぐ切れ! 魔法部隊は何をしている!!」

 司教の怒号が響くが、遅い。

 ジゼルの組んだハッキングプログラムは、教団の底辺エンジニアが束になっても解除できない。

『さて、視聴者諸君。さっきの素晴らしい「奇跡」、もう一度見たいよな?』

 俺はキーボードを叩いた。

 画面が切り替わり、先ほどルミアが少年の病を治した瞬間の映像リプレイが流れる。

『でも、普通の映像じゃつまらない。……俺の【魔力視モード】のフィルターをかけてみよう』

 映像が青白く反転する。

 そこには、ルミアが杖を掲げた瞬間、最前列で祈る信者たちの体から、生命力(光の糸)がごっそりと吸い上げられ、杖を経由して少年に注がれるという、おぞましい光景がはっきりと映し出されていた。

「……え?」

「な、なんだこれは……」

 広場が水を打ったように静まり返る。

 コメント欄も一瞬のフリーズの後、大爆発した。

『え、うそだろ』

『信者の命を吸い取って治してる!?』

『それってただの「命の移動」じゃん!!』

『吸われた人、どうなるんだよ……』

『ご名答』

 俺は冷酷に事実を告げる。

『奇跡でもなんでもない。ただの違法魔道具(欠陥品)だ。お前ら信者は、金だけでなく「寿命」まで教団に吸い取られてるんだよ』

「ち、違う! それは悪魔の作り出した幻影です!!」

 ガロ司教が必死に叫ぶ。

 ルミアも顔面蒼白になりながら、愛想笑いを浮かべた。

「そ、そうよ! 騙されないで皆! 私は皆を愛しているわ! そんな酷いこと、するはずないじゃない!」

『愛している、ねぇ』

 俺は意地悪く笑い、次の音声ファイル(再生ボタン)に指を置いた。

『じゃあ、さっきのミサの直前、聖女様が控室でなんて言ってたか、聞いてみようか』

 ――ポチッ。

 広場の大スピーカーから、ルミアの甲高い声が響き渡った。

『あー……ダル。マジでダルい。外の連中、汗臭いんだけど』

『あいつらの小銭巻き上げるために、私がわざわざこんな重い杖振ってやってるのよ?』

『チョロすぎwww これで今日も最高級のスイートに泊まれるわ』

 ……沈黙。

 それは、数万人の信仰心が、音を立てて崩れ去った瞬間だった。

「あ、あ、あああ……」

 ルミアが膝から崩れ落ちる。

 広場の信者たちは、怒りと絶望に顔を歪め、バルコニーの「元・聖女」を睨みつけた。

「騙したのか……!」

「俺の全財産を返せ!!」

「俺の妻は、お前たちのミサに通ってから急に倒れたんだぞ! 命を吸ってたのか!!」

 暴動寸前だ。教団の護衛騎士たちが慌てて盾を構える。

『――さて、ペテンの種明かしはここまでだ』

 俺の言葉に、再び全員の視線がモニターに集まる。

『金と命を奪うのが教団の「奇跡」なら、俺はタダで「本物の奇跡カガク」を見せてやる』

 俺が合図を送ると、王都の上空に、ジゼルが開発した数十機の『散布ドローン』が飛来した。

「な、なんだあれは!?」

「空飛ぶ鉄の鳥……?」

 ドローンから、淡い緑色の霧が広場全体に降り注ぐ。

 それは、ジゼルが徹夜で調合し、俺がスパチャで買った最高級の回復薬を微粒子化した『エリア・ヒール・ミスト』だ。

 霧を浴びた人々の体から、疲労が抜け、小さな傷が塞がり、病の痛みが引いていく。

 誰の命も奪わない、純粋で圧倒的な「治癒」。

「……痛みが、消えた……?」

「杖なんか使わずに、数万人を同時に治したぞ……!」

 人々は天を仰ぎ、仮面のアノニマスの力に平伏した。

『忘れるな、王都の民よ。神は教会の中にはいない。お前たちの祈り(スパチャ)は、教団の豚どもを太らせるためのものじゃない』

 俺はカメラに向かって、指を鳴らした。

『俺がアノニマスだ。また次の配信で会おうぜ』

 プツン。

 モニターが通常画面に戻る。

 後に残されたのは、完全に信用を失い、暴徒と化した群衆に囲まれる教団の姿だけだった。

          ◇

 アジトのスタジオ。

 俺はヘッドセットを外し、背伸びをした。

「ふぅ……完璧なハッキングだったな、ジゼル」

「当然でしょ。ボクを誰だと思ってるの」

 ジゼルが自慢げに鼻を鳴らしながら、コーラを煽る。

【チャンネル登録者数:1,500,000人突破】

【投げ銭総額(本日のミサジャック中):25,000,000エール】

 教団に集まるはずだった寄付金が、全部俺のチャンネルに流れてきた計算だ。

「大勝利ですねボス! あースカッとしました!」

 リズが尻尾を振って喜んでいる。

「ああ。だが、これで教団は完全にメンツを潰された。次はなりふり構わず、最大戦力でここ(アジト)を潰しに来るぞ」

 俺はモニターに映る、王都の地図を見た。

 大聖堂から、武装した集団が続々と出撃準備を進めているのが見える。

 教団の最強武力、『聖騎士団』だ。

「ジゼル。迎撃の準備は?」

「タレットの弾薬装填ヨシ。地雷原のアクティブ化ヨシ。……いつでも歓迎するよ、あの時代遅れのコスプレ集団」

 俺は仮面を机に置き、不敵に笑った。

 さて、第2ラウンド。タワーディフェンスの始まりだ。

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