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白亜の地へ

拓真を護衛の一人として乗せた荷馬車は特に何の問題も無く朱都を朝早くに出発した

単独でも護衛依頼を遂行できる荷馬車の近距離便はあったのだが、早めに主要都市まで向かっておこうと考えた為、このオーエステ・シウダードなる街行きの長距離かつ大規模な定期便を選んだのである


一応、依頼受注時に街に関しての情報は聞いている

朱都が四角形のほぼ碁盤の目状の町並みなら、オーエステ・シウダードはほぼ円形の塀で囲われ、街の中央から放射状に延びた道沿いに建物が並んでいるという作りをしているらしい

これは元々起伏のある土地の頂点に建てられた小規模な要塞を中心として街が形成された、という経緯によるものとのこと

更にその街の中央にある元要塞は街の中心になると共に改修が行われ、純白の塗装が施されたことから『白亜の城(ホワイト・キャッスル)』の異名を持つ、とも



今回、この荷馬車の護衛依頼を受けたのは申請チーム(依頼ごとに単独受注者同士で組まれる即席チームと区別するためにこう呼ばれる)が2つと特定のチームに属さない単独の受注者が拓真を含めて2人の計17人である

内訳はチーム『風見鶏』が魔獣狩り(ビーストハンター)冒険者(トレジャーハンター)混合の10人、チーム『銀の矢(シルバーアロー)』が魔獣狩りのみの5人、単独受注者はテラと名乗った顔立ちも声も中性的な魔獣狩りが同行している


それぞれのチームの性格も考慮した上で護衛側の指揮は風見鶏のフォルカーが担当することになっている

理由は単純、普段から束ねている人数が多いこともあるが、同行しているもう一つのチームは少数精鋭で『銀の矢』の名に違わず一気に突撃しての一撃必殺戦法が主体という到底指揮に向いているとは思えないこと、残りはそもそも指揮経験自体がない単独受注者(ソロ)が2人いるだけという状態だから、だそうな


速力重視でもないにもかかわらず曳くのに4頭もの馬を必要とする大型の馬車は足回りを中心として車体各所にに金属部品が使われている半鋼製構造で簡易的な構造の緩衝装置(サスペンション)を備えているという特徴を持つ

荷馬車としては高級品の部類になるが、都市と呼べる規模になった街の間を走る長距離便では割れ物なども運ぶためこの手の馬車数台~十数台で運行されることが少なくないらしい

今の荷馬車隊も7台の馬車が連なっており、前から3台と一番後ろに風見鶏のメンバーが分かれて乗り、銀の矢は前から5台目と6台目の荷馬車に

拓真はテラと共に4台目の馬車に乗っていた

 

彼(?)は地属性の魔法を得意とし、基本的には砂や小石を固めたり岩などを直接飛ばして攻撃しつつ、それで逃げなかったり倒せなかった相手は棘付きのメリケンサックを装着したり、その辺りに転がっている『丁度いいサイズのもの』を握って殴りつけるという聞いただけでもヤンキーか(ある意味)ヤクザめいた(痛そうな)戦闘スタイルなのだそう



