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朱都-8

そのまま一行は森の方向・・・ではなく、隣町へ向かう街道に沿って進んでいた

街道とはいってもアスファルトや石畳などが敷設されているわけではなく、人間が多数通る内に自然と踏み固められた土がむき出しの道である


その街道も少し前まで魔獣の出没が殆ど無かったために多少の護衛戦力があれば商隊や旅客馬車でも問題なく通ることが出来たのだが、最近は森などで増えすぎて溢れた魔獣が人通りの多い平地にも現れるようになったというのが問題視されている


それが簡易的にとはいえ整備された街道ともなると、森の中に比べて障害物が殆ど無いという性格上魔獣の移動速度も自然と上がることになり・・・結果として街への魔獣の襲来が増えるという事態を招いていた


なので、というわけではないが障害物が多く見通しも悪い森の中の魔獣討伐はベテランハンター中心で構成されたチームが、街道沿いの平地は経験の浅い新人ハンターを組み込んだチームが主に担当して殲滅あるいは間引きするという分担がなされている



因みに、そのハンターはどのようにして新人かどうか識別されているかといえば在籍期間・・・がメインではなく、功績などから考慮して付けられたランクである

ランク自体は『Class ○』の表記であり、下から順にN・D・C・B・A・S・U・Lとなっている


何故拓真でもこの情報を知っているかというと単純な話で、『公開されている』からなのだが、実際にはClass Lの現役ハンターは存在せずClass Uが事実上の最高位だったりする

そのClass Uに該当するハンターの一人が『怪鳥狩り』の異名を持つテリーである


そして今回のチームメンバーではバートがA昇格待ちのB、エメリヒとブルーノはBの中堅どころ、エイブラムはCで拓真はまだNでDへの昇格待ちという状態だ


因みに魔獣狩り(ビーストハンター)冒険者(トレジャーハンター)もそれぞれ個人を容易に識別するためのカードのような物を携行する事が規則によって定められている

流石にこの世界に熱可塑性樹脂(プラスチック)などという物があるはずもないので金属製のカードに特殊な魔法で情報を書き込むという魔法版ICカードのようなものになっているが、読み出しに関しては一部の情報(例えばカード所有者がデータベース上の人物と同じであるかどうかを識別するための符号など)を除けばカード表面に文字などが浮き出るため魔法を使う必要はなくなっている

・・・尤も、ランクによってカードの見た目そのものが変わるという事はないのだそうだが



しばらくすると、遠くにうっすら見えていた森が徐々にではあるがはっきりと見えるようになってきており朱都からそれなりに離れたことが分かる

その辺りで指示された陣形に並びかわりつつ進み、そこから更に少し歩いたところで停止した


「思ったほど魔獣が出てこないな、他のチームに先を越されてしまったか?

とりあえず街道沿いに進みつつ徐々に森の方へ向かう進路を取る」


バートがそう指示して進路を変えようとしたときだった

魔力の塊のようなものが近付いてくる感覚と共に地響きのような音が森の方から聞こえてくる


「各自停止して戦闘態勢!

・・・これは近い上に多いぞ」


ブルーノが戦鎚を取り出しながら前進し、拓真を含めた他のメンバーも互いに距離を取り抜剣して構えた頃、森の中から全身が炎で覆われた魔獣が一気に突撃してきた

道場の訓練の時との違いはといえば明らかに体格が異なる炎が混ざっていることだが、ジェフなどの突出した能力を持っている人間がおらず数も少ない現状でそんなことを気にしている余裕はない


ブルーノの戦鎚はその質量と勢いを遺憾なく発揮し、先陣を切って突撃してきた猪型を後続の魔獣ごと仲良く元の場所へと送り返す


魔獣が吹っ飛んでいくのを見ながら拓真も刀に魔力を注ぎ、素早く移動しながら振り下ろすと、丁度そこに突っ込んできた魔獣の首を切り落とした


バートが放ったらしい氷の槍が多数飛んでいき、それぞれが正確に魔獣の頭に突き刺さり列を崩させようとするが、その後ろから湧いて出るかのように出現する魔獣の群れに呑まれ焼け石を僅かな水で冷やそうとしているような状態だ


ブルーノを挟んだ反対側に陣取るエメリヒは剣による攻撃を諦めたのかエイブラム共々水流撃(アクアシュート)を連射し、魔獣を確実に倒すというよりは後退させつつ倒れてくれれば御の字程度に考えているようにも見える


