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44 試される

 嫌な予感しかしない。


 今私の前にはヨウグさんと三兄弟が、私の作った自称ポーションの入った瓶を眺めている。

 そしてプリシラさんは言っていたのだ。「試す」と。


「こりゃユリエが作ったのか?」

「キレイっすねー」

「ちょっと色が付いてんのが美味そう」

「オレこのピンクっぽいのがいい」


「飲んでみたい?」


 厨房組の反応に、プリシラさんはニヤリと笑う。

 駄目、これ、きっと駄目なやつ。

 私はそんなプリシラさんをじと目で見る。


「プリシラさん?」

「大丈夫大丈夫。私の作った方もあるし」

「いや、ダメ。試す気でしょう」

「だって早く効果見たい」

「ダメです」


 プリシラさんはシレっと人体実験しようとしている。

 確かに薬なんだし、治験的なものは必要なんだと思うけど、上級をわざわざ健康な人に試す気があるとか本当に怖いんですけど!


 そんな私とプリシラさんのやり取りを見ていたヨウグさんが、呆れた顔で首を傾けた。


「もしかしてこれ、ポーションか」

「うん、そう。鑑定ではポーションの効果と同じかそれ以上。ユリエの料理スキルの効果も付いているからきっと元気になるよ」


 そう評価したプリシラさんの言葉に、三兄弟はマジっすか!すげぇ!飲みたい!と言って厨房にグラスを取りにいった。

 飲むだけならいいんだけど、試すとか本当やめて頂きたい。


「色がついてるのは等級のせいか」

「素材はさっき厨房で貰った普通の食材、何故色がでるのか不思議。ユリエのイメージだとは思うけど」

「味が気になるな」

「ポーション不味いからね」


 へぇ、ポーションって不味いんだな。

 良薬は口に苦しってやつなんだろうかと、私は自称ポーションを考察する2人を眺めている。

 そんな私に、グラスを持って戻って来た三兄弟がポーションを飲んでいいかと確認に来たので、飲むだけなら、と頷いて返した。


「いいと思うよ?体に悪くはないと思うから」

「「「あざーす」」」


「オレこのピンクの飲みたい」

「ポーションなら中級かなぁ」

「どうせだったら上級にしたら?」

「とりあえず中級いっとく。美味そう」


 私から離れた三兄弟は、自称ポーションの瓶の前で楽しそうにどれにしようかと選んでいる。ピンク色の中級ポーションを飲みたいと言っているのはサン君だ。


 サン君がそんな自称ポーションを透明なグラスに注いで、少し透かすように掲げて眺めていると、グラスを持つサン君の、その袖がまくってある腕にキョウ君が触れる。


 キョウ君が触れたその瞬間、触れたそこからサン君の肌が一気に変色していき、健康的だった肌の色は暗い青に変わり、私が言葉も出せずに目を見開いている間に、ダイ君が指先でくるりと回したナイフでサン君のグラスを持っていない腕を軽い挨拶のように半分以上スパッと斬った。


 そして、まるでそんな事なかったかのように、サン君はグラスに注いだ自称ポーションを一気に飲んで、ぷはぁ、と盛大に息を漏らして驚いた顔を私に向けた。


「うっっまぁぁーーーー!!!何これマジでポーション!?え!?ちょ、ユリエさん!これ何したの?!マジポーションが激うまとか奇跡なんっすけど!!」


 物凄く興奮しながらサン君は嬉しそうに私に向かって笑顔で尋ねてくるけれど、私は上手く答えられない。

 目の前でサラッと行われた光景に、足から力が抜けてそのまま床にへたり込んでしまった。


「え!?ユリエさん!??」

「え、何?どしたの!?」

「え!?ちょ、ユリエさん真っ青じゃん!!」


 慌てた3人が私を心配するように取り囲んで、プリシラさん!と応援を呼びながら、私に触れていいものか迷うようにワタワタ腕を動かしている。

 斬られたサン君の腕もちゃんとワタワタ動いているし、肌も健康的な色に戻っている。心配そうにこちらを見るサン君は何事もなかったように元気そうで、そんな様子に私はようやく息を吐けた。


「私は、大丈夫…サン君は大丈夫、なんだよね?」

「あ、はい。大丈夫?っすけど…ユリエさんこそマジ大丈夫なんすよね?」


 私は頷いたそのままに、脱力した頭で俯く。

 そして大丈夫だと分かったら、ふつふつと怒りが湧いて来た。


 飲むだけって、言ったのに。


「何で…………?」

「「「え?」」」

「試した、よね」

「あ、はい。毒と、切り傷。効くかなって」

「マジ効きましたよ!その上えげつなく美味い!」

「ポーション美味いとかマジ信じらんねぇすわ、オレも次試したい」


 全く悪びれる様子もなく、これが日常だと言わんばかりに目の前で笑う3人に、私は顔を上げ、真顔で笑っている3人をじっと見る。


 穴を開けてやろうかってほど見ていると、笑っていた3人は私に気付き、笑った顔がゆっくり真顔になる。真顔になって、そこから少しずつ青くなった。



「楽しかった?」



 そう尋ねた一言で、3人はしっかり土下座した。

 目の前で、3土下座が「すいませんでした」と言った。

 綺麗な土下座だった。勇者先輩が教えたんだろうと思いながら、私は渋々ながらに許した。


 土下座なら、仕方ない。


 プリシラさんとヨウグさんはまた三兄弟がやらかしたくらいの感じで、少し離れた場所で自称ポーションを飲んでいる。飲んでるだけならいいんだけどね。


 もうしないならいい。と言った私の言葉に、頭を上げた3人が言い訳をしていて、何で、と訊いた手前聞かないといけないかなって思って聞いているけど、この3人が本当に悪いと思っているのか疑問に感じて来るチャラさ。


「いやー俺ら毒にはすげー強いんすよ」

「毒使えるし分解もできるんで、毒見できるとか料理人とか最高じゃないっすか?」

「腕もほら、キレイに切ったんで、キレイにくっつくし」


「………」


 この3人、本当にわかっているんだろうか…。


「でも、少し毒の治り方がおかしいってか、分解じゃなくて、消えた?みたいな?」

「ああ、確かに、すぐ肌戻るとかちょっとビビった」

「あ、オレ少し強めに毒入れたんすよ?ちょっと苦しむと面白いかなって。なのに…」

「……キョウ君?」

「あ、や、ユリエさんマジすいませんでした!その顔やめて!」


「……で?」


 どんな顔だか気になるけれど、私は続きを促した。

 どうやらどのポーションで毒を治す場合でも、毒は瞬時に消えるのではなく、分解されるように消えて行くので、あんな一瞬で毒の状態がなかった事になる事はないのだとか。


 毒を消す方に意識があったのは確かだし、治り方までは意識してなかった。

 むしろ、消す効果の分量をどれだけ入れるかって方に頭がいってたかも、と考えていると、へたり込んだそのまま床に座って話していた私達の頭上から、プリシラさんの声が掛かる。


「毒の件は大丈夫。ユリエ、これ軍部で使っていい?」

「それは大丈夫ですけど、使って平気ですか?」

「鑑定では完璧だし、そこのバカ三兄弟が試したからね」


 とりあえずプロのプリシラさんが大丈夫って言うならいいか。と私はその場を流してしまったけれど、後で私の居ない所でまた三兄弟が試したらしく、ご本人達が味や効果が凄かったと報告に来たので、何も分かってないじゃないかと再び怒る事になったのだった。






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