84 教育 ジギーside
はぁ…これ何回目だったっけな。
もはや日課の男子会だ。
逃げる口実があってもなくても、こんな感じになってしまった魔王様を放置するのはさすがに駄目。
折角ユリエさんが魔王様を前向きにしてくれたのに、ユリエさんと魔王様の距離をオレ達が離してしまった訳だから、そこはもう覚悟している。
何でも聞けよ。何でも答えてやるわ。
って意気込みだけはあるんだけど、全然上手く行ってない……。
色々頑張ってみたけど、魔王様の純情が止まらない。
何故か毎回オレの部屋で開かれる魔王様の男子会。現在の議題は『恥ずかしくてユリエさんに会えないのをどうするか』だ。
最初の男子会でロイに色々聞いてしまって、純情な魔王様が限界を超えた。
ロイは「いずれ必要な情報ですので、前もって頭の中で訓練なさって下さい」なんて、物凄い攻撃力でとどめを刺して行ったけど、オレとヨウグも見事にとどめを刺されてしまった。
何せ魔王様のお悩み相談先はオレ達2人。
上手くキスするにはどうしたらいいか、なんて議題が今は本当に可愛く思える。
オレここ数日でまた痩せたんじゃないかな……。
いやさ、必要なのは分かる。魔王様に性教育が全く出来なかったのも悪かった。生物の生態は分かってるみたいだけど、誰とも共有しなかった事が悪かったのか、変に恥ずかしい事だと認識があるせいで、魔王様はその辺全く耐性がない。
どうせなら全く分かってなくて堂々としてくれてたら良かったんだろうけど、きっと何かの本で知った時に、恥ずかしかったとか照れた事柄が、そのまま肥大化して反映されてしまっているんだろう。
どこ情報だよ。とは思うけど、今更それを言っても仕方ない。
魔王様ももう200を越えてるし、男なら生理現象として起こる事だってあるだろうし、それはそれなりにそれなりだろうけど、その辺に好きな人が絡むからややこしくなる。
ずっと真っ赤な顔で耐えてる魔王様に、こう言う系の話はどう話していいのか分からない。
本来こう言う教育は娘なら母親、息子なら父親の役目なんだけど、それを教える人はずっと精霊国で療養中。
オレ達もまだ魔王様が子供の頃のイメージが強くて言葉に詰まる所があるし、そんな状態で言える事なんて、イメトレは必要な事だとか、慣れれば大丈夫だとか、後は魔王様の純情度に合わせた会い方の提案くらいだ。
でも、そんな回復力では、ロイから食らった攻撃を癒す事が出来ない。
溜息が出る。
あの時天の助けだと思ったアレは、地獄からの使者だったか…。
そんな微妙な空気の男子会。
今回はそんな空気を変えるかも知れない、新たな参加者が居る。
遠征隊の三番隊隊長、獣人のガルだ。
匂い追って来ました!と見事な敬礼で男子会に入って来たガル。歓迎しよう。
この聞きたいけど恥ずかしい、言いたいけど言い辛い微妙な空気を変えてくれ。
いつもの丸テーブルを囲み、オレの横にはヨウグとガル、正面には魔王様だ。
因みにこのテーブルは一度壊れた。魔王様の暴走に巻き込まれて粉砕されたから、新しいテーブルは魔力に強い魔鉱石で作った。
いやぁもうずっとテーブル作ってたいなぁって思ってる間に話は進んでいる。
ガルの屈託の無い声は救世主だ。
「うわぁ…本当に魔王様だ。嬉しい…オレ感激です!」
「う、うむ…ガルはその、男子会がなんたるかを分かっているのか?他の者、特に女性や子供には決して内容を言ってはならんぞ?」
「分かってます!あれでしょ?ええっと姐さんと上手く会えないんでしたっけ?」
「ガルはユリエに会ったのか?」
「はい!先程お会いさせて頂きました!」
「そ、そうか………」
あー、魔王様、自分が会えないから凄い羨ましそう…。だがガル、頑張れ。オレとヨウグはもう限界なんだ。
提案できる内容も、現状を変える力も、もう何も残ってない。
ヨウグなんて見てみろ、一応居るけど置物だ。そして目が死んでる。オレも人の事は言えないが。
「魔王様は何で姐さんと会わないんですか?嫁さんになる人なんですよね?」
「う、うむ。しかし、どうにも気恥ずかしく、どのような感じで会えばよいのか、何を話せばよいのかも分からなくなってしまい…」
「何が恥ずかしいんです?」
「そ、その、ロイに色々と、夫婦とは何をするかを教えられ…」
「ああ!交尾ですか!」
「なっ!そっそのような卑猥な言葉を使ってはならん!!」
魔王様の魔力がまた部屋を揺らす。ああ、また部屋壊れるのかな。まぁ前に壊れ尽くしたから特に何もないんだけどさ。
