14 平気だった理由
「ええっと…」
正直、なんだろうこれ、何て言えばいいのかな。
生活に特化した感じ?
え、いや、助かるな、とか便利だなって思う内容もあるし、凄いなっとは思うんだけど、これってどうやって使う系?
けど掃除は凄そう。魔法だし。
[語学]は非常に有難い。きっとスタートから今も、既に大変お世話になっていた感じだろう。
[算術]も基本として必要だよね。計算出来ないと端々で困るし。
[清掃]これは掃除が好きだったからだなぁ。普通にワクワクする。魔法で掃除ができるとか何それとても使ってみたい。
[整理]はちょっと分からない。魔法で整理するって何を?乱れた状態を整える?何を?って感じだ。もつれた髪とか?
[料理]は普通に嬉しい。だって病気は怖い。健康になれるって素晴らしい。最高。
[洗濯]は普通に便利だ。シミとか黄ばみとか水だけでいいとかこれはチートだ。もし伸びた服とかも戻るんなら神対応。
[貯金]は漠然とし過ぎて全くわからない。確かに元の世界で頑張ってたけど…。
[製造]、作った物に願った効果が発揮される…凄そうだけど、美白化粧水しか思い浮かばないので今はとりあえずおいておこう。
[修復]、今度何かが壊れたら直してみようと思う。
[運転]、いや、車はないんだけど…馬車、とか?かな。
[速読]。今使ってると思います。
「……どうやら」
「どうやら?」
難しい顔でスマホを睨んでいた私が声を出すと、待っていたと思われる魔王様が前のめりにこちらを見ている。
「掃除が得意みたいです」
「掃除…」
「そう。掃除です」
「掃除か…」
正直、私は掃除が好きなので結構いいスキルありましたよ。(真面目)って感じなんだけど、魔王様はどこか困惑気味。
隣に立つレイ君も、掃除ってどう言う事?と薄っすら顔に出てしまっている。
何故。掃除、いいよ?掃除。
「あの…詳しく言った方がいいですか?」
「ユリエがよければ聞かせて欲しい。【死の泉】が平気だった理由が分かるかも知れない」
「そうでした」
頭の中が凄い掃除ができそうって事に占拠されてて忘れていたけれど、そうでした、【死の泉】が平気だった理由が重要でした。
私が【生活魔法】の内訳を音読すると、レイ君は目を見開き、魔王様は驚いた後に考え込んだ。
「まさか一つのユニークスキルにここまで内容があるとは…凄まじいな」
「そうなんですか?」
「うむ。例えば【魔眼】もユニークスキルになるが、効果は[見た物を知る事が出来る]だ」
「なるほど」
「ユリエのそれは複数のユニークスキルを持っている事と同じだ。私にもユニークスキルはあるが、多様性があると言えば【魔法生成】くらいか」
涼しい顔で何でもなさげに呟いたそれは、ガチガチのチートってやつです魔王様。
「しかし、見事に戦闘系の魔法がないな」
「そうですね………」
「あ、いや、珍しいと思っただけで、問題はないのだ!ユリエは、その、戦う必要などないのだから!…………」
魔物が居ると聞かされると、やはり身を守る術の1つくらいは欲しかったと正直思うので、少しガッカリした私の返事に魔王様は慌ててフォローしてくれるが、最後は目を逸らしてモニョモニョ言ってて聞き取れなかった。
きっと慰めてくれたんだろうな。ありがたや。
「それに、【死の泉】に使用したのではないかと思うものがいくつかあった。[洗濯]や[修復]、特に[整理]はとても当てはまる」
「え?そうなんですか?」
「[整理]の内容は“乱れた状態を整える・不要な物を取り除く“だったな?」
「はい」
「【死の泉】、そして魔素泉はすべて『歪んだ魔素』『穢れを含んだ魔素』。ユリエの持つ[整理]はそれを正す理に適っているのではないだろうか」
「ああ、確かに」
なるほど。私の使える魔法は【生活魔法】しかないのだから、どれかがヒットしてる訳で、その中なら[整理]が一番しっくり来る。
もしくは沢山願ったから、他のも効いてる可能性もあるし…。
そうスマホに表示される自分のスキルを眺めていた私の隣から、抑揚のない、それでいて息を呑むような声が聞こえた。
「それは、人にも使えるのでしょうか?」
その声に隣を見ると、ずっと隣で黙っていたレイ君が、無表情に見開いた目で私をじっと捉えている。
その顔はとても真剣で、見開かれた目には期待と言うより逃してはならないと言うような、そんな鬼気迫る物を感じて身体が強張る。
あれ、なんだろう……可愛いと思ってたレイ君が、少し怖い……。
「ユリエ様、それは他人にも使えるのでしょうか」
「えっと…使った事がないから、まだ分からないかな…」
「けれど、使えるとお思いなんですよね?」
「使えるかも知れないけど……」
レイ君の目は真剣だ、真剣なだけに、怖い。
「あの…レイ君、どうしたの?」
一歩近付いたレイ君の勢いを、ちょっと待って、と困惑した気持ちで止めようと出した手を、レイ君が両手で強く握って私に近付いた顔からは上手く感情が読み取れない。
そして、そんなレイ君が発した次の言葉は、更に私を混乱させるに十分だった。
「それを、魔王様に使って頂けませんか」