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朱都-10

目が覚めてから更に数日が経ち、漸く動けるようになったので報酬を受け取ろう思い街の中央にある依頼仲介受付所に行くと丁度依頼の確認に来ていたらしいバートがいた


「ああタクマ、漸く動けるようになったのか

聞いているとは思うが、あの日を境に魔獣が随分減って俺達魔獣狩り(ビーストハンター)への依頼も随分減った

あの時近くに居た連中も純粋な魔獣狩りばかりって訳ではないがそれでも他の街に行ったやつもいるしな


・・・そうそう、『アレ』は半ば不可抗力みたいなものだったとはいえああいう単独行動は極力控えろよ」

めぼしい依頼が無かったのか、片手を上げて去って行った



因みに依頼仲介受付所とは、文字通り対価(主に金銭であるが、稀に金銭以外の現物支給という場合もある)を遂行者に払う代わりに専門の知識や技能を持つ人に仕事を依頼するための言わば紹介所のようなものである

基本的にある程度以上の規模を持つような街に設置され、その街で徴収される税金の一部を運営予算として投入される半公営機関であり、それと引き換えに依頼手数料は格安という特徴を持つ


似て非なる組織にハンター組合があり、こちらは税金を投入される公的機関ではなく依頼料に組織の運営資金も含まれている点が異なる

また、あくまでも仲介をするだけの依頼仲介受付所とは異なり冒険者(トレジャーハンター)や魔獣狩りを擁し、現代の企業に近い性格を持つがそれぞれの街からは独立した権限も持つ

新規のハンターの加入申請や審査もここで行われ、街の規模に関わらず支部が置かれることも多い



話は戻り、受付所内にある総合受付にて依頼達成報酬の受け取りに来た旨を伝え、同時に識別カードを提出する

提出したカードはカウンター向こうにある読み取り装置(あくまでも魔法術式が組み込まれているだけで機械ではない)にカードをかざし、クロウの持っていた本型とは違う板タイプの表示装置で受注した依頼内容と成功か失敗扱いか、成功なら報酬は支払われているかを確認するようになっている


拓真の分に関しては依頼達成ではあるが終了報告時本人不在のため報酬支払いは保留、ということになっていた

受付係の人に促されてその報酬内訳を確認してみると、確かに通常の依頼達成分の他に特別報酬という項目が追加されその横に100万オーラという金額が記されている・・・が、その金額が明らかに多かった

具体的には通常報酬の10倍である(つまり報酬自体は本来の11倍の金額になっている)


理由を訊いてみると、複数人の証言や魔力反応の残滓などにより魔獣大量発生と暴走の元凶となる存在の殲滅或いは駆逐を行ったことが立証されたためということらしい

これでもいくつかの減額事由を加味して差し引いた残り、とのこと



報酬を受け取った上で一度宿に戻ると、まだテリーは出かけていなかった

バートもそうだったように魔獣狩りであるテリーが受けるほどの依頼は滅多に出ないらしく、また拓真をジェフの道場にこれ以上通わせる必要性を感じなくなっていたために宿を引き払って他の街に移ろうかどうか迷っていたらしい

・・・尤も、道場の件に関してはジェフが認めるまで辞めることは許さんと言い張られたそうだが



そこで、というわけではないがクロウの元へ行くことにした

理由は言わずもがな、自我を失うほどの『模倣暴走(オーバードライブ)』の術式と正しい制御方法を聞くためである・・・が


「・・・・・ダメですか」

「ダメ、というわけではないが流石に同じ魔法でも専門外だから解析をしなきゃならないしね

だからと言ってもう一度使ってもらう訳にもいかないだろう、魔力回路が損傷した形跡があるし恐らくは相当身体に負荷を掛けていた筈だ


ただし、どうしてもというならその手の知識も持っている人が紹介できる・・・問題は住んでいる街までそれなりに距離があることくらいかな

どうする?」



結局は、というか当然のようにその話は受けた

その人物は朱都からは北西方向にあるオーエステ・ボーデという小さな街の東の外れの方に住む『ユーコ』なる人物らしい

クロウが目の前で2通の手紙らしき物を書き封をするとその片方は鳥の姿になって飛んでいき、もう一つは紹介状として受け取ったのでなくさないように空間魔法に仕舞おうとすると溶けるように消えてなくなる


