98 第二王子
オコだ。結構激オコ。
魔王様を揶揄うくらいなら、上手く人付き合い出来ないんだなって見守るけど、まさか小鳥の件をあんな面白半分に揶揄ってくるとかやり過ぎである。
人の本当に辛い所を、自分の欲を満たす為に踏みにじるのは流石に許せない。
腹が立つ!
叩いた手が凄い痛いのも腹が立つ!
これはちょっとしっかりお灸を据える必要があると勢いで魔法を使ったけれど、[清掃]に対するイメージは『綺麗にする』から離れないので、体内の血管とか綺麗に出来ないか試してしまった。
何か暗殺者的な『掃除屋』的なやつは無理だと分かったのは発見である。
ちょっとかっこいいかも知れないとか思ってたけど、所詮私は清掃員だ。
そして人に無理やり魔法を使ったのは初めてだけど、そんな事からでも学ぶ事はある。
エスフェ…エ…エクレア……。エスさんに脅しを利かせたせいか、私が魔法を使うと反発するような、向こうからもユニークスキルで押し返そうと対抗するように、互いの魔法が消費されているのが分かった。
以前ロイ君に魔法を使った時は、自分を受け入れられないと魔法が入らない感じだったけれど、無理矢理使う時は力比べみたいな感覚が存在する。
今回のような魔法対魔法のやりとりなら、魔力を込めれば押し切れる感じがするのだ。
確かに向こうもユニークスキルなんだなって思う強さはあるけれど、負ける感じはしないし、この感覚は慣れたら魔王様の魔力回路を治すのに役立つかもしれないので、ちょっと魔王様虐めた分は頑張って貰おう。
そうしばらくエスさんのユニークスキルとバトルして、押し切る感覚を捉えようと頑張っていると、頭を掴んでいる手の下で、エスさんが「降参!」と大きく叫んだ。
「もっ無理!降参!!だから止めて!?本当に無理だから!!魔力なくなるから!!」
「……何で魔王様虐めるんですか?」
頭を掴む手はそのままに、一旦魔法を止めてそう訊くと、エスさんはフイッと視線を逸らす。
なので再び魔法を使おうかと思ったら、エスさんは慌てたように口を割った。
「だって魔王が相手してくれないから!!」
顔を真っ赤に染めたエスさんが、恥ずかしさに投げやりに叫んだその声に、隣で笑っていた魔王様が分からないとばかりに眉を寄せる。
「お前は勝手に来ては私を揶揄って遊んでいただろう。相手していたではないか」
「追い返してただけじゃん!」
「お前が私の嫌がる事ばかりするからだろう!」
「そうでもしないと会ってもくれなかった癖に!!」
うん、やっぱり友達付き合い上手く出来ない人だった。
その後も言葉の応酬を続けるエスさんと魔王様が言い合っているのを聞いていると、どうやらエスさんは子供の頃から何度も魔王様の元を訪れているらしい。
訪れる理由は単純。魔王様と仲良くなりたいから。
エスさんの持つ【魅了】はエルフとして、精霊国の中でとても異質。そのせいで嫌がられる事が多いらしく、その居場所のなさに今でもずっと放浪しているらしい。
皆【魅了】を恐れて近付いて来ないし、隠してもあると分かると逃げられる。そんなエスさんは自分と魔王様を重ねていたらしく、同じような思いをしている同年代の魔王様となら、【魅了】を持つ自分でも仲良くなれるかも知れないと思ったらしい。
なので、魔王様と仲良くなりたかったのだけど、当の魔王様は引き籠って出て来ないし、近付く事も話す事も出来ない。
何か話す切っ掛けが欲しくて始まったのが、魔王様の嫌がる事をして反応を貰う事。
そしてそれがエスカレートして、止め方が分からなくなったのが今の現状。
「ボクだって【魅了】のせいでどこ行っても嫌がられるのに!ちょっと触れられないくらいで引き籠るなんて、魔王ってば本当は弱いんじゃないの!?」
「お前と一緒にするな!【魅了】は使わなければよいだけだろう!お前は魔法の制御が下手なだけではないか!!」
「あー!それ言うんだ!?自分だって制御できない癖にそれ言うんだ!?」
「煩い!お前のようにサボってはいない!!」
何だかぶっちゃけ大会みたいになっている2人を私はソファーに座って眺めている。
キョウ君は皆に現在の状況を伝えに行っているのだけど、後でここにお昼ご飯を持って来てくれるらしいので、私は大人しく2人を眺めてお昼ご飯を待っている。
何せエスさんがすぐに【魅了】を使うので、お昼はここでお願いしますと言われたのだ。
にしても、この2人は意外と仲良いんじゃないだろうか。ずっと話してるし、気兼ねなく好きな事を言える相手が居るのは大事な事だと思う。