魔獣や盗賊などに襲われることのないまま暫く馬車に揺られ続け、辺りは朱都から随分離れたことを示すように荒涼としていた大地は木々に覆われた景色へと変化していた

丁度景色が変わった辺りで昼になったようで馬車が止まり、テラと共に降りると他の馬車から護衛の魔獣狩りと共に定期便を運行する商人達が降りてくるのが見える


「しかし、最近になって本当に魔獣の出没がパタリと止んだな

馬車の護衛に出れば頻繁に止まって迎撃しなきゃならなかったのが嘘みたいだぜ」

干し肉ではなく、燻製肉を頬張りながら『銀の矢』リーダーのカルロが言う


その言葉に一瞬反応しかけ、動きに気付かれたのかテラが視線を向けてくるが、すぐに持っていた残りのパンを口の中に放り込んで何事もなかった顔をしている


「そうだな、朱都の近くで魔獣の暴走が起こったって話の辺りから急に出なくなった

お陰で予定以上に早く移動できる訳だが」

フォルカーの他、商人達もカルロの言葉に同意する



その後も魔獣の襲撃に遭うことなく3日が過ぎたのだが、4日目になって思わぬ敵が現れた

天候、つまり雨である


馬車自体は雨に降られても全く問題ない構造になっているが、踏み固められただけの土などある程度の水があれば簡単にぬかるんでしまう

加えて馬車自体が重いため、油断するとすぐに動けなくなっ(スタックし)てしまうので当然のように速度が落ちる


・・・そして、その付近に縄張りを持つ魔獣がこの状況を見逃すはずがなかった


フォルカーの乗る3台目の馬車から警戒を意味する1音のみの長い呼子(ホイッスル)の音が響き、全ての馬車が停止すると共に魔獣狩りのみが飛び降りる

冒険者はあくまでもある程度の自衛能力を持った研究者のようなものなので、余程のことがなければ魔獣相手の戦闘に出ることはない


馬車から降りた全員がおのおのの武器を構えた頃、木々が揺れ狼型の魔獣が姿を現した

ただ、姿を見せた魔獣にとっては不幸なことに半日以上は降り続いている雨の所為で多少の熱に曝されたところで木は燃えにくい状態になっていた訳で


姿を見せるのとほぼ同時にその殆どは炎の槍に貫かれて絶命した

偶に1射目を回避して接近しようとする個体もいなかったわけではないものの、剣どころか槍の攻撃範囲内に入る前に魔法での集中攻撃を受けて倒れる


そうして狼型の魔獣が出てこなくなったと思ったそのとき、木々の間から握りこぶしよりも少しだけ小さい石と木の枝の片端を削っただけのような形の槍が複数飛んでくる

拓真は大量の火の玉を飛ばして防ごうと構築を始めるが、それよりも下から土の壁がせり上がって攻撃を受け止める方が早かった


「姿を見せずに攻撃してくるって事は猿型かな、多分さっきの狼型を囮にして油断させた上で奇襲を仕掛けたつもりなんだろうけど・・・魔力反応を隠すほどの知能は無かったみたいだね」

拓真の斜め後ろから独り言のように聞こえたので振り向くと、そこにいたテラに「ボクだけど、何か?」と答えを返される


そのテラは街道と森を区切るようにして出来た大きな土の壁まで近づき、手を触れると今度はその壁が多数のつぶてになって森の方に飛んでいった

「これで暫くは襲ってこないんじゃないかな

仕留められてはいないけどあいつらこれくらいで退散するのばかりだし」


戦闘後、護衛リーダーのフォルカーが近付いている魔力反応がないことを確認したために魔獣狩り達は再び馬車に乗り込む



その後は魔獣に襲われることもなく、予定より1日以上早くオーエステ・シウダードに到着した

朱都のように塀に対して極端に大きい門が待ち構えている、というわけではなかったがその朱都の門以上に高い石造りの塀がそびえ立ち、その上には小さな櫓のようなものがいくつもあるのが見える

・・・櫓自体は単純に高い場所にあるために小さく見えるのだろうが


商隊リ-ダーが手続きを行い、認可を得ることで街に入ることができるようになるという点も朱都と共通だったが、唯一違う点は門を通った先から緩やかな上り坂になっており商隊が荷物を下ろす場所は街の入り口近くになっている点だ

街の中心へ向かう大通りは極力傾斜を緩やかにするため曲がりくねっており、ただでさえ走らせるのに気を遣う大型馬車をわざわざ街の中央まで上げなくてもいいようにという配慮から下の方に荷下ろし場を設けたらしい


その荷下ろし場からは街の中央付近まで真っ直ぐ走る荷運び専用の道が整備され、巻き上げ式のロープで引っ張る専用の荷車が使用されている、という解説を荷下ろしの時に商人達から聞いた



・・・と、いうような話をしていたのはオーエステ・シウダードからオーエステ・ボーデ方面に向かう馬車があるかどうかを訊いたついでのようなものだったのだが

結論から言うと、直行便は旅客を含めても無いそうだ


オーエステ・シウダードもオーエステ・ボーデも周囲は魔獣の出没頻度はかなり低いらしく、特に魔獣討伐依頼の類いは殆ど出されていない

そこで、オーエステ・ボーデ方面へ向かえる馬車が出る日まで宿を取って休もうと考えた

思えば、炎精(サラマンダー)討伐後は暫く眠っていた上に目覚めても数日は普段通り動けるようになるまでゆっくりしていたが、それ以外に休んでいた記憶が無かったのだ


旅行者向けの短期宿にチェックインし、ベッドの上に転がったままそんなことを考えていると、扉が控えめにノックされる

ルームサービスが頻繁にあるほど高い宿を取った覚えはないし、食事時でもないのに誰だろうと思いながら扉を開けるとテラが立っていた


「奇遇だね、ボクもこの宿取ったから挨拶しておこうと思って」

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