曰く、これで飛ばした手紙と書いた紹介状の2つがセットで本人であることの証明ができると共に、手紙がないと紹介状の存在さえ把握できない一種の暗号としているらしい

更には手紙の方も宛てた先の本人でなければ正しく読めないようになっているとのこと




翌日からは再びジェフの道場に通いはじめた

ほぼふた月もの間通っていなかったが、それが原因で鈍って身体が動かないということも起こることなくウォーミングの後の素振りまで終え、ジェフと1対1での模擬戦を行っていた


最初こそ感覚を取り戻すために互いに強化魔法も使っていなかったが、そこから強化魔法込みの状態に戻るのにそう時間は掛からず、休んでいる間に新たに入ってきていた素振り中の門下生達が釣られて見てしまう程の速度の打ち合いになる


以前のように体術まで織り交ぜての高速機動が主体であることに変わりはないものの瞬間的に強化魔法の出力を引き上げられるほど魔力保有量の増加と制御能力の向上があるようで、生半可な魔獣なら一撃の下に切り伏せることが出来る重くて長い両刃剣と長さこそあるが片刃で細身の刀の質量差による連続攻撃の速度差が出る程度には拮抗させられるほどなのだ・・・・・ただし、ほんの数瞬の話にはなってしまうが


「お前、あれだけ休んでたとは思えないほど荒さがないどころか攻撃速度上がってるな

・・・何があった?」

剣と刀がぶつかり、拮抗したほんの僅かな間に尋ねられる


「そう訊かれても!」

返答と同時に均衡が崩れ、一瞬だけ刀を持つ右腕の強化魔法の出力を上げて剣を逸らすと同時に位置取りを変えるが、予想していた追撃は来なかった


「そりゃあ訊かれても分からない事ぐらいあるよなあ・・・

さて、今度は気を引き締めて来いよ」

一度剣を下げ、左手で後頭部を掻いた後に再びジェフが剣を構える

その雰囲気は実戦を思わせるほど引き締まっており、正対して刀を構えた拓真もいつも以上の出力で強化魔法を待機させる


実際には僅かな時間しか経っていないのだろうが、辺りを支配する緊張と静寂がその時間を途方もなく長い時間に感じさせた直後


どちらからともなく動き出し、互いの刃をぶつけ・・・

ほんの僅かに拓真の刀の方が先に入り、ジェフの剣の軌道を逸らす

ジェフは無理に戻そうとせず防御の位置に剣を差し込もうとするが、それよりも拓真が左手を刀から離し突きの構えに移行する方が早い


軌道を逸らそうと差し込まれる剣よりもほんの少し、10分の1秒にも満たない時間の差で刀が先に通り、道場に鎧を打つ音が響いた




「で、お前はどうするんだ

俺は朱都(ここ)に居ても仕方がないから南都に向かうつもりだが」

宿を引き払い、街の中央にある依頼仲介受付所に掲示された護衛系の依頼書を確認しながらテリーに尋ねられる


南都とは南方エリアで人族最大の街であり、この朱都よりも早くから街全体が多数の魔獣の一斉突撃にさえ耐えられる強固な塀に覆われている上、広い街の中央にある闘技場にてほぼ定期的に模擬戦形式かつ応募参加型の優勝賞金付きの試合(トーナメント)が行われる為に練度の高い戦闘職系の人間が集まり、街の守備隊も含めて『要塞都市』の異名で呼ばれるほどの防御力と攻撃力を併せ持つ街である


「予定通り西の方に向かおうと思います

戦闘力向上にも興味はありますけど、その前にやっておきたいこともありますし」

「そうか、俺の言えたことじゃないが無理はするなよ」


テリーは南都方面への旅客馬車の護衛依頼を受けたらしく、そのまま依頼主の元へ向かうため去って行った


その背中を見送り、拓真も西の方に向かう荷馬車の依頼を受けようとしたときその背中に誰かの視線を感じて振り向く

しかし振り返っても見ているような人はおらず、その頃には気配も消えていた


気のせいかと思いながら依頼の受注手続きを済ませ、依頼主が待つ場所へと向かう




その背中を目線だけで追う者には拓真も、それ以外の周りの人間も気が付かないまま

ここになってようやく登場した通貨は大体20オーラで1円くらいの為替感覚

ただし発達度合いの差で物価は遙かに安い想定


因みに元ネタはラテン語のAurum

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