朱都-5
翌日もやはり同じように朝から道場に通い、昼になれば講義を受けに行くという動きになった、というより4日目まではその生活リズムになった
なく
5日目が同じリズムにならなかった理由は単純、いくら人が来て収入が減っているとはいえある程度は休みが欲しいとクロウに頼まれたからである
結果として5日目と6日目は昼からも道場で訓練することになり・・・
「これだけの期間で慣れる程度の訓練ならそりゃこんなに人が集まるわけがないな」
拓真が入門した4日後に入ってきた新入りのニック共々床に倒れ込むことになっていた
因みに拓真に関しては後輩の入門と同時に腕立て伏せの回数が1.5倍の75回に増やされた上、ランニングのペースも引き上げられている
道場に入門して7日目、例によってクロウの講義が休みであるため今日もジェフの道場にて昼を食べていた
余談ではあるが、この世界では職業柄動き回る冒険者や魔獣狩りなどを含めた戦闘職に就く人間と街の間を結ぶ輸送系の商人などは動き始める時間が早い上に消費エネルギーも多く、移動中の商人に関しては1度に量を食べられる機会が少ないため1日3食だが、それ以外の人間は朝をやや遅くに多く食べ、夕食も日が暮れるかどうかという時間に摂るため1日2食が基本なのだという
そして昼からはいつもの訓練・・・ではなく、半ば定期的に行う魔獣の間引きを兼ねた戦闘訓練の為朱都の外に出る事になっていた
念のため、ニックのみ昼からは休講という事になっている
拓真はあまり気にする必要が無かったのだが、ジェフの道場は講習料が破格等という領域を通り越えて『タダに等しい』レベルと言われている、その理由の1つがこの訓練である
一応『訓練』とは呼んでいるものの実態は魔獣討伐の依頼を有償で引き受けているだけであり、その報酬を講習料に充てているためである
そんなどうでもいい解説を挟みながら朱都を南北方向に走る大通りを南に向かって歩き、南城門を通り越えてからも更に暫く歩いた森の手前で手筈通り2グループに分かれる・・・事は無かった
「総員、停止!
こりゃかなりの数だな・・・」
道場の訓練の一環として来ているということでその道場の主であるジェフも同行しているのだが、そのジェフがかなりの数の魔獣の群れに気づいたらしい
普段門下生のリーダーが指示を出すらしいタイミングより早く静止を命じた
それだけで戦闘準備の意であることを察したゲイルその他の門下生達は抜剣し、剣を振るえるだけの間隔を開けながらゆっくりと進む
当然拓真も何もせず立っている訳にはいかないので剣を抜き、更に魔法が発現するまでの時間を短く出来る術(教えてもらった講師のクロウ曰く、独自に開発したものとのこと)を同時にスタンバイさせてから前進を始める
「もう誰か居るのか・・・?」
ある程度進んだところで門下生の誰かが誰何するように発した
まだ気配などに対して鈍い拓真でも分かるほど魔獣の群れに近づいたにも関わらず、向こうから近寄ってきたという感覚は無い
更に前進すると、自分たちと魔獣の間に魔獣のものとは明らかに違う気配があることに気が付く・・・というか、拓真もよく知っている者の気配である
その時点で周りも誰なのか察したらしく、その地点を中心にあらかじめ決めておいた班分けで左右に別れて進み始める
「この気配・・・やっぱりテリーか!」
いざとなればサポートする気で拓真の後ろにいたのだろう、ジェフが叫ぶのと同時に魔獣ごと木を数本切り倒したらしい轟音と怒声が響いた
「うるせえよ、叫んでる暇があるなら手伝いやがれ!」
音と気配の近さから森の中で戦闘が行われていると思い込んでいた拓真は急に開けた視界と見えた物に困惑したが、そんな暇はないとすぐに気を引き締める
今まで遭遇したことのある地上型の魔獣が悉く炎に包まれたまま立って此方を見ている、というか本体が見えないために魔獣の形をした炎があるようにも見える
実際にはテリーの近くに切り捨てられた魔獣の死骸がいくつもあるので炎が魔獣の本体ではないと分かるのだが、それがなければ対処法さえ分からなかったことだろう
わずかな期間の剣術指導でテリーのように純粋な剣の腕だけでは魔獣を倒せないと判断した拓真は魔法の行使を始める・・・とはいっても放出系や射出系のものではなく付与系のものである
「結合補強、温度変化に対する保護、炎を斬るには水より熱を奪いやすい氷か・・・」
詠唱というよりただの独り言に近いものを呟きながら魔力を練り上げ、その練り上げた魔力を剣に注ぐ
すると重さが変わっていないにも関わらず何故か剣が伸び、これまた理解できない原理で氷をイメージさせるような青く輝く見た目になった
「・・・おい、今何をした」
「・・・・・分かりません、剣の腕だけでは魔獣を倒せそうにないので魔法を使おうとしたらこうなりました」
ジェフが呆れたように訊いてきたので答えると更に呆れたような顔をした
「まあいいや、それで斬れるなら斬ってこい
一応フォローの準備だけはしておく」
結論から言うと、この剣はよく斬れた
いつも視界に人間を捉えただけで何も考えてなさそうに真っ直ぐ突っ込んでくる猪の魔獣は単純に剣を真上から振り下ろしただけで体の真ん中から綺麗に二枚おろしになり、動きが読みにくい狼の魔獣はフェイントも兼ねて野球バットのように剣を振った瞬間に剣から飛んでいった光る『何か』に頭から尾まで両断された
これって俺の道場に入ってきた意味あったのか、とジェフがぼやいていた・・・勿論、剣の訓練の成果が殆ど身についてないという意味で
ネコ科の大型動物っぽい魔獣(表面が全て炎に覆われているせいで元の魔獣の種類が分からなかったのだ)は流石に拓真の手に負えないと判断したのか、ジェフが素早く前に出て魔法の付与も何もしていない剣で切り伏せていた
拓真は保有魔力量と術の相性、剣の腕などから後方に流れてきた討ち漏らしの相手をしていたのだが、ふと気付くとすぐ近くにクロウが来ていることに気が付いた
気付いた理由は単純で、普段講師として対面するときには感じない膨大な魔力を放出していたからである
同時に、声ではなく直接頭の中に響く感覚の声で後退を命じられ・・・直後、視界に入っていた魔獣が一瞬にして全て凍り付かされ、絶命した
「偶にはこういうこともやっておかないと感覚が鈍りますね・・・|我が手に剣を《サモンアームズ:ソード》」
自然に剣を引き抜くような動作で呼び出したらしい剣を握るが、その剣は見慣れた両刃のショートソードではなく、片刃で緩く湾曲した細い刀身を持つ剣―――日本刀だった
刀を構えた瞬間、消えたと錯覚するような速度でクロウが駆け出す
「なんだあいつは・・・殆ど無駄のない大規模魔法を行使してから高出力の強化魔法を併用しての近接戦に移れるとかどれだけ膨大な魔力と魔法の制御能力持ってやがるんだ」
拓真の剣に対するものと同じように呆れたジェフを見た拓真は説明するのも面倒になり、知らないふりをしようかなどと考えながら前進を始めたジェフについていく
あまり離れていなかった他の門下生達と合流して進むが、これでもかというほどいた魔獣は殆どが凍らされているかそうでなければ切り捨てられたまま放置されており、最早道場の人間が出る幕はなくなっていた
「こりゃ俺らの出番はねぇな、今日のところはこれで終わりとする
各自、討伐証明部位だけは持って帰るように」
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