7 いざステータス
その後、付け足す様に説明をくれた魔王様曰く、この世界は大きなひと続きの大陸で、ザックリ分けると、人族、魔族、精霊族がそれぞれ国を構えている。
人族の国は沢山の国が集まった状態らしいが、寿命の長い魔族や精霊族の長命種からすると、人族の国は国が増えたり減ったりしていて、その形態ははっきり分かっていないそうだ。
今居るのは魔族の国、魔国。精霊族の国、精霊国とは国交があるけれど、人族の国とは仲が悪いらしく国交も断絶しているから、人族の国が異世界人をどう扱っているか詳しい情報は分からないらしい。
ただ、異世界人が居るのは基本人族の国で、それは異世界人を召喚するのが人族の国のみだからだと魔王様は言って、知りたいだろう情報が分からなくてすまない。と、謝ってくるので、それを知れただけでも有難いと返した。
精霊国は、異世界人を珍しい知識を持った者として興味はあるが基本はノータッチだそうで、何より精霊国自体が閉鎖的で、出て来る事も、外部から人を入れる事も極稀なんだそうだ。
「我が国は、以前勇者も皆と良い関係を築いて暮らしていたし、異世界人だからと偏見は持たない!きっと過ごしやすいと思うのだ!」
「はい」
「国民も、皆心意気の良い者が多く、きっと異世界人の助けにもなろう!」
「はい」
「人族の国は、異世界人は居るかも知れないが、偽りの情報で異世界人を危険に曝すような国だ。きっと異世界人の扱いは良いものではないのではなかろうか!」
「はい、それは怖いですね」
魔王様は先ほどから魔国の猛プッシュを行っている。
確かに、同じ異世界から来た人が居る人族の国は気になるけれど、同じ世界から来たかも分からないし、話を聞くと人族の国はちょっと怖い。
精霊国はほぼ鎖国状態なら、無理して行く必要も感じないので、魔国で頑張ろうかと思っているのだけれど、魔王様はどうやら私が他の国に行かないように、自分の国は異世界人にも安全だと伝えたいらしく、先ほどから頑張って魔国はいいよアピールを行っていらっしゃる。
だがしかし、頑張って頂いている所へ水を差せずに聞いているが、まず自分がそんな遠くへ行ける気はしていない。
何せ私の移動手段は徒歩なのだ。
そんな現実を考えながら魔王様の話をうんうん頷いて聞いていると、「あ」と思い出したように魔王様が私を見た。
「それで…その…お前のステータスの話になるのだが」
「あ、はい」
何度か繰り返した魔王様の魔国アピールを自分の思考半分で聞いていたが、これはガッツリ聞かねばなるまい。
お待ちかねのステータスである。
「名前、そう、名前…あ、アヤぁトリユリエ…」
「あ、友里恵が名前です、ユリエだけで大丈夫です」
綾取辺りが何か違うものに変換されそうなので、急いで方向修正をすると、名前でいいと言われた魔王様が少し驚いたままゆっくり頷いた。
「う、うむ…ゆ……ユリエ…」
少し躊躇いながら、顔を赤く染めて嬉しそうにはにかんで私の名前を呼ぶ魔王様。
うん。これは地味に恥ずかしい。
そんな魔王様が、何度も小さくユリエ、ユリエ、と呼び方を慣らすよう呟く度に、私の顔がどんどん熱くなっていくけれど、とても嬉しそうなので横槍は入れられない。
名前を連呼するのは破廉恥じゃないんだろうか……。
私がそんな羞恥に耐えていると、自分が名前を連呼している事に気付いた魔王様は、ハッと一瞬こっちを見たが、すぐさま目を逸らして口元を手で隠し、名前は…言わずとも分かっているだろうが、と真っ赤な顔で平静を装っている。
装えてはいない所に好感が持てるけれど、連呼は恥ずかしかったので気付いてくれてよかった。
「年齢は…あ、いや、失礼」
自分の発言に咳払いして年齢を濁した魔王様は、ここでは破廉恥を忘れない。
しっかり破廉恥を嫌う紳士なのだ。
若返った自分の年齢がどうなっているのか知りたかったけれど、紳士はしっかり女性の年齢は伏せるらしい。
「そして、その、どうか心落ちせずに聞いて欲しいのだが……」
私のステータスの続きを言い難そうに、赤い顔から一転して心配そうな顔になる魔王様。
本当に表情が豊かだな。
でも、大丈夫です。
非常に言い辛そうにしている所から既に大丈夫。
もうどの属性の魔法にも適正ない事も聞きましたし、きっと碌な内容じゃないのは魔王様のその凄く渋い表情見れば分かりますし、これ以上はきっと落ちない所で覚悟しております。
そう真面目に頷いた私を確認した魔王様が、覚悟している私に頷き返して言葉を続けた。
「この世界の生き物には適正魔法が1つはあり、以外のスキルも1つや2つは必ずある。戦闘系のスキルなどは必ず1つは持っているものだ」
「なるほど」
「強さは上からSS・S・A・B・C・D・E・Fとあり、上のランクに近ければ「+」が付く。そして、ランクは種族によって強さが違う」
「はい」
「それで…その、ユリエのステータスなのだが…」
ごくり、と魔王様の喉が鳴る。
そんな言い辛い内容なのかと思うとじわじわと悟りが開きそうだから、どうせならスッパリやって頂きたい。
どんとこい。である。
