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82 会えない

 書類上では知っていたけれど、ガルさんとロロさんは魔国の軍の中にある部隊のひとつ、遠征隊と言う部隊の隊長さんらしい。

 普段は魔物の領域で活動しているのだけど、結界石の採掘の件で、ジギーさんの所へ相談に行く所だったらしい。


「何か凄い量の結界石が必要って採掘要請来たんですけど、どう足掻いても今ある採掘所じゃ限界あるんですよ」

「時間が凄く掛かる。新しい鉱脈から採った方が早い」

「で、魔物の領域なら新しい鉱山何個か見付けてあるんですけど、採るのにも魔物湧き続けるから普通の採り方が出来なくて、オレ達が行くかってなったんですけど、魔物は倒せても鉱山掘るのは無理なんで、ジギーさんに応援頼みに行くとこだったんですよね」

「犬は掘るの好き。お前が掘ればいいのに」

「あぁん!?オレは狼だって何回言えば分かんだこの寝るしか能のない涎猫が!」

「そんな種族はない。猫は猫永族」


 何故か獣人さん2人が私の後ろから離れなくなったので、そんな2人を引き連れる感じでお茶でもしようかと食堂へ向かっていると、2人は歩きながら後ろで喧嘩を始めている。


 犬と猫って別に仲悪くはないと思うのだけど、こちらの世界では仲が悪いんだろうか。


「煩い!ジギー様の部屋はこっちじゃないでしょ!?さっさと行きなさい!」


 私と手を繋いで歩いているレイ君が後ろに向かって一喝すると、2人はすぐさま静かになった。

 しっかり躾けられている。しかし、小さな声で「まだ耳触って貰ってない…」と聞こえたので、耳を触って貰うチャンスは諦めていないご様子だ。


 しかし、どうにも強さと言うものが上手く計れない。


 レイ君は魔王様の次に強いと聞いてはいるけれど、ガルさんなんかは結構ガッチリ体型だし、背中には大きな大剣を背負っている。ロロさんだってそんなガルさんが掴みかかってるのに転移のように避けているし、きっと2人共凄く強いって動きで分かる。

 そんな2人より強い。この可愛いレイ君が……。


 そんな視線でチラリと手を繋ぐレイ君を見ると、レイ君は私の手を揺らしながら楽しそうに首を傾げる。


 確かに、強そうな片鱗は至る所で見ているのだけど、やっぱり“こんな可愛いレイ君が?”って思考に行き着いてしまう。


「ユリエ様どうしました?レイの顔に何かついてますか?」

「ううん?レイ君とか魔王様って、どれくらい強いのかなって」

「うーん…最近はちゃんと計った事ないですね…。あ、でもレイのランクはSSです!」

「SS…」

「オレはSです!」

「猫もS!」


 なのでどうぞ!と再び後ろから差し出された耳の誘惑をかわしながら、SSは、確か強さのランクの一番上だったなと思い出すけれど、きっととても強い、の領域からはやはり出ない。

 まぁ、私はFなので、一番弱い事だけは分かるのだけども…。


「魔王様は相性や戦場の問題もありますが、単純な戦力でしたらこの世界で一番強いと思いますよ?」

「この世界で一番…それは凄い」

「そうなんです!魔王様凄いんです!戦ってる時も空からこう、魔法をビューンって飛ばして、バーンってしたら、ドカーンってなるんです!!」


 語るに連れて頬を染めるレイ君が、身振り手振りで楽しそうに魔王様の強さを解説してくれているけれど、レイ君が可愛い以外、擬音だらけで正直全く分からない。

 ただ、魔王様が空に浮いてるのは分かる。見た事があるからだ。


 確かに空を飛べない相手に対して、空から攻撃し続けるとかハメ技レベルだし、飛行機やミサイルもない世界なのだから、空を制する事ができるのは確かに一番だと言われても分かる気がする。

 でも、空を飛ぶ魔物とかには関係ないのかな、と思うが魔王様には結界がある。


 なるほど。確かに安全圏からの無敵コンボだな。


 そんな事を考えていると、レイ君がキラキラした目で私を見ていた。


「今度魔王様に戦っている姿を見せて頂くのはどうでしょう!ユリエ様が頼んだらきっと見せてくれると思います!レイももっと魔王様の戦ってる所見たいです!!」

「そうだね、私もその方が安心できそう」

「えっオレも!オレも見たいです!!」

「魔王様に会える!?猫も行きたい!!」


 魔王様の戦ってる姿と言う言葉に、耳を差し出していた2人がキラキラした目になって、私とレイ君を覗き込むようにグイグイ入ってくる。

 そんな2人をレイ君が押し退けて、離れなさい!と言いながら2人を転移させては放り投げているレイ君を見ながら私は頷き、百聞は一見に如かず、やっぱり魔王様に戦ってる所見せてってお願いしてみようと心に決めながら廊下を歩く。


 後ろで騒ぐ3人を引き連れて食堂に着くと、そこではプリシラさんとヨウグさんが、何やら真剣に話し合っている所だった。


 何か問題でもあったんだろうかと思った時には、ガルさんとロロさんが「お久しぶりです!」と大きな声で挨拶し、そんな元気な声に振り返ったプリシラさんとヨウグさんは、こちらに私が居るのを見付けると、何やらばつが悪そうに目を逸らした。


 ん? 何?


