朱都-3
前回の道場の塀の内周は300m位の想定
ジェフの道場のようなものを後にした拓真はテリーと共に一度宿に戻ることになった
テリー曰く、剣術だけ鍛えられればいいのであれば丸一日を費やしたいところではあるが、魔法もとなるとそうはいかないのだという
まだ日が沈む前の明るい中来た道を戻りつつ、その路上の露店で食材を買ってから宿に戻ると宿の主(?)の女性が待っていた
「思ってたより早いお帰りだね、まあいいさ
もう少ししたら客人が来るからそれまでゆっくりしてな
・・・思ってたより早いって顔をしてるね、宿屋の顔の広さは伊達じゃないってことさ」
電化製品が普及しきった現代の感覚の拓真にとってはまだ早いと言えるような時間に夕食を済ませ、壁面にいくつか据え付けられている燭台に立てた和蝋燭のような太いロウソクに灯火で火を灯す
すると、そのタイミングを見計らったかのようにドアを軽く叩く音が響いた
「Hello
私、紹介を受けて参りましたクロウ・サクラカワと申します」
扉を開けると、この世界に来てからは初めて見る和装の男が立っていた
「・・・で、魔法といえばてっきり広いか対魔法障壁も備えてるような場所で鍛えさせるのかと思っていたんだが」
空間魔法から取り出したローテーブルの上に懐から取り出した本を置いたクロウを見たテリーが呟いた
「基礎から教えるには座学の方がいいかと思いまして
・・・それに、いざとなれば即席の障壁くらいならすぐに用意できますのでこれで充分です」
「さて、まずは魔法がどんなものかを理解するところからです・・・いいですね?」
装丁だけは豪華というか頑丈そうな薄っぺらい本を広げながら説明を始める
・・・後半のはテリーに対する確認のようなものだろう、言葉と共に目線をテリーの方へと向けると首肯で返していた
それを確認した拓真は再び卓上の本に目を戻し、本を読もうとする・・・が、驚いたことに本には何も書かれていなかった
「まず我々が魔法と呼んでいるものは言い換えれば『現象』です
体内に保有する魔力を一定の手順、『魔法術式』に従って変質させる
・・・どうしても形を変えるにあたってある程度の損失は出てきますがこれは仕方がありません
それで、その術式なのですが」
今まで白紙だった本に文言が記され始めるのと同時、その下には図形が描かれ始めた
「『原始の流動の象徴の一つにして全てを清め原始へと還す光と熱の源、その存在を以て我の前にその力の一端を示せ』、これが最初に覚えることが多い灯火の術式として図形に組み込まれた意味です・・・尤も、今時これを読み上げることもなければ目にすることもありませんが」
図形の方は『魔法陣』と呼ばれる物であろう、太い線の円の内側に細い線の円が一つ、更にその内側には五芒星が描かれ、本の上側を指している頂点・・・から見て時計回りに一つ隣の頂点付近にだけ五芒星よりも更に小さな円が五芒星と内側の円の接点を中心に描き込まれていた
「この外側の円は『循環』を示す物で術式の条文に関係なく組み込まれます
そのすぐ内側の円は頂点の小さな円の位置と共に火を表すと言われており、この五つの頂点の図形は魔法の5つの属性を表している・・・というのが魔法を学ぶに当たって最初に教えられる項目です
因みに5つの属性とは火・水・風・地に無を加えたものですね」
「そりゃ俺も教えられた内容だな
ただ一つ疑問に思ってるのがあるんだが、この前朱都の近くに何発も雷が落ちた上にそこだけ激しい雨が降ったってことがあっただろう
それをやらかしたのがこれなんだが・・・属性はどれになるんだ?」
「・・・色々突っ込みどころがありそうな上に中々変わった話のような気がしますが、無以外の4属性に当てはまらなければ無属性になりますね
いや、雨も降らせたと言うことