29 使い方
その後、本当にいつでも来て欲しいと言う熱い要望で、空いた時は各部署に臨時でお手伝いに行く事になった。
話もひと段落し、柔らかい光の灯った大きな食堂のテーブルで改めて皆でお茶を楽しんでいる。
厨房もひと段落しているのかヨウグさんも椅子を寄せ、皆と一緒に味を研究しながらゆっくりお茶を飲んでいて、そのゆったりした雰囲気に、私はようやくお茶を美味しいと言って貰えた事を喜ぶ事が出来た。
そして一息入れてから、自分の淹れたお茶を飲んでこれは何だと自分で自分のお茶につっこんだ。
いや、お茶だけど。香りと甘みが増し、何とも言えない満足感に満たされるこの物凄い美味しいお茶は何だろうか。
【生活魔法】に[料理]はあったし、それはとても嬉しかった訳だけど、こんなに美味しくなられると何がどうなってこうなったのかとても知りたくなる。
[掃除]魔法も楽しかったけど、これはまた楽しみが一つ増えた。
魔法って凄い。
皆にもう少し飲みたいと言われ、新たにお茶を淹れる時、そう言えば“美味しくなるといいな”と思いながらお茶を淹れた事を思い出した。
【死の泉】でもこの水が飲めるようにとか、何かしらを願っていた事が叶っていたので、魔法の使い方と言うのは思いに準ずるものがあるんだと改めて理解する。
[掃除]をしている時も、掃除の事を考えてたり、綺麗になれと思っていたら綺麗になるのだから、イメージ的なものが魔法にはとても重要なのかも知れないな。
そう理解して、ちゃんと『美味しくなりますように』と願ったお茶を皆に出すと、そんな私にリリーさんが首を傾げた。
「蒸し返すつもりはないのだけれど、ユリエちゃんはなんで清掃員になるの?」
「えっと、私のユニークスキルって、何と言うか家事に特化してるみたいなので、魔王様に清掃員になりたいってお願いしたんです。何より私が掃除好きって言うのが大きいんですが」
「ユリエ様のお掃除凄いですよ!ユリエ様のお部屋もそうですが、3階のエントランスが凄い事になってました!」
「ああ、俺も見た。魔王がやったのかと思ってたが、そうか、あれはユリエがやったのか。あれは凄い。確かに清掃員を選択して正解だ」
レイ君とヨウグさんが少し興奮したようにその場を知らないであろう2人に、綺麗なだけじゃなく、虹が、とか、その感動を頑張って伝えている。
ああ、あれ見たんだ。確かに凄い事になったよね。虹が凄く綺麗だったよね、と同意しながらゆっくりとお茶を飲む。
うん、お茶、物凄く美味しい。
「え~3階には上がらないようにしていたけれど、今なら平気そうだし、見に行っちゃおうかしらぁ」
「掃除が好きとか、ユリエは物好き」
「プリシラは掃除できないものねぇ」
「教えて貰えプリシラ。俺の負担が減る」
「そうねぇ、教えて貰って欲しいわぁ」
リリーさんとヨウグさんに駄目だしされているプリシラさんはどこ吹く風でお茶を楽しんでいる。きっと自分が苦手な家事を2人に手伝って貰っているだろうプリシラさんは、そろそろ2人の責め句が面倒になってきたのか、綺麗に話題を変えて来た。
「ユリエの掃除はユニークスキルを使った魔法。私にはできない。けど気になる。ユリエのユニークスキルってどんなの?」
プリシラさんの質問に、他の皆も私を見る。
唯一私のステータスを知っているレイ君がニコニコ顔でこちらを見ているので、言っても大丈夫だよって事なんだろう。
私が3人に持っているユニークスキルを説明すると、真面目な面持ちでしっかり考えながら聞いてくれるその姿は嬉しい。
それに聞いて貰えるだけで気持ちも軽くなると言うものだ。
「確かに掃除に特化しているように思う。けど、それだけじゃない。全部がユニークスキルならもっと検証する必要がある」
「けど見事に戦闘系のスキルがないのねぇ…それはそれで凄いわぁ」
「……いや…ああ、うーん……」
【生活魔法】にあるスキル数の多さに驚いた後、皆が思った事を話し合っている中で、ヨウグさんはリリーさんの言葉に反応して難しい顔になり、もう一度自分の考えをよく考えるようにカップを見詰めて唸っている。
「何?ヨウグ、言葉を止めたら気になる」
そうプリシラさんにせっつかれてヨウグさんは難しい顔を上げたけれど、私を見て深く眉を寄せ、そしてまたカップに視線を戻した。
何だろう、私もとても気になる。
「……その、な。 俺は料理を作るだろ、だからその、気になっちまったと言うか、思ったんだが…」
「はい」
「俺は城の奴や、戦う事を基本とした軍部にも料理を作ってる。だから、健康や、体に悪いもんなんかには気をやってるんだが…」
そこまで聞いて、私はハっと息をのんだ。
「だから思ったんだ。[製造]のスキルで、相手を害そうと思いながら[料理]したらどうなるんだってな…。 [製造]のスキルは作ったもんに願いが入る。なら、それは攻撃的なスキルにもなるんじゃねぇのかな」
確かに、そうだ。
もし私が悪意を持ってそれを使えば、それはきっと叶ってしまう。
毒を盛ってやりたいとか、死んでしまえと願ったら?何かをする時、世界がなくなってしまえと願ったら、それは………。
青い顔をして俯いた私に、ヨウグさんは厳しい顔で私に向かう。
「違うぞユリエ。そうじゃねぇ。お前さんはそんな事頼まれてもしないだろう。そんな事に魔法を使えるなんて思いもしなかった、それが大事なんだ。 ユリエが淹れた茶は優しい。それがユリエの本質だ。そんな奴がお前さんが思ったような事はしねぇ」
「ヨウグさん…」
私が顔を上げると、ヨウグさんは困ったように笑ってから私の頭をポンポンと軽く撫でる。
「俺は料理人だ、作った奴の事はよくわかる。お前さんは心根のいい娘だ。こんな心配はいらないとは思ったんで言うのを躊躇った…。怖がらせるような事言っちまって悪かったな」
最後に「忘れてくれ」とどっかり椅子に座り直したヨウグさんに私は首を横に振る。
「いえ、しっかりと覚えておきます。武器を持った赤子にならずに済みました。ありがとうございます」
私は席から立って深々とヨウグさんに頭を下げる。
ヨウグさんは、よせよせ、と言いながら頭を下げている私から視線を外し、照れたように後ろ頭を強く掻いた。
本当に、教えて貰えてよかった。
魔法に不慣れなまま、危ない魔法を使わないよう注意できるのは大事な事だ。
沢山の考え方をくれる皆の存在が有難い…。
1人じゃないって有難い…。
そんな有難がっている私に、もっとお茶を淹れて欲しいとレイ君が新たな茶葉とポットを運んで来て、美味しくなるって願いの他にも、疲れが取れるとか、元気になるとか、どんな願いが効果として入るのかを皆で話していると、そんな中とても真面目な顔で、とても静かに何かを考えていたプリシラさんがボソリと呟いた。
「じゃあユリエが、『胸が大きくなれ』って願ったら、大きく…なる?」
とても真剣に、自分の欲望を隠す事無くスキルの使い方を考えたプリシラさんの一言で、何か良い感じだった場の雰囲気は一気に残念な感じに変わった。
プリシラさん………。




