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ベール

話は少し遡る


柱の下で集合し、その後作業リーダーに連れられ受付所から直接出入りできる納屋のような部屋に入り、そこで全員に氷柱を折って落とすための道具と、極寒の中で動き回るのに適していない服装をしている者には防寒具も貸し出された

渡された防寒具を着込んだ時点で既に誰と誰が組む、という指示は聞いている


防寒具を貸し出された者が全員着用したのを確認してから屋外に出て作業リーダーが作業手順を実演しながら説明し、それからグループごとに分かれてそれぞれの担当エリア(もちば)につく

尚、参加人数が奇数だったのと10代としても低いテラは作業リーダーと組むことになり、不満しかなさそうな目をしていた・・・土精(ノーム)であることを隠して紛れ込むなら致し方あるまい



その後の緊張だとかは前述の通りである

日本人基準で言えばやや高めの身長、土をイメージさせるテラよりも明るい色の髪は束ねられてはいるが解けば風に舞う様が容易に想像できる

そして何よりいいにお・・・おっと、これ以上は変人に思われそうなので辞めておこう


「ええっと、ホヅミ・・・さん?

今日はよろしくお願いしますね」

「あ・・・ああ、よろしく」


拓真ほどではないが彼女(リリー)もそれなりの身長はあり、しかも手足が長いので氷柱落としの道具は両手持ちのまま根元から折って落とせている

何より作業自体に慣れているのか、ふらついたり足を滑らせそうになったりする様子がない


そして、氷柱を落としながらの質問が始まった

「そういえばホヅミさんの歳とかどこから来たかとか訊いてもいいですか?」

「ええっと、もうすぐ18・・・になるのかな?

出身地は・・・気が付いたら南の名のない街(ロストナンバー)の家の中にいたんだ、その前は」

「あっ・・・ごめんなさい、そこまで気が回らなくて

ここにいるということはどこかに向かうんですよね?」

「・・・オーエステ・ボーデという街の外れに住んでいるという人に用があるんだ」

「それって、もしかしてユーコさん?」

「そうだけれど・・・どうして?」

「初対面の人にこういうことを言うのは自分でもどうかと思うんですけど・・・・・

私、気が付いたらそのユーコさんのところにいたんです

その前の記憶がなくて・・・名前を貰ったのも、冒険者(トレジャーハンター)として育ててくれたのもユーコさんなんです

それに、少し前に手紙が届いて

私は読ませて貰えませんでしたけど、今日ここで待っていればその人に会えるから連れてくるようにって」


・・・何というか、である

いくら事前に来ることを予告されていたとはいえ、その日時まで正確に予測して迎えを用意できる程の人物を紹介されていたとは

尤も、それを言うと紹介元(クロウ)も大概だったのだが



その日の作業を終え、ホテルの部屋に戻ると案の定テラが待ち構えていた

・・・勝手に上がり込んでいる部分に関しては最早何も言うまい


そのテラは拓真が帰ってきたのを確認してから、ところでと口を開いた

「今日一緒に動いてた()()()、何か変な感じしなかった?

変って言うのもおかしいんだけど、なんかしっくりくる表現が浮かばないな」

「何も感じなかったけどな

そういえば、これから向かう人のところで育てられたって言ってたかな

名前もその人に貰ったとか」

「・・・ああ、そういうことか

どうもその人のところにボクは招かれていないらしい」

と、それだけ言ってさっさと部屋を出て行ってしまう




翌日以降も馬車が出る日まで氷柱落としの依頼が出ていれば受注し、結果として氷柱落としだけで2万オーラほどを稼ぐことになった

一応テラはどこかに行ったわけではなかったものの、あれ以来部屋に入ってきたりすることがなくなるどころか話も殆どしなくなり、リリーともそれ以降同じグループになることはなくオーエステ・ボーデ行きの馬車が出る日になる



この日はブランカ・プェーヴォに来てから初めて晴れた日でもある・・・出立の日になって晴れなくても、とは思うが文句を言ったところで何かが変わるわけでもなく

以前と同じように乗車手続きを済ませ、馬車に乗り込む


この街の場合、そもそも他の街のように民家と呼べるものが殆どなく、人が居る場所といえば数少ない宿のみという特殊さから馬車の乗降所のみならず宿にも馬車の発着予定表が掲示されている

