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45 木に水 レイside

 ボクは今、魔物の領域にある小高い丘に立って、眼前の光景を眺めている。


「今回は中々多いですねー」


 赤茶けた荒野の中、視界を埋め尽く魔物の大群。

 その中に点々と空へ噴き出す魔素泉。


 この時期に起こる魔素泉の大量発生は“冬の名残“と呼ばれ、一気に魔素泉と魔物が湧く事は珍しくない。


 魔物の領域は軍の遠征隊が警邏し、魔素泉を見付け次第潰すのだけど、こんな量が湧くとさすがに王城まで応援要請が来る。

 いつものように一人で行こうとしていた魔王様を止めて、一人で片付けないで欲しい、素材も欲しいし一般兵の訓練もしたいとお願いすると、魔王様はユリエ様と長く離れるのが嫌らしく、とても嫌そうにピリピリしていたけれど、今回で沢山素材を集めておいたらユリエ様と当分一緒にいられますよ、と言ったらしぶしぶ頷いてくれた。


 そうやってせっかく魔王様に頼んであげたのに、後方では一般兵が魔物とチマチマ戦っている。

 Aランクの魔物と戦うくらいで苦戦しているので今回連れて来て正解だ。

 あれは鍛え直した方がいい。


 ボクの横ではリリー姉さまが大槌をふるっては魔物を粉砕している。素材になる魔物を選りすぐっているのだ。


 いつもならこれくらいの湧きでリリー姉さまが来る事はないけれど、今回はヒュドラの目撃情報があったのでリリー姉さまは大張り切り。

 あれはなかなか湧かないから素材はとても貴重だし、ユリエ様の服にも使われてるらしいから見逃さないようにしなければ。


 そんなリリー姉さまは、色付きの竜の皮も欲しいからどこかに居ないかと頑張って目を光らせているけれど、その辺りの強い魔物は大きくて濃い魔素泉からしか湧く事がない。


 見付けに行かないとホイホイ居るような獲物じゃないんだけど、黒獅子くらいならそろそろ出て来るかもしれない。


 あいつは制服の素材になるし、爪には猛毒があるけれど武器の素材には使いやすい。毒も持って帰ればプリシラ様が喜ぶし、魔石もそれなりに大きくて魔道具に使える。

 魔法を弾くせいでちょっと面倒だけど、お肉も美味しいから早く湧いて欲しい。


 そう思って素材を探していると、視界が一気に光の壁で埋まった。


 その光が昇るように消えた跡には、魔物の大群は横一列綺麗に消し飛んでいる。

 跡形もないし素材もない。


「魔王様ー!素材ー! 早く帰ってユリエ様に会いたいからって忘れたら駄目ですよー!」

「むっ……すまない」


 そうボクが空に浮かんで魔法を放つ魔王様に注意すると、ソワソワした魔王様が素直に謝る。


 こんなふうに一緒に戦えて、その上話せるなんて夢みたいだ。

 今までなら絶対に叶わなかった、凄く嬉しい。

 ユリエ様が来てくれて本当に良かった。


 そんな楽しい気分のまま、飛びかかって来る魔物の中で必要なさそうな魔物をしっかり燃やして消して行く。

 火が効かない類の奴や必要な魔物に関しては、転移で魔石を抜くと一瞬で倒せるのでとても楽だけど、いらない奴は後処理が大変だから本当は燃やすのが一番楽だ。


 それでも少し雑魚が多くて面倒だな、と思っていると、魔王様はいい素材が湧きそうにない魔素泉を潰すらしい。


 魔物の群れの中に無防備に下りて、魔物の湧き続ける魔素泉に歩いて行く魔王様。

 途中何度も魔物が魔王様に触れるけど、手袋を外している魔王様が軽く払うようにその手を動かすと、魔物は尽く光に分解されて消えて行く。


 魔力過多。


 魔王様はあれを嫌う。いつもは注意して絶対使わないのに、魔物相手には容赦がない。


 そんな魔王様の圧倒的な魔力にボクの背中が少し冷える。目の前で見ると、あれはやっぱり少し怖い。

 それにあのやり方は好きじゃない。


 魔王様の魔力が減る事にではなく、その現象に魔王様がとても辛そうにするからだ。


 素材の選別が必要な場合、それが一番効率いいんだろうし、早いのも分かる。でも早く帰りたいからって、やっぱり無理をしていてボクは少しだけ溜息がでた。