最初は心底嫌がっていた魔王様も、今はもうある意味普通。エスさんのテンションに引きずられるように、普段は荒げない声を上げている。
友達って大事だよね。
「だいたい何さ!自分だけいい人見付けて知らない内に引き籠りやめてるし、こんな近くで話せるようになってるし!ボクがどれだけ長い間頑張ってたと思ってんの!?この色ボケ魔王!!」
「なっ…!色ボケとは何だ!私はしっかりとユリエの事を愛している!!ボケてなどおらん!!だいたいお前のは頑張りではない!嫌がらせだ!だから誰にも相手にされんのだ!!」
「サラッと惚気るの止めてよね!!」
確かに。魔王様は私がしれっと聞いている事を忘れているのではないだろうか。顔が熱い。
「魔王が最初からちゃんと相手してれば嫌がらせなんてしなくて済んだんじゃん!魔王が悪い!!」
「責任転嫁も甚だしい!しっかりと対応を求めるのならばそれなりの手順を踏めばよかろう!!」
「踏んでたじゃん!!魔王が引き籠ってた時だってボクだけはちゃんと会いに行ってたし!!魔王と違って転移ないんだよ!?ここに来るのだって結構大変なんだからね!!」
「精霊国には転移陣があるではないか!!」
「ボクが使わせて貰える訳ないじゃん!!!」
エスさんの最後のその言葉に、魔王様は驚いたようにその口を閉じた。そして、眉を顰めてエスさんを窺うように首を傾げる。
「…そうなのか?何故。お前は王族ではないか」
「ちょっと、急に真面目になるのやめてよ」
「王族ならば使える筈だ。何故使えない」
「……転移陣に、【魅了】の影響が出るかもしれないから、嫌なんだってさ」
エスさんが吐き捨てるように視線を逸らすと、魔王様が更に眉を寄せてまじまじとエスさんを見ている。
「な、なに」
「誰がそのような世迷言を言っている。陣は形だ。その魔法のみを施行する為に陣として起こしているのに、他の魔法に影響を受ける訳がないだろう。何故そのような心配を?私が申し立ててみるか?」
「は!?なっ何言ってんの!?」
「私は曲がりなりにも魔法の王だ。【魅了】が転移陣に影響するような事はないと証言すれば、改善されはしないだろうか」
そう言う所は素直で真面目な魔王様に、真剣な様子でそう言われたエスさんは、目を大きく見開きながらじわじわと顔を赤くする。
照れたな。魔王様、優しいもんな。
「い、いいよ、そんな事しなくても……。魔王に何の得もないし。そ、それに、転移陣使えたら、ボクが頻繁に来る事になるんだよ?」
「む、それは困る」
「…………」
魔王様、困ってしまったのか…。
そこは「いいよ」って言って欲しかったんだと思うよ…。
真面目な顔のまま困ると断言した魔王様を、ガッカリを通り越して呆れた顔のエスさんが眺めている。
そんなガッカリをしっかりスルーした魔王様が、頷きながら言葉を続けた。
「お前がこの城で【魅了】を使うせいで、城の者が魔力を使い続けねばならん。そんな負担を強いる事は出来ん」
「…それは、その…」
「この城には決まりがある。必要に迫られない限り相手を害する魔法は使ってはならん。それを守るならばエスが来るのは構わない」
「……っ」
落として上げた。その上ちゃんと名前呼びだ。
あれは効いただろうなぁ。エスさん真っ赤だもんな。魔王様はあの男前具合がデフォルトだけど、同性にも有効なんだな。
「…魔王、何か、ムカつくんだけど」
「何故ムカつかれねばならん」
「何かその余裕ある感じがムカつく。何それ、あれでしょ?自分も好きな人に愛されて、相思相愛的な余裕って訳?」
「そ、それは…その」
エスさんにじっとりとした目で見られた魔王様が、それが正しいのかを伺うように私を見て顔を赤くしている。
可愛い。
にっこり笑って見せると魔王様はとても嬉しそうに、はにかみながら笑ったので、肯定の意図は伝わったと思う。
きっと今私が「愛してますよ」と言葉で返したら、魔王様はエスさんとお話できる感じじゃなくなってしまうだろう。
なので、また今度の機会に言葉にして伝えよう。
「何なの?視線だけで分かり合えますよって自慢?」
「じ、自慢などしておらん!」
「魔王だけずるい。ボクも欲しい」
「…何を…」
そう眉を顰めた魔王様にエスさんがニヤリと笑う。
あ、何か嫌な笑い方。
そう感じた瞬間、その嫌な感じを言葉に変換したように、エスさんがそれを声にした。
「ボクも、ユリエさんが欲しい」