それ故か他の街ほど馬車の乗降時間は長く取られてはおらず、それぞれの乗車受付に並んでいる人が全て手続きを済ませて旅客馬車に乗り込めばすぐに発車するというのが特徴である


オーエステ・ボーデ行きの馬車も多くの人が利用するわけではないようで、自分の他はテラとリリー、数人の魔獣狩り(ビーストハンター)らしい人達が乗っているだけだ

尚ブランカ・プェーヴォに来るときのテラとは違い、リリーは向かい側の席に座っている・・・案内役を引き受けているからとはいえ、それはそれで目のやり場に困るのだが

そのテラはギリギリ間に1人入れない程度の間を開けて横に座っている


まだ馬車が動いてもいないのに微妙な居心地の悪さから何気なしに魔獣狩りの集団の方を見てみると、その中に見覚えのある顔が混ざっていることに気が付いた

向こうもこっちを見て気付いたようで声を掛けられた

「あれ?タクマじゃないか

ジェフさんのところはもう合格してたのか」



「魔獣の暴走(スタンピード)炎精(サラマンダー)の出現、そんなことがあったのか

そのとき俺はもう朱都にはいなかったから戦闘には参加していなかったんだ」

非常に目立つ髪色の青年、ゲイルは道場を去った後すぐに魔獣狩りのチームに前衛主力(サブリーダー)として抜擢(ヘッドハンティング)されたらしい

ただでさえ高かった剣術の技量は更に磨きが掛かり、魔法での火力支援能力も持つなどほぼ万能(オールラウンダー)の魔獣狩りになっているそうだ

加えてリーダーシップも持ち合わせているからか、所属チームのリーダーらしい人が『気を抜いているとリーダーの座を降ろされそうだ』と冗談を言って場の空気を盛り上げる


拓真自身も炎精討伐の件は伏せながら魔獣暴走時の話をすると、君もウチのチームに入らないかという勧誘を受けたが

「今はまだ目的があって動いているので、また今度機会があれば」と丁重に断る

その話の流れで、と表現すると語弊があるのだがゲイルをはじめとする魔獣狩りのチームメンバーにリリーを紹介することになった

尤も、案内役としての紹介なのでそう多くのことを話したわけではない筈だったが、ヤジという名の冷やかしが飛ぶことになった・・・・・その内容がどんなものだったかは想像に任せるが、テラにからかわれたときのように熱くなったという事だけは伝えておこう



そんなこんなしている間に馬車は山を下り、街道の分岐点を通過する

街道すら覆うほどの雪はどこかに消え、森の中を人が通るうちに出来上がった道を旅人を乗せた馬車は駆け、やがて開けた場所に設けられた関所に辿り着く

この街の先に街道はないためか塀どころか柵が街を囲っているということもなく、関所もかなり簡易的なものだ


オーエステ・ボーデ、西方地区(ウェスタン)の東の端の小さな街は交易拠点のような活気こそないものの、穏やかに時が流れていることを感じさせる


例によって馬車は関所の手前で速度を落とし、発着場の前で停止する

旅客馬車の乗降口に近い場所に座っていた魔獣狩りのチームが先に降り、その後にテラ、拓真、リリーの順に降車手続きを済ませ、街に出る


街にさえ着ければ良かったのか、テラはそのままどこかへ姿を消してしまった

テラのことを話していないリリーの前で露骨に探したりする気にもならず、そのままリリーに付いて行く


「本当ならこのままユーコさんのところに連れて行きたいんですけど、ここから少し離れたところにあるので歩いて行くとどうしても遅い時間になってしまいます

小さな街ですけど宿もありますから今夜はそこに泊まりましょう」


民宿とまでは言わないが小さな宿で部屋を取り、中を覗いてみる

流石にテラが居るというようなことはなく、宿の広さや静かさからしてゲイルらも来ては居ないようだ

宿で提供される夕食の時間になったので、入り口(エントランス)近くの食堂に行くと既にリリーが座って待っている

遠慮して離れた場所に座ろうかとも思ったのだが、どういう訳だか数少ない席はその殆どが埋まっており、彼女の真向かいに座ることになった


尤も、彼女(リリー)としては隣か向かいに座った方が都合が良かったらしい

というのも、翌朝の出発時間やユーコという人物の特徴などは食事が運ばれてくる前に全て聞いたからだ


そして理解した、ユーコ(かのじょ)はクロウの同類であると

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