 ユリエ様には頑張って魔王様を慰めて貰いたい。


 魔素泉に向かって魔王様が手をかざすと、そこに光の柱が立つ。光と聖の属性魔法を混ぜたものだ。

 同じような属性でも全く別物だし、属性やスキルは普通混ざらないのに、あんな複雑な混ぜ方するなんて魔王様の作る魔法は凄く謎。


 そんな魔王様の魔法で魔素泉は一瞬で正常な魔素に戻る。

 あんな事、光や聖属性を持ってても普通出来ない。


 魔素泉を潰す場合、光か聖の属性を持った者が湧き続ける魔物から他の者に守られて、長い時間浄化を掛けて潰すのが基本だ。

 魔王様はそれを一人でやってしまう。


 それができるのは、魔王様が全属性を操れて、その上魔法に関する強いスキルを使いこなせるからだ。


 魔王様の魔法はやっぱり凄い。

 でも魔王様は、魔法だけじゃないのがもっと凄い。


 魔王様は身体強化も武器を使う事も、戦う事に関しては全部が強い。魔王様は強くてかっこいいし、もっと沢山一緒に戦いたい。


 強いのは好きだ。そして弱いのは嫌いだ。


 あ、でも、ユリエ様は弱いけど、とても強くて凄く不思議。

 あんな弱い体でボクが触れても怖がらないし、ボクでもたまに怖いと思う魔王様だって怖がったりしない。


 相手の強さを知らなくても、普通本能で避ける物なのに、何で怖くないんだろう…。


 最初はちょっと人族って所で警戒したけど、魔王様を連れ出してくれたし、とっても優しいし、一緒にいるととても安心するので、ユリエ様だけは弱くても好きだ。

 だから魔王様は早くユリエ様と結婚して欲しい。そうすれば魔王様ももっと一緒に戦ってくれると思うし、ボクもユリエ様とずっと一緒に居られる。


 良い事だらけなのに中々関係が進まなくてボクは不満だ。

 魔王様だって触れられなくても、とりあえず契約くらいはしておかないと、もしユリエ様が他の人を好きになったり、そいつの所に行ってしまったらどうするんだろう。

 そんなの絶対許せない癖に、これが勇者の言ってたヘタレってやつなんだろうか。


 魔王様を見ると、要らない魔素泉を潰しながら魔物の群れを払うように消している。

 このままだったらきっと1人で全部片付けてしまうだろう。


 魔王様は本当に強くて凄い。


 凄いけど…。



「魔王様ー!ユリエ様に好きな人できたらどうしますかー?」



 気になってそう聞いたボクの声で、振り向いた魔王様を中心に大爆発が起こる。

 これは沢山属性が混ざってて何をしたのかよく分からないけど、とりあえず凄い爆発で少し楽しい。


 爆風と沢山の魔物が飛んでくるのを炎で壁を作って防いでいると、リリー姉さまが少し怒りながら炎の中へ入って来た。


「レ~イ~?魔王様刺激しちゃ駄目よぉ!素材が吹き飛んだわぁ! も~」

「ごめんなさいリリー姉さま。だって気になるじゃないですか」

「聞かなくても嫌に決まっているじゃない!分かりきった事で遊ばないで、素材探して!」

「はーい」


 再びリリー姉さまは魔物の群れに戻って行く。


 凄いスピードで必要な魔物が空に投げられ、要らない魔物が大槌で払われる。

 あの威力でもしっかり選別はしているのだから、リリー姉さまの身体強化は本当に凄い。


 後ろを振り返ると、倒した魔物と一緒に軍の何人かが爆風で吹き飛ばされていた。

 リリー姉さまの作った装備着ているのだし、きっと平気だろう。


 そんな事を確認して、ボクはしばらく要らない素材は魔王様に任せて、必要な素材から魔石を抜き取る作業に向かう。

 後で素材も回収しないとな、って思っていたら、ボクのものへ魔王様が転移で現れた。


 少し離れた場所で、変に焦った感じの魔王様がこっちを窺ってる。


「れ…レイよ、その、ユリエは誰か、好……す、す、す、」

「好きな人ですか?」

「う、うむ。…居ると、言っていたのか?」


 物凄く真剣な顔でそう質問した魔王様に、ボクは嬉しくて笑顔になる。


 これで魔王様が危機感を持ってちょっとでも焦ってくれたら、ユリエ様に結婚して欲しいって言ってくれるかも知れない!


