41 慣れと不慣れ
[料理]スキルはともかく早い。
沢山のお芋が終わり、玉ねぎも剥き終る頃には自分の使っている魔法の感覚も分かって来た。
[掃除]を使っている時は、同時に[整理]や[修復]なんかも一緒に使っているのは知っていたし、[製造]を使う時も他のスキルは動いている。
どうやら[料理]を使っている時も、他のスキルが一緒に動いているご様子で、食材を水に漬けた瞬間には[洗濯]が動いたりしている。
お城の魔素水は薄いので、野菜の状態がそこまで変わった感じはしないけれど、変色は防げる気がするのでナシではない。
確かに[語学]なんかはずっと使い続けてる訳だし、[算術]とかも知らない内に使っている。
魔王様との距離とか魔力を使う分量なんかを知ろうとする時には、[算術]は常に大活躍だ。
やはり適材適所と言うか、その時必要な魔法に合わせ、自動で【生活魔法】って大きな括りで魔法を使う感じになっている。
これは細かなスキルに囚われず、魔法を使う時にはその対象の事を素敵な感じに仕上がるようにとか、こんな感じがいいなって大きく考えている方が、変な雑念が入らなくていい感じかも知れない。
一度考えすぎて、玉ねぎでそこから作れるホウ酸団子を思い出してしまったけれど、それを考えた玉ねぎは玉ねぎのままだった。
悪影響になりそうな事には私の中で何かしらのストッパーが存在してくれているんだろう。
きっとホウ酸団子は食べ物じゃないとか、染みこんだ常識みたいな、概念のような物がストッパーなんだと思う。
一応心配だったので、了承を得てホウ酸団子を考えた玉ねぎを一枚剥いて食べてみたが、玉ねぎらしい味わいはあるけれど、とても甘く美味しい玉ねぎだったので、ちゃんと検証も終わっている。
しかしこれも魔法の効果なのか、この世界の玉ねぎって水にさらさなくてもサラダ感覚の甘い玉ねぎなのか、それとも玉ねぎに種類があるんだろうか…美味しかったのでともかく凄い。
そして今回初使用の[料理]スキル。ダイ君によると、早くなるのはオマケみたいな感じで、最も良い所は食材の状態や使い方が分かる事、なので料理中もその食材の最高の状態をキープして仕上げられるので、とにかく美味しくなるのが凄いらしい。
最初から料理スキルを持っていなくても、料理に携わって頑張ってたら料理スキルが習得できるらしいので、見習いの三兄弟はここ100年くらいずっと頑張っているのだとか。
100年頑張れる根性は凄いと感心すると、普通にダイ君が照れていた。
「いやー、マジこんな早く終わるとか神掛かってるんすけど。ユリエさんマジ感謝」
「私も色々勉強になったし、沢山運んでくれてありがとう、疲れてない?」
「いやいや全然、チマチマ剥く方がハンパなく疲れるんすよ」
早々に片付いてしまった作業を終え、そんな事を話しながら隣の調理場へ行くと、そこではヨウグさんが物凄いスピードで……いや、見えてはいないんだけど、ともかく、鉈のように大きい包丁を持ったヨウグさんが、ヨウグさんの胸囲くらいはありそうな大きなお肉の塊に触れると、次の瞬間には隣のトレーに切られたお肉が乗っている。
そんな時空を超えるような感じでお肉を切っていた。
私もあんな風に見えていたのだろうか…そう思うととても複雑な気持ちだ。
そんなヨウグさんの隣では、切られたお肉を運ぶキョウ君と、切るお肉を食材庫から運んでくるサン君が、ヨウグさんのスピードに負けないように頑張っていて、ダイ君もあんな感じになっていたのだろうかと思うとこちらも申し訳ない。
「料理長~、あっち終わりましたぁ」
「あぁ?やたら早ぇな」
「ユリエさん料理スキルあるなら言っといて下さいよ。マジびびりました」
「あー。言うの忘れてたわ」
お肉を切る手を少し止めたヨウグさんが振り返る。包丁と言うか、もはやデカい鉈を持ったヨウグさんの迫力は満点だ。
「ユリエ、どうだった。料理スキル」
「何か物凄く早かったです。びっくりしました」
「そうか。感覚、慣れたか?もうちょっと手伝えるか?」
私はその言葉に少し目を開く。
もしかしてヨウグさんは気を遣ってくれたのではないだろうか…。
朝からずっと魔力が乱れたようなこんな中、一人でいたら結構滅入っていたかもしれない。
それに仕事を与えて貰っていた間は、不安だとかそんな感覚は感じなかった…。
ヨウグさんは少しだけ視線を逸らしながら私に尋ねているそれに、私はしっかり頭を下げた。
「はい。気遣って頂いてありがとうございます。おかげで自信もつきました」
「そうか…。あー、こっち、手伝ってくれるか?」
「はい!」
少し照れたようなヨウグさんに作業を教えて貰い、私はヨウグさんの切ったお肉を既に作られているタレに漬けて行く。
中央の作業台に置かれたトレーの中に、山のように積まれた切られたお肉。それを少し甘い香りのするタレと一緒にボウルの中でもにもに揉む。
このタレの基本は蜂蜜とオリーブオイル。バジル系のハーブに塩だろうか。
最後にレモンかスダチなんかをサッとかけたら、更にサッパリしてて美味しそう。
これきっとタレの味が染み込んだ状態で焼いたら、さぞかし美味しいだろうと分かる感じのいいタレの匂い。美味しそうだなぁ、美味しいだろうなぁ、と思いながらお肉をタレに漬けてひたすら揉んでいると、周囲はどんどん騒がしくなっていく。
「ヤベェ!ユリエさんまで早ぇ!遅れる!」
「おい!早く運べよ!」
「煩ぇな!お前だって早く運べよ!」
三兄弟はとても元気に動き回っている。
時空超えな料理スキルを発動している私とヨウグさんの速さに負けまいと、忙しなく動き回っている3人は、私の漬けたお肉を運ぶ係で追加されたダイ君を合わせ、私では抱えても腕が回らないような、すごい量の重そうなお肉達を軽々と持って走るのだ。
そんな光景に思わず手を止めて見入ってしまった。
「凄い、皆力持ちだ」
絶対持てないわ、と思いながら零したその言葉に3人はピタリと止まってしまうが、次の瞬間には倍のお肉を運び出し、待ち時間なくお肉は処理されていくのが何とも言えない。
肉なくなりました。と言うサン君の言葉に、包丁もといデカい鉈を置いたヨウグさんが呆れながらに息を吐いて、サン君に「昼始めるぞ」と言うと、3人は慣れたように持ち場に散って行く。
そんな三兄弟に私が少し呆れていると、ヨウグさんはコンロに置いてあった大きな鍋を温めながら私を見て苦笑した。
「その魔法、便利だな」
使う所は限られそうですが、と私は苦笑を返す。
三兄弟、料理に関してずっと本気を出していれば、もっと早くに料理スキル習得出来たのではないだろうか…。
ヨウグさんの『昼始める』と言うのは、どうやら昼食を出す支度を始めると言う意味で、作ってあった料理を温めたり、用意していたパンを焼いたりするのが主な内容らしい。
現在は昼前の10時くらい。いつもは12時前がスタートらしいのだけど、魔素泉の関係でお城全体がバタバタして朝がなかったので早めたらしい。
けれど、今日の食事は既にお城以外には届けているらしく、朝食兼お昼ご飯を食べるのは私とヨウグさんとプリシラさん、そして三つ子の3人だけなんだそうだ。
「リリーさんもいないんですか?」
「ああ、リリーは魔物の素材採りに行ってる。今回湧いた奴の中に欲しい素材があるらしい」
「素材…」
何だろう、頭の中でルンルンのリリーさんが魔物を山菜のように摘んでる姿が浮かんでしまう…。
強さの感覚を測れなくなっているのか、いやいやと花の飛ぶような思考を頭から払いながら、6人分の食器を用意していると、カウンターの向こうから声が掛かった。
「ユリエ、おはよう」
「あ、プリシラさん。おはようございます」
「ヨウグにこき使われてるの?」
「お世話して貰ってます」
「おう、今日は早ぇなプリシラ。叩き起こされたか?」
「そう、魔素水は好きだけど、魔素泉は嫌い」
大きく溜息をついたプリシラさんは少し気怠げにカウンターに凭れながら、私の所にも来てほしい、とぼやいている。
プリシラさんは薬を作っていると言っていたし、そちらも忙しいのでは?と思って尋ねると、やはりと言うか忙しいらしい。
「厨房はユリエが頑張ってくれたおかげで今日はもう大丈夫だが…」
「じゃあ私、この後はプリシラさんの所行きましょうか?」
「本当?嬉しい、凄く助かる。干からびずに済む」
用意した食事を今日は6人で囲む。凄いスピードで食べる三つ子と、ダレた感じのプリシラさん。綺麗な食べ方をするヨウグさん、そして、皆が慣れたように対応する状況にまだ実感の湧かない私。
美味しいはずのご飯なのに、今は少しだけいつものように感じられなかった。