「ガル、その辺は包んでお願い。魔王様も落ち着いて」
「う、うむ、すまない」
オレの言葉に魔王様は赤い顔で頷いて、ガルは、「あ、すいません」って一応謝ったけど、あれは全然分かってないな。
気を付けろ、魔王様は純情を精錬して、更に高純度に強化した伝説級の純情だぞ。
獣人は魔族と違って色恋とかその辺奔放なとこあるからなぁ…。性に対して気軽と言うか、行動も発言もあんまり気にしないんだろう。
ガルもロロも獣人にしては長命な一族ではあるけど、同じ長命でも魔族とは根本が違う。そう言う意味で何か魔王様のいい刺激になればいいんだけど、ロイとは違う意味で爆弾だな。
ちょっと制御しないと今度は地下室全部がなくなるわ。
「で、その辺獣人ってどうなの?」
「その辺ってどの辺ですか?交…あー…夜の、営み?ですか?」
仕切り直したオレの言葉に、ガルは一応言い直したが全然包めてないよ、言葉が。
とは思いつつ、ガルに頷いてからチラリと見た魔王様は、今度はしっかりと耐えている。顔は真っ赤だからギリギリって所だろうか。
「オレ獣人ですけど、他の一族より子供できにくいんで、その辺は結構押せ押せって感じですね」
「へぇ、やっぱり獣人でも寿命長いとできにくいんだ」
「そうですね。あ、でも発情期は狙い目らしいです。ちょっとできやすい気がするって母ちゃんが言ってました」
「そうなの?」
「はい、お前も子供作る時はガンガン押せってすげぇ口酸っぱく言われたんで。確かに元々少ない一族なんで、子供できにくいのに引いてたら一族亡んじゃいますからね」
ガルは軽く笑ってるが、魔王様はそんなガルをしっかり見ている。顔は赤いが、確かに、と呟いてるから、これは中々本当に、ガルがいい仕事をしている。
ヨウグはもう帰っていいぞ。
「しかし、押してばかりいては嫌われるのでは…う、上手くできるやも分からないのに…」
いや、それは確かに気になる所ではあるけどさ、今回みたいに何かあるとすぐに隠れる癖は直さないと、それこそ嫌われそうな気がするよ?
って思うが、こんな言葉は絶対に吐けない。
「え、でも姐さん結構肝据わってますよね。それくらいで嫌いになる人なんですか?」
「む、そんな事は…ない、と思う」
「ならいいんじゃないですか?それに今すぐって訳じゃないんでしょ?魔王様ってもう触れるんですか?」
そう言ってガルが魔王様に手を伸ばし、ならん、と結界を張られている。
ガルって仕事はするけど、ちょっと行動が一直線過ぎるんだよな。
何で触れると思ったんだ。
「じゃあその辺の事は触れるようになってから考えたらいいんじゃないですか?触ったらほら、もっと触りたいとか、触って分かる事も結構ありますし。相手だって反応する訳ですし」
「は…反応…」
「触って相手が気持ちよさ痛ってぇ!!」
蹴った。多分ヨウグも蹴った。無論机の下で。
ガル。それは魔王様には刺激が強い!
こっちを涙目で見ながら足を擦ってるガルが言葉を止めたのを確認して、髪がフワフワ浮いて暴走直前だった魔王様に声を掛ける。
「魔王様、順序、大事。まだキスも終わってないですから」
「う、うむ…そ、そうだな。その辺りは、その、今は、いい。ま、まだ、触れられもしないし、も、物には順序も、あるのだし……」
とても真面目に、しどろもどろではあるが、赤い顔で魔王様が納得しかけたのに、再びガルが火をつける。
「魔族ってそう言うトコ弱いですよね」
「「「はっ!!?」」」
よ、弱い…だと!?
いや待て流石にその言葉は引っかかる。
魔族3人の視線を一手に集めたガルは一瞬たじろいだが、いや、とか、その、とか言葉を逡巡させた後、再び燃料を注ぐ。
「えーっと、こう、しないのに気にするって言うか、気になるのにしないって言うか?」
「そりゃお前、好きでもない相手とする訳ねぇだろ!」
「そうだぞガル!お前ら獣人は奔放過ぎる!」
今日初めてヨウグも口を開いたけど、言いたくなるのは分かる。好きな相手だから色々したいとかあれこれ悩んだりする訳で、誰とでもって事じゃないのはすげぇ大事だ。
「そう言われても…オレ達獣人には発情期ありますから、そこはしょうがなくないですか?」
「抑制剤あるだろ」
「飲めよってかお前ちゃんと薬飲んでるの?」
「さすがに魔物の領域では飲んでますよ。でもずっと飲んでると体に悪いんで、こっち帰ってる間は飲みませんね」
マジかよ…。って事はガルは経験豊富って事!?
「え、じゃあお前、相手誰でもいいの?」
「いや、オレ達だって好みの匂い選ぶんで、誰とでもって訳じゃないですし、特定の相手が居る間はその相手以外と関係もったりしないですよ?」
「い、居る間…?居ない場合は…?」
顔は赤いが興味が勝っているのか、魔王様が理解し難いと言った顔でガルに問うと、頭を掻いたガルが何てことないように言葉を返した。
「居ない場合は娼館行きます。特定の相手居てくれると良いんですけど、まだずっと嗅いでたいくらい好きな匂いに出会えてないし、発情期の為に好きでもない相手と番うのは嫌なんで」
「こ、子が出来たりは?」
「娼館の娼婦さん達って避妊薬飲みますよ?あ、でも番わなくていいから子種だけ欲しいって時は薬飲まないでいいか聞かれますけど。でもほら、オレは出来にくいんで、2・3回頑張った所で子供なんて無理なんですけどね」
「「「……」」」
「その点魔族は羨ましいって言うか、理性で性欲抑えられるのいいなって思いますよね。オレ達無理すると襲っちゃうし」
お…おおぅ。まぁ、種族的に、そう、なるわな…。
「獣人はこれどうしようもないですけど、魔族なんだしそこ気にしなくていいんじゃないんですか?誰が一番強いオスかって所は気にしますけど、別に交尾の経験があるから凄い訳じゃないんだし、特定の相手が居てくれるなら、上手い下手とか気にしなくていいのにって思いますけど…何気にそこ気にしますよね。魔族って」
「「「……はい」」」
え、何。 ガルって、ガルさんだったの?
「オレ達からすると憧れあるんですけどね。好きな相手と初めとか、徐々に慣れ合っていく感じとか。何かこう、知らない事を一緒にやる的な、そう言うの」
「…それは、確かに、う、うむ……。し、しかし、その、それで問題はないのだろうか…幻滅されたりはしないだろうか…」
「そんなのやってる間にどうにかなりますよ。ちゃんと相手の反応見て気持ちよさ痛ってぇ!!」
蹴った。そこは蹴った。ヨウグも蹴った。
やはりガルはガルだった。
また?とオレとヨウグを困惑した顔で見ているガルに、魔王様は顔は赤いが少し考えた後に頷いた。
「…確かに、気にはなるが、そこはその…許されているのだから、好いた相手と共に、学べばよいと、そう言う事なのだな」
「あ、はい!そう!それ!魔王様には姐さん居るんですし、全然問題ないって事ですよ!」
「う、うむ!そ、そうだな!ユリエならば、きっと…その…うむ…」
え? 魔王様納得した?
照れてはいるけど、納得した!?
あ、あああ、良かったぁ…!
これで解放される…。と思ったけど、まだそうはいかない。
「しかし、気恥ずかしさはまだある、上手く話せる自信がない…」
ですよね。
ちょっと開放された気になって浮かれてたわ。ヨウグも終わったと思って喜んだんだろうけど、喜びに固まったままの口は閉じろよ。終わってないから。
「あー、話す内容とか何でもいいんじゃないですか?例えばどの魔物の肉が美味いとか」
「そ、そうなのだろうか…肉、肉か。確かにユリエは魔物の肉は美味しいから好きだと言っていた。それならば、確かに…」
ええ!?嘘でしょ?!!それで行けるの?
今までオレとヨウグが提案しまくった苦労って何だったの?!
手紙出すとか、花持って行くとか、お菓子包むとか、結界で姿隠すとか、何かもう訳分からなくなってオレ姿変える魔道具まで作っちゃったよね?!
魔王様の好み考えて色々やったのに、肉なの?肉が正解だったの?!
「し、しかし、話題はあっても、その、ユリエを見る事ができない。会いようがない」
「でも好きなんですよね?会いたくないって訳じゃないんでしょ?」
「それは、会いたい。できれば、ずっと一緒に居たい」
オレは目を閉じる。
もうガルが居たらいいんじゃない?寝てたら駄目かな。駄目だよな…。ああ…早く結界石来ないかなぁ…そしたら作るの忙しいって抜けられるんじゃないかなぁ……。駄目だなぁ……もう限界だなぁオレ…。ほんと専門外なんだよなぁこう言うの………。
「なら会えばいいじゃないですか。なんとでもなりますよ」
「し、しかし…」
「姐さんだって会いたいって思ってるんじゃないですか?姐さん会えなくて困ってましたよ?」
「ユリエが!?」
「あ、はい。魔王様に会えないって聞いて泣きそうでしたし」
「!!?」
ガルの言葉で魔王様が勢いよく立ち上がった。
後半ボーっと聞いてたから追い付かなかったけど、椅子が倒れた音で視線を向けると、立ち上がってすぐに魔王様が転移で消えた。
「「……え?」」
え、ほんとに?もしかしてこれ解放されたんじゃない??
ヨウグを見ると目が合った。そしてそのままガルに視線が移動する。
「おお~転移、いいなぁ。さすが魔王様」
「ガル……お前、マジで見直した…」
「…お前今日飯食って行け。何でも作ってやる」
「え?!マジですか?!やったー!肉!肉食いたいです!!」
ガルは嬉しそうだがそれ以上にオレ達は嬉しい。
そしてオレとヨウグは今きっと同じ気持ちだろう。
ガル、お前が困ってたら絶対助けてやるからな!
それから、もう少し詳しい事話して行け。