あまりの魔獣の多さにバートのチームは陣形を維持したままでは戦えない、という状態になっていた

独楽のように回りながら攻撃範囲に入ってきた魔獣を片っ端から肉塊に変えているブルーノが唯一少しだけ前に出ているだけで、他の4人はほぼ横並びである



ちょうど拓真が魔力の刃による範囲攻撃を始めた頃、後続のハンターチームが到着し射出系魔法による攻撃支援が始まった

その攻撃の第一波で少しだけ魔獣の群れが押し返されたのを見て、『雷雲招来』の準備を始める・・・とはいっても、術が使えるようになった頃と比べれば発動までの時間も短くなっている上効率も幾分か改善した改良タイプだが


「天地を結ぶ光の柱よ、その力を以て我が意を示せ

雷雲招来!」


周囲に範囲魔法の行使が分かるように詠唱しながら魔力を練り上げ、発動のトリガーとして魔法名を叫ぶと比喩抜きで文字通りの暗雲が上空に発生し、豪雨と共に落ちてきた雷が直下の魔獣数匹を纏めて灼き、その周囲の魔獣を衝撃波で吹き飛ばす


雨が降り始めて水属性の魔法が使いやすくなったようで、エメリヒとエイブラムは水流撃ではなく水撃槍(アクアジャベリン)で確実に仕留める戦法に切り替えはじめた


森の外縁付近の地面がぬかるんでいる上、攻撃の手数が増えている所為か魔獣の群れが徐々に押し返され始めた頃、さらに応援のハンターが到着したためバートのチームは後退して休息を取るよう指示が出る



「最近は確かに魔獣の出現数が増えてはいたがここまでとはな・・・しかしどこのチームかは分からないが応援要請を出してくれたようで助かった」

「ああ、そうだな

もう少し増援が遅かったら魔力(エネルギー)切れであの群れに呑まれてたかもしれん」

増援ハンターの後ろまでチームメンバー全員が後退したのを確認したらしいバートが口を開き、ブルーノがそこに相槌を打つ


バート、エメリヒ、そしてエイブラムは1発当たりの消費魔力が少ないものを選んでいたとはいえひたすら攻撃魔法を連射していた為、傍目にも消耗が大きく見えるのだがそれ以上なのが常時強化魔法を適用して戦鎚を振るい続けていたブルーノである


拓真は手数こそそこまで多くなかったものの、一発あたりの使用魔力(コスト)が大きい術を何度か使ったために結構ギリギリのところまで来ていた

あれだけの数の魔獣を相手取って戦うと、いくら周囲に漂う魔力を自分の物として取り込んでいても使う量の方が遙かに多くなってしまい、結局は間に合わなくなる時が来るのである



拓真が戦線離脱したことで雷雲招来の副次効果である雨も収まったのだが、当初5人だけで対処していた場所には既に30人ほどのハンターが増援として駆けつけた為にあまり問題になっておらず、むしろ数と質の差による圧倒が始まっている


しばらくはこのまま後方で待機だろう、そう考えた拓真は気になっていたことを訊いてみた

「そういえばこの辺りで見る魔獣って殆どが燃えているまま出てくるものばかりですよね

・・・そんなのが森から出てきているのに何故火事になって大騒ぎになったりしてないんでしょうか」


「そういえばそうだな・・・最近はほぼ毎日この討伐に出てはいるが、魔獣は例外なく炎を身に纏っている

近付けば熱さを感じるし幻覚(ミラージュ)という訳ではないと思うんだが

それに、この辺りの木だけ燃えにくいということは無いはずだ」

チームの中では最も依頼受注回数が多いバートが答えた




直後、『その気配』に一瞬背筋が凍るような感覚がした



「・・・おい、今の気付いたか」

「ああ、こんなのに気付かない奴はそうそういないだろう」

バートが控えめの声で訊き、ブルーノが答える


誰かが呼びかけたというわけではないにも関わらず5人とも立ち上がり、臨戦態勢に入る

数は少ないながらも未だに出現し続ける地上型の魔獣など気にもならないほど大きな魔力の塊


火焔鳥(フレイムバード)小炎鳥(ファイアバード)の大群の接近、それがこの魔獣の群れの暴走の原因だったのだ

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