朱都-9
「なんだ・・・ありゃ」
「おい、上ばかり見るな!
まだ地上の魔獣は残ってるんだぞ!」
上空を見上げた誰かが呟き、それに対して火焔鳥の群れに気付きつつもまだ突撃してくる魔獣の対処を続けていたハンターが叫ぶ
魔力の感覚から小炎鳥が最低でも200、火焔鳥が80程はいると別の誰かが叫ぶ
同時に、小炎鳥ですら本来の火焔鳥並みに強化されていると
上空の異変に気付いたのだろう、森の中から氷や水の槍がいくつも飛んでいくがあまりの高温の為か殆どは溶けるか蒸発してしまい全く届いていないように見える
「氷撃槍すら溶かすほどの高温とはな・・・タクマ、アレに雨を降らすことは出来るか?
さっきの大雨、お前の仕業だろ」
「水撃槍ですら殆ど蒸発させられる相手に全く圧縮させてない水が通じるかどうか・・・」
「だよなぁ
仕方が無い、消耗覚悟でデカいのを一発撃つぞ・・・水龍撃!」
水撃槍どころか氷撃槍ですら殆どダメージを与えられていない様子を見たバートが『雷雲招来』の副次作用である雨で弱体化できないかと訊いてきたが、無理がある事には気付いていたらしく拓真の返答を聞きながら魔力を練り上げ、水龍撃を放つ
幾ら自身が発する炎で周囲の温度が上がっているとはいっても大量の水を一気に叩き付けられれば全部蒸発させるよりも到達する方が早いらしく、群れの縁の方にいた一羽(?)があっさり呑み込まれた
「流石に水龍撃だと消耗がキツいな・・・だがこれなら確実に落とせることが証明できた」
魔力切れ寸前で息が上がったままのバートが口角を上げた
数は少ないながらも森の中から水龍撃が放たれ、その度に呑まれた小炎鳥が墜ちていく
このままなら小炎鳥どころか火焔鳥も数を減らすことが出来るのでは、と拓真が考えた直後、まだ墜とされていない群れの炎の出力が上がり放出されている魔力の量も増えた
「マジかよ・・・あいつらまだ本気出してなかったのか」
少し間を置いたためか息切れが収まったバートが呟いた
「・・・・・バートさん、少しの間僕から離れて下さい」
「・・・何をする気だ?」
「詠唱が必要な術を使います、そうしないと制御出来るかどうか怪しいので」
「分かった、でも無理はするなよ」
決心を一応チームリーダーであるバートに伝えると、何かを察して反対することなく離れてくれた
魔力を練り上げながら少しだけ内容を変更した詠唱を開始する
「原始の流動の象徴の一つにして全てを清め原始へと還す光と熱の源にして荒ぶる神の火よ、その存在を以て我にその力を示せ・・・火神降臨!!」
上空へ向けた右手の先から放たれた白く輝く炎の奔流は存分に熱をまき散らしながら火焔鳥とその周囲にいた小炎鳥のいくつかを呑み込み、その身に炎を纏っても問題が無いはずの魔獣を身に纏った炎ごと焼き尽くす
ただしその圧倒的な火力はかなりの量の魔力を必要とし・・・クロウの指導の下周囲に漂う魔力を効率よく自らの魔力に変換する術を身につけた拓真でさえ魔力切れにさせるほどなのだ
「マジかよ、炎で炎を焼き払いやがった」
一応、魔力切れからはほんの少しずつ回復しつつはあるものの、それでもバートの言葉が遠い
「あれだけの炎を放てる奴がいると思って見に来たのに・・・なんだ、人間か」
突然声が響いたと思った直後、群れの中でも特に大きい火焔鳥から炎が降ってきた
『それ』は地面に辿り着く直前で四肢と頭部を生やした姿―――つまり人型である―――に変わった
尤も、その姿でも浮いているために人型になった意味はと訊いてしまいそうになるが
「この姿は・・・炎精、か?」
「物分かりがいいなそこの人間、流石その魔力を使うだけはある
そこで物分かりのいいお前に単刀直入に要件を伝えよう、なんせ今の俺は機嫌がいい
・・・消えろ」
炎精が翳した手の先に炎が宿り、その炎に身を焼かれる前に『何か』に弾き飛ばされた
「邪魔をするなよ・・・今の俺は機嫌がいいから一回だけは見逃してやろう
だが、次はないぞ?」
再び炎が宿り、今度は妨害されることなく放たれ・・・到達寸前で無意識に術を発動してもいないのにその炎が『消えた』
「・・・何をした?」
「そう焦るなよ・・・一つ質問させてもらおう
『これ』をやったのはお前か?」
炎精の反応に対し、前線から炎に覆われた猪型の魔獣を引き寄せる・・・これも自分で何かをしている感覚は無い、というより既に自分が喋っているという感覚もない
理解が追い付いていなかった先程とは違い、唯一感じているのはドロドロと煮えたぎるような熱い感覚・・・怒りだ
「ああ、そうだ
さして力も無い人間がこれだけいるのが不快でな、これほどの数を用意すれば随分減らせると思ったんだが・・・予想外の収穫があった、だからこそ俺は機嫌がいいのだ
質問は終わりか?」
「終わりだよ・・・・・お前がな」
「魔族相手に一人で喧嘩売るとかあいつ正気かよ・・・逃げるぞ!