「【種族】は[半人]。適正魔法や戦闘に関する物を含めスキルはない。【ユニークスキル】は【生活魔法】。強さは…その、[F]で、魔族の、赤子、程……だ」
ステータスを伝え終わった魔王様は、渋い顔のままこちらの様子を窺っている。
私も渋い顔した魔王様、と言う前置きがなければそんな顔になっていただろう。
強さF。最弱。
評価は赤子。
赤子かぁ…そうかぁ…。そりゃあ優しい魔王様からすれば、必死に安全アピールするよね。レベル赤ちゃんを危険かもしれない場所に単身放り出すのは、どうかって話だもんね。
だがしかし、私が凄く弱いのは仕方ない。元々強くなかったのだし。
ラノベでお約束の、異世界に来て何やら凄い事が出来るのでは、なんて確かに思っていた所も少しはあったけれど、これが現実ってやつだ。受け入れよう。
しかしスキルや適性魔法はないけれど、ユニークスキルは【生活魔法】。
魔法だ。これは嬉しい。
きっと生活魔法と言うのなら、この世界で生活する為の魔法なんだろうけど、魔法は魔法だ。
かまどに火をつけるとか、水仕事の水が出せるとか、あってもそんな感じなのだろうけど魔法なのだ。
だが、種族。
どうしたの? 何があったの? いつの間に人間辞めてたの?
半人って何?半分人?もう半分は一体何で出来てるの?
何かもう、人の半分は優しさで出来てるといいな。と思っていたら、残念なステータスと相まって少し悟りモードに入っていたらしく、目の前の魔王様が青い顔でこちらを見ていた。
申し訳ない。大丈夫です。
「魔王様は“半人”って知ってますか?」
「ん? ああ、種族か」
はい、と持ち直してから頷いた私に、魔王様は少し安心したように息を吐いてから難しい顔で首を傾げた。
「半人は私も初めて見たが、種族はその者の存在を表すと言われている。例えば私の種族などは、以前は魔族だったが、魔王を継いでからは魔王に変わっている。勇者も見た目は人族だったが、種族は勇者だった」
「なるほど」
なるほど分からん。
じゃあ半人って何。そう顔に出ていたのか、魔王様がもう少し掘り下げてくれるようだ。
「半人はおそらく、人族の領域を超えた者になるのではないか?」
「人族の領域?」
「うむ。人族は基本弱い。それは恐らくとても魔力が少ないからだ。だが稀に、人族でも魔力の多い者は居る」
「はい」
「そういった類の人族は、皆大抵何かしらの存在になり、種族名が変わっていると聞く。人族で聞いた事のある種族は、勇者や聖女、英雄や賢者などだ。だが、人族の王の種族は人族だと聞いた。役割だけで種族が変わる事はない」
確かに、存在の在り方だけで種族が変わるなら、魔王様は王になって種族が魔王になったし、人族の王様も、王とか人王になるはずなのか。
魔力が大きく関係するんだなぁ、と感心しながらうんうん聞いていると、魔王様が微かに微笑んだ。
「だが、何かしらの存在になる前も、魔力が多いだけで人族の域は出ている。それに、ゆ、ユリエの魔力はとても多い。勇者の何倍も多いのだから、きっと人族では破格だろう。そういった人族の種族が、半人だとすると納得できるのだが、まだ不安か?」
軽く頭を傾げてこちらを気遣ってくれる魔王様。サラリと銀の髪が揺れてとても素敵。魔王様王様、イケメン、優しさの塊、ハイスペック。
けれどたまにサラッと爆弾を投下する感じ。
私の寿命は、軽く300年以上だと判明。
長い。 仙人か。
いや…もう寿命の事を考えるはよそう。
凄く短いと言われたら凹むけれど、長いならいいじゃない。ゆっくり過ごせていいじゃない。
そう一度頭を横に振って腹を括り、一息ついて頭を下げる。
「ありがとうございました。とても納得できて安心しました」
「うむ、それならば良かった!」
そう笑顔の魔王様にお礼を言った瞬間、大きく風が吹いて泉の方から白いフワフワが辺りに舞った。
「あ」
「なんだ?」
「ステータスを教えて貰ったんですが、私、それらしいスキルもありませんでしたし、とても弱いのに、どうして【死の泉】が平気だったんでしょうか……。ステータスを聞いてもそれらしい理由が思い付かなくて」
「む。確かに、それは私も気になる」
そう真面目に頷いた魔王様と共に、うーんと首を傾げる。
ついでのように言ってしまったが、これは結構重要な事かも知れない。
魔素や魔力はこの世界でとても重要な物。それに関わる事で自分に謎を残すのは少し怖い。
何せ、私は触れる事が異常な水を飲んでしまった超異常者なのだ。
言ってて凹むがそれが現実……。
そう、普通なら、触れた者が分解される水。
けれど普通に飲めてしまった。
そしてすごく美味しかった…。
魔素が濃くなって水になったもの、魔素水…。
なら魔素って美味しいって事なのかなぁ……。
あ、だめだ、お腹すいてるわ。
「……でも、そうか、美味しかったです」
「ん?何がだ?」
固く腕を組み、難しい顔で悩んでいた魔王様が私のいきなり発言に主語を求めてこちらを向く。
「【死の泉】の水。美味しかったです」
「ん゛ん゛!?」
少しでも情報を、と思って開示してみた情報だったが、魔王様は何故かどんどん赤くなって震えている。
え?どうしたの?
