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彼女にフラれた俺は、封印された何かと暮らすことになった  作者: 雷覇


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第31話:勝利後の戦い

場面は地上へと戻る。

焦げた大地の上、戦いの余韻がまだ肌に焼き付く中、静馬はゆっくりと構えを解いていた。


だが彼の中では、別の戦いが始まっていた。

仮面越しに、ヴァルスの消滅を見届けた。

心に残ったのは勝利の高揚でも、誇りでもない。


ただ――


(……この顔を、今さら晒す意味はあるのか?)


焦げた風に仮面の髪がなびく。

静馬は微かに目を細め、戦場の静寂の中で内なる声に耳を澄ませた。


すると――


「いやー、派手だったねぇ。惚れ直したわ」


(……また軽口か、ラウラ)


「事実を言っただけ。あと、忘れてもらっちゃ困るんだけどさ」


その声色が一段階上がる。


「あの場面、私の助言なかったら死んでたよね? ね? ほら、感謝の言葉は?」


静馬は仮面越しに眉をひそめた。


(……助言っていうか、ほぼ煽りだったろ)


「え~!? ひどい! あんなに流してって優しく教えてあげたのに! ま、結果的に勝ったんだから、私のおかげでしょ?」


(……まあ、否定はしない)


「よっしゃ勝訴。はい、静馬くん、ありがとうって言ってみ?」


(……いつからそんなキャラになったんだ、お前)


「いつまでも仏頂面してたら顔が固まるよ? というか、その仮面、そろそろ取ったら?」


静馬は黙った。


「うんうん、わかるわかる。名乗ったら色々面倒だもんね」


(……だから迷ってる)


「ふーん。じゃ、あえて言いいましょう!」


突然、声が張りのあるトーンになる。


「謎のイケメン仮面マンですって言って颯爽と去るのもアリだし?

みんなの前で仮面を外して、実は前に機構の連中をぶちのめした契約者ですって暴露するのもアリ!」


(どっちも最悪だ……)


「ほら~悩むくらいなら、ちょっとくらい私に任せたら?」


(お前に任せたら全部ぶちまけそうで怖い)


「うん、それは否定しない」


静馬は小さく息をついた。

ふと肩の力が抜ける。

茶化すようでいて、どこか心を軽くしてくれる声。


(……ありがとう、ラウラ)


「えっ、なんて!?もう一回お願い!」


静馬は小さく笑った。

仮面の下で、ほんのわずかに唇が緩んだのを自分でも気づいていた。


「……今は、まだ正体を明かすべきじゃない。だけど――」


「だけど?」


「その時が来たら……ちゃんと向き合おう。どうせ今のままじゃ元の生活に戻れない」


「……ふーん。まぁいいんじゃない?私はあなたの判断に従うから」


(勝手にしろ)


「うむ、これより私はありがたいツッコミ役として、あなたを導く所存である!」


(……頼むから静かにしてくれ)


風が吹く。

それは焦げた空気の残り香を運びながらも、不思議と清らかな風だった。


静馬は背を向け、足音もなく、次の闇へと歩き出す。

仮面をつけたままのその背に、ラウラの茶化すような声がまた響いた。


「で、ちゃんと感謝した? 私に」


「……三回は言った気がする」


「たりない。あと七回ね!」


(やかましい……)


それでもその声は、どこまでも優しく、頼もしかった。


焦げた空気に、ようやく風が戻ってきた頃――

静馬が歩き出そうとしたその背に、一つの声が追いすがった。


「待って!」


振り返らずともわかる。

篠原美琴――静馬の幼馴染であり元恋人。

戦場の最中も冷静さを失わず、仲間を守り抜いた少女だ。

彼女は、傷と煤をまといながらも、まっすぐに静馬を見つめていた。


「……名前を教えて。あなたが誰なのか、私たちは知るべきだと思う」


一歩、また一歩。

彼女は恐れずに仮面の男へと距離を詰めてくる。


「あなたがいなかったら、私たちは全滅していた。

力だけじゃない。……あの判断と気迫、戦いの重み……何者なの?」


静馬は少しだけ足を止めた。


「……俺は名乗るほどの者じゃない」


その声は淡々としていた。だが、どこかに苦味が滲む。


「本当にそう思ってるの?」


美琴の声には、静かな怒りと戸惑いがあった。


「あなたは私たちを守ってくれた。……だからこそ、私は知りたいの。

 あなたが、いったい何者なのかを」


静馬は少しだけ顔を伏せた。仮面の下、まぶたが静かに閉じられる。


(……名乗れば、全てが動き出す。だけど――)


「ふーん、そっかぁ~。……でも、名乗らない男って、ちょっとカッコつけすぎじゃない?」


ラウラが、また心の中で茶化してくる。


(うるさい……)


「……名を知れば、君たちは余計なものまで背負うことになる」


静かに、だがはっきりとした言葉で返す静馬。


「だから今は――これでいい」


彼は仮面を少しだけ傾け、美琴の瞳を真っすぐに見返す。

仮面の奥の視線が、たしかに彼女を捉えていた。


「誰かに救われたという事実だけ、覚えていればいい」


そう言い残すと、静馬は再び背を向けた。


「待って……!」


美琴が手を伸ばしかける。

だが、その手が触れるより先に、男の姿は瓦礫の陰へと紛れていく。

まるで風のように、音もなく。


「……名も、姿も、何も残さずに去るつもり?」


彼女の問いに答える者は、もうそこにはいなかった。

だが、静馬の耳には、ラウラの小さな笑い声が届いていた。


「モテるねぇ、静馬くん。もうちょっと素直になったら?」


(……黙れよ)


風が吹く。

焦げた空に、仮面の男の気配だけが、しばらく残っていた。


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