アレに巻き込まれたら一溜まりもないしな」
遠くで誰かが叫ぶ声が聞こえるが、そんなことさえどうでも良く感じていた
「人間風情が、ほざくな!」
再び炎が放たれようとするが、今度はその手元で炎が消える
「ああ、お前は負ける
そこに理屈は不要、たった一つの単純な理由さえあればいい・・・理由が何かって?
『お前は俺を怒らせた』、それだけなんだよ・・・・・それがお前の敗因だ」
直後に小声かつ高速で詠唱し、その術の発動キーワードを叫ぶ
「・・・禁呪が一つ、『模倣暴走』!」
『模倣暴走』発動後のことは殆ど覚えていない
その前にまずは術式として炎が消えた現象は戦闘後、覚醒してからその原因に気が付いたのだが、術式の基本は自分の物とは質の異なる魔力を自分の物として取り込む『アレ』だった
そこに自分で改良を加えたのか、それとも外部から強制的に変更を加えられたのかは分からない(怒りのあまり我を忘れていたので)
それを言うなら存在さえ知らなかった筈の『模倣暴走』も何故術式を構成する文言と発動キーワードを正確に詠唱することができたのかということも、そもそもあの程度で我を忘れるほどの怒りに突き動かされるのか、ということもなのだが
そして戦闘終了と同時にその場に倒れた上、既にその場には誰も居なかったにも関わらずいつの間にか朱都の宿の前まで運ばれていたらしい
気が付いたときには宿の布団に寝かされていた
既に日は傾いているようで向こうの壁か何かに照りつけた光が反射しているのだろう、窓の内側に取り付けられた障子のようなものが橙色に染まっていた
頭が全く回っていないのか、何も考えていないまま暫く窓の方を見ていると扉が開く音と共にテリーが入ってくるのが見えた
「目ぇ覚ましたか、今度はひと月だ
・・・前回は兎も角、今回は何をしたんだ?」
一瞬何のことか分からなかったが、少し考えてからそれが眠っていた時間だということに気が付いた
未だに鈍い頭相手に必死に格闘し
「ええっと、炎精相手に何かを話して・・・・・あれ、どうしたんだったかな」
「まあいいや、あの日妙に魔獣が多いなと思っていたら火焔鳥が出やがってな
とてつもなくデカい奴だったからどうしようか迷っている内にあいつら突然弱くなりやがって
・・・ちょっと待て、今炎精って言ったか?
その炎精ってのはどんな奴だった?」
「確か人型をした炎で」
「炎精ってそんな奴ばかりだからな」
「妙に人間を見下してて」
「まあ上級とはいえ魔族だしそんなのが居てもおかしくないな」
「突然難癖付けて死ねと言いながら攻撃してきたので流石にカチンときて」
「そりゃ今まで会ったこともない奴に突然難癖付けられたらイライラするだろうな」
「他の人達がみんな逃げたのを確認してから殴りかかった記憶が薄らと」
テリ-が足下の畳に向かって頭から突っ込み、宿の建物全体が揺れた
「お前なあ、もう少し力量差ってものを
・・・もしかして、火焔鳥弱体化の原因ってお前か?」
「そうかもしれません、魔獣が身に纏ってた炎の原因か?と訊いたら肯定していましたし」
「兎も角、今回の騒動の原因はその炎精っぽいな、あの日を境に魔獣の出没数が激減した上に炎も纏わなくなった
何より態度が急に力を得て調子に乗った奴そのものだ、多分誰も問題は追及しないだろうし
それよりもあの日の魔獣討伐に参加したハンター全員に特別報酬が出ている、お前も調子が戻ったら受け取りに行け
そういうのは本人じゃないと受け取れないからな」