 ユリエ様には芽に水をやり過ぎるなって言われたけど、木ならいいんじゃないかと思う。


「なっ何故笑うのだ!レイ!どうなのだ!いっ言っていたのか!?」

「いえ、ボクは聞いてないです。でも出来てもおかしくないし、ユリエ様モテるだろうなって思うので、そしたらどうするのかなって思いました!」

「うっ……しかし!ユリエは私の側に居ると…」

「でも魔王様治った後は居る必要ないって思うかもしれませんし、誰かと付き合ったりしても、お城に勤めてる限りは側には居ますし」


 そんなボクの言葉に、愕然とした魔王様がこちらを見ながら横に迫った魔物に向かって細い線のような魔法を放った。

 魔法に頭を貫かれた魔物が土煙を上げながら倒れたけれど、消さなかったな、と思って倒れた魔物を見たら黒獅子だった。

 黒獅子…魔法効かないのにどうやって倒したんだろう…。


 そんな魔法の事を考えていると、難しい顔をしていた魔王様が胸元を強く握って、凄く苦しそうに顔を歪めた。


 苦しそうな魔王様はちょっと嫌な感じの魔力になっていて、また触れられないから駄目だとか思ってるんだろうなって思うけど、ユリエ様が居ないとまた前みたいな状況になってしまうんだから、告白くらいしたらいいのにって思ってしまってじれったい。


「…そ…それは嫌だ」


 今にも死にそうな顔でそう零した魔王様に、ボクはすぐさま答えを返す。


「じゃあそうなる前に、せめて恋人くらいには立候補なされては?」


 その答えに、ポカンとした顔の、ちょっとかっこ悪い魔王様に魔物が飛びかかって当たって消える。

 黒獅子だったけど今度は消えた。


 魔王様に直接触ったんだから消えちゃうんだろうけど、魔物は嫌いだけどさすがに哀れに思える。


「わっ私はそのような…!そのような…………しかし……でも………」


 ぶつぶつ言ってる魔王様は、そのままフラフラ空に戻って行く。

 ちょっと魔力が不安定だけど、魔王様飛んで大丈夫かな。落ちたらかっこ悪くて嫌だな。


 そう心配しながら見上げているそこで、魔王様はフラフラ空で浮かんだままじっと悩んでいる。


 魔物、倒してくれないかな…。


 帰るのは楽しみになったけど、目の前にはまだまだ沢山の魔物と魔素泉がある。

 魔王様がこのままだと、後数日は掛かるかも知れない…。

 ユリエ様、心配するかな…。

 もう少し後で言えばよかったかも…。


 ちょっと失敗したかなって思うけど、とりあえずボクも素材を集めよう。


 魔王様が止まってしまったので、魔物の勢いが一気に増しているけれど、そんな魔物の群れの奥に8本の首を動かす大きな影が見えた。


「あ!リリー姉さま!ヒュドラが居ましたよ!!」

「えっ!行くわ!連れて行って!」


 遠くで魔物を粉にしていたリリー姉さまに声を掛けると、リリー姉さまの払った一撃で辺り一面に空間が出来た。

 そんな空間に転移すると、リリー姉さまが首を傾げる。


「魔王様はフラフラ浮かんでいるけれど、何しているの?ヒュドラ狩りに行かないのかしら」

「魔王様はユリエ様に告白するか悩んでるので、2人で行きましょう」

「えっ!? 魔王様ユリエちゃんに告白するの!?本当に!?」

「たぶん? するんじゃないかなってレイは思います」

「えー!やだもー!そんなの気になって上手く戦えないじゃない!」


 困った顔をしながらも、嬉しそうなリリー姉さまとヒュドラの元に転移して、魔王様が告白とかどんな感じになるんだろうって話ながら戦ったら、ちょっとテンションが上がってしまって素材を半分くらい駄目にしてしまった……。






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