 とりあえず側まで行って、逸らされた目の理由を尋ねようと2人を覗き込むと、何かしらがあると分かりやすく目を合わせてはくれない。


「あの?」

「私は知らない。ヨウグが何かしたんでしょ?」

「ちっ違うぞ!ロイがあんな事教えるから!」


 何?何の話?


 訝し気に眉を顰めた私の横で、レイ君が「ああ」と何かを理解したように声を上げて、そんなレイ君に慌てたヨウグさんが「言うな!」と叫ぶや否や、素早くレイ君を捕獲して厨房に消えた。

 速い。

 そして何。


「プリシラさん?何の話?」

「うーん…魔王が限定的に、振り出しに…戻った?」

「え!?振り出しって何です?!」

「距離…かなぁ」


 嘘、何で!?


 確かにここ数日ずっと魔王様に会えていない。

 忙しいんだろうって思ってたのに、会えなかったのって、距離置かれてたの? ここまで来て!?


 一気に頭が真っ白になった。

 私、何か駄目な事でもしたんだろうか…でも最後に会った時はいつも通りだったのに……。


 考えれば考える程、じわじわと胸が苦しくなって、目の奥もじんわり熱くなる。

「…………」

「あっ!違うから!ユリエ!大丈夫!そうじゃなくて、あのね……」


 私が泣きそうになっているのを見たプリシラさんは、焦って私の肩を掴むと困った顔で、そして言い難そうに耳打ちしてくれたその言葉は、「恥ずかしくて会えないらしい」と言う、どうしていいのか分からない感じの内容だった。

 おかげで涙は引っ込んだ。


「……。何ですか、それ」

「私も理由は詳しく知らないんだけど、魔王がユリエに会えなくてどうしたらいいのかずっと悩んでるらしい」

「えぇ…会えるのに?会えない理由が分からないと困る」

「んー…そこは私も知らないんだよね。ヨウグは男子会がどうとかで、魔王は裏切れないって教えてくれない」

「男子会……」


 あ。

 あああ、言った、言ったわ。女子会するって。


 そうか。それで魔王様はきっと男子会したんだな。そこで何やら魔王様が私に会えなくなるような、恥ずかしくなる情報を得た…そう言う事?

 きっとこの前お城が揺れた日だ…。

 確かにそこから魔王様には会えていない。


 ヨウグさんはロイ君がって言ってたから、きっとロイ君が魔王様のキャパを超える事言ったんだろう…。レイ君とロイ君は早期結婚望んでる所があるから、その辺りの恥ずかしくなる情報……あ、駄目だ。私もどうしていいか分からないかも。


 そんな会話を聞いていたガルさんとロロさんが、私とプリシラさんの会話にこぞって首を傾げている。


「姐さんって魔王様のコレなんですか?」

「姐御は魔王様のいい人?」


 そう言って2人は小指を立てている。こちらの世界にもその表現あるんだ、とかその呼び方、と思う所はあるけれど、今は魔王様が気になって仕方ない。


 このまま会えないのがずっと続いたらと思うと、変に沸いた胸のモヤモヤが治まらない。

 魔族もエルフとまでは行かなくても、時間の感覚が長いのだ。

 このまま何か月とか、下手したら何年とかで会えなくなったらどうしよう、そう考え出すと眉は寄るし口も横へ結ばれる。


 そう悩んでいる私の隣では、プリシラさんがガルさんとロロさんに向かって呆れた息を吐いていた。


「ユリエは魔王の婚約者。その通達は行ってた筈だけど?」

「えっ!そうなんですか!?すげぇ…」

「耳触って欲しい…」


 プリシラさんにそう言われ、目を輝かせた2人は再び私の後ろからどうぞ、と耳を差し出して来る。

 確かにモフ耳は魅力的ではあるけれど、今はその魅力も半減だ。


「んん…今は、それどころじゃないと言うか…」

「姐さん困ってるなら、何か分からないですけどオレ行ってきましょうか?男だし。その男子会?入れるんじゃないんですかね?役に立ったら株上げですよね?」

「え?」

「魔王様の話聞いて来りゃいいんでしょ?オレも魔王様に会いたいし。男子会、偵察して来ます!涎猫には無理でも、オレならば可能!」

「悔しいっ!」


 私が止める間もなく、ロロさんが掴もうとした手を揶揄うように躱したガルさんは、はははははーと笑いながら走って行った。


 え、ガルさん、行ってどうするつもりなんだろう…。

 男子会の内容を言えない人が増えるだけでは?とは思ったのだけど、颯爽と走って行ったガルさんの笑い声は、凄い速さで聞こえなくなった。






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