「あの…私変な事言いました?」
「い、いや、も、問題ない。だが、その…」
言葉を詰まらせたまま赤い顔を伏せた魔王様が、最初こそ真っ赤な顔をしていたが、口を覆った手の中で、「美味しい?いや、まさか…」と呟く毎に、どんどん真剣な表情に変わって行く。
「ユリエ。泉に触れた時、何かしなかったか?」
「触れた時、ですか?水を掬った時?」
「そうだ、その時、何か考えていなかったか?」
沢山の表情を見せてくれる魔王様だけど、今私に向けられている表情はとても真剣。
これはちゃんと思い出さねば。
あの時、水を飲もうとした時…
確か………
「飲める水で、ありますように。……そう願っていたと思います」
「ああ、うむ。やはり、それはきっと魔法を使ったのだろうな」
え、魔法? 使ってたの? 私が?
使えない筈の魔法を使っていたなら、もっと実感欲しかった…と、魔法を使っていたらしい自分の両手を眺めていると、納得に頷いていた魔王様が、しかしな、と再び難しい顔になる。
「【死の泉】と言っても、正に死ぬ程濃いと言うだけで本来は魔素泉と同じ。確かに浄化すれば触れる事も飲む事も可能なのだが、この泉は私でも浄化できん。それにユリエは光や聖属性を持ってはいないし……」
「まそせん?」
うむ、と頷いた魔王様は、こちらを見た後死の泉に視線を向ける。私もつられてそちらを見ると、やはり見た目だけはとても綺麗な泉からフワフワと白い光が昇っている。
「魔素泉は、ここのように地中から歪んだり穢れたりした魔素が噴き上がる場所の事だ。我が国ではそれ自体は珍しい物ではなく、ここは特殊ではあるが、通常の魔素泉は放っておくと魔物が生れるので基本は潰す。そして浄化で潰した後は通常の魔素を吐き出す場所となる」
「へぇ…」
じゃああの白いフワフワは魔素なんだろうか。
いや、浄化されてないから違うのか?
フワフワしてて美味しそうだな…。
駄目だ。お腹が空いている……。
「魔素泉を浄化すると水のように残る場合があり、通常の水よりも含む魔素が多く美味いのだ。故に素材として利用されている場所もあるが…」
「美味しく頂く為には浄化が必要、ですか」
「そうだ。浄化は光、もしくは聖魔法を使う。私はユリエが死の泉の水を浄化したのではないかと思ったのだが……」
語尾と同じく難しい顔の魔王様は、私を見ながら首を傾げている。
ですね、私、適正魔法ないですもんね。
「……あ、でも、もしかして【生活魔法】?」
「うむ。可能性としてはそれしかない。しかし、【生活魔法】なるものの詳しい事は【魔眼】では見えなかった。なのでその、これから時間を掛けてゆっくりと調べればよいのでは…ないだろうか?」
そうチラチラこちらを見る魔王様。
ん?何だか魔王様ソワソワしてない?
あ!?もしかして、忙しいのにずっと時間取らせてしまってた感じでは!?
だって魔王様は王様なんだし、王様って忙しいよね!?
私なんぞに長々と付き合わせてしまって申し訳ない!
生きて行く為に情報が欲しかったとは言え、魔王様の優しさに甘えてあれこれ聞いて時間を取らせてしまった…。
一人になるのはそれなりに心細いけれど、これ以上王様を私個人の事情にお付き合いさせる訳にはいかない。
しかし最後に、ここから近い町の場所だけは聞いておとかないと。
この泉にずっと居る訳にはいかないし、どうにか移動しなければならない。
水だって上手く葉っぱで包めば持っていけるだろうし、この水さえあれば何とかなりそうな気もするし、後の事は町に辿り着けてから考えよう。
そう腹を括って魔王様を見ると、悩むような考えるような魔王様が私を見て背筋を伸ばした。




