朱都-4
「まあ、神話ほど昔の話と言ってもそう大したことではありません」
クロウのその言葉と同時に建物が揺れたので周りを見てみると、後ろでテリーが頭から突っ込んだと錯覚するほどの勢いで額を畳に打ち付けていたらしい、再起動すると同時にぶつぶつと文句を言っていた
「昔で言うところの天と地・・・後の御使と魔族なのですが、人族はある意味でその中間に位置していました
要は当時の人間が持っていた力は魔力の要素も含んでいた、というだけであって今のように魔族と同じ術が使えたという訳ではありません」
話の続きを書き記すならこうである
そのままでも今の魔法に相当するような力が行使出来ないだけであり、魔獣も今のように多くはなく、人の数も少なかった当時では何の問題もなかったのだ
ところが、ある程度人の数が増えたときにある魔族が考えた―――魔獣を増やし、人間に向かって差し向ければ自衛のための力を身につけようと自らの元にも教えを請う者が現れると
その魔族が欲していたのは教えを請う人間ではなく、自分にとって都合のいい駒・・・つまり下僕なのだが、正直に言ってしまえば自らが『居なかった』事にされることくらいは理解していたのだろう、口実を用意して仲間を増やそうとしたのだ
その結果が現代の『魔法を使う人間の存在』なのだが、当然これに慌てた勢力がいた
『人間は天と地の間の地位にあるべき』と考えていた(厳密には御使を統べる者にそうプログラムされていた)御使達と魔族の一部である
本来であれば橋渡しの位置の人間を魔族の側に寄せられては困る、しかし介入しなければそのままバランスが崩れてしまう
そこで考えられたのが『人間を元の位置に戻すのではなく、人間も天と地に分けてしまおう』ということだった
そうすれば増えた人間を中立の位置に留まらせ続ける努力はしなくてもいい(察しは付くと思うが、これは魔族側に紛れた者が誘導した結果である)
結果として魔に傾いた人間と天の器を持つ人間の2種類が地上に現れ・・・天の器はやがて天上人となり御使と共に地上から姿を消した
「・・・と、いうのが大まかな説明になるのですが」
「それのどこが『大したことじゃない』んだ!?
というかそれを『神話』と表現したということは・・・」
「ああ、別に神が実在していたとかそういう話ではないんですよ
それだと魔族側にも同等以上の『統べる者』の存在がなければ釣合が取れません」
この時、拓真は二人に魔王の存在を教えようとして・・・
気が付いた時には布団に寝かされていた上、朝になっていた
「いつまで寝ているつもりだ?
今日は朝からヤツの道場だ、俺は資金を確保しなきゃならんからそう付き合えるわけじゃない」
昨夜の記憶があやふやな所為か、上体を起こした状態のまま固まっていると既に起きて動き始めていたテリーにどやされる
機嫌を損ねたかと慌てた拓真は素早く身支度を済ませ、表へ出る・・・と、宿の前でゲイルが待っていた
「よう、新入り
ジェフさんに言われてお前を迎えに来た、どうせ昨日初めて来たわけだから道も覚えてないだろう
・・・俺を待たせたか、なんて訊くって事はやっぱり怪鳥狩りに怒られたか?」
道場まで向かう途上、修行とは殆ど関係の無い他愛ない話をしながら進む
ゲイルの歳自体は22と、他の門下生と余り大きな差は無いどころか年長者の部類に入るのだが、まだ入門して半年も経っていないのにリーダーを任されるほどの剣の腕と魔法能力、纏め上げる能力を持つのだという
かなり派手で目立つ髪色(本人の言では地毛とのこと)と左右で色の違う眼、歴戦の剣士に腕を認められているとは思えないほど細い体格故か『怪鳥狩り』と張り合えるジェフリーに認められている、という事をあまり良く思っていない者が古参新参問わず多いのが悩み、とのこと
そんな話をしているうちに道場まで辿り着き、昨日よりも楽な訓練が・・・待ってはいなかった
例によって敷地内20周のランニングに腕立て伏せ50回、4桁に届きそうな回数の素振りなど、終える頃には荒い息のまま地に伏せていた
昨日のを見ていた時点で思ってはいたがまあこんなものだよな、とはジェフの談である
その昨日は朱都に辿り着いた時点で昼近かった為、道場での練習は夕方辺りまで行い夜になってから魔法の講義だったのだが、今日からは朝から昼まで剣の鍛錬(分かっているとは思うが間違っても金属を打って剣を作ったり直したりすることではない)、昼から夕方というか夜浅い時間まで魔法の講義兼練習である
昨夜の記憶が途中から抜け落ちているが、どうやら練習場所を併設した私塾の場所を記した簡易的な地図をクロウから受け取っていたらしい
地図に記された案内の通りに行くと、一軒の家屋らしい建物の前に辿り着く・・・と、今まで睨めっこしていた地図が突然鳥のような形になり家屋の中に向かって飛んでいった
「やあ拓真君、待っていたよ
中へどうぞ」
誰も居ない空間から声が聞こえ、同時に床が流れるように光が明滅する
床が流れるように光るのは兎も角、客人を家の中にいる人間が認識して外に聞こえる装置を使って話しかけるのはインターホンそのものだよなあと思いながら案内に従って進む
そして通された部屋は特に変わったところのない―――あまり大きくはないテーブルと椅子しかないが故に多少殺風景な気はするが―――見た目であった
その部屋のいくつか置かれた椅子の一つにクロウが腰掛けていた
「どこに座っても同じようなものだから座る場所の指定はしないよ
私に教えを請う者は殆ど居ないが・・・まあそれは気にしないで欲しい」
言われた通り、なんとなく選んだ椅子に座ると今度はクロウが立ち上がる・・・とそれに合わせるように部屋が少し暗くなる
「一番単純な魔法術式の構築の仕方は昨日教えたね
4属性の魔法はその基本形にいろいろ書き加えたものが殆どだから、今日はそこからかな」
暗くなった壁の一部が明るくなり、昨日見た灯火の魔法陣が描き込まれ・・・その五芒星の中心の五角形の中に円が書き加えられた
「これが火炎球の魔法陣・・・ああ、射出とか圧縮は別の魔法陣を重ねる形式だからここには入っていないよ」
その後も同じように投影した魔法陣に図形を書き加えて別の術に変えるというような講義が続き、終わりとなった
尚昨日の暴発(?)を警戒してか魔法陣に組み込まれた意味に関しては全く教えてくれなかった、ということだけは記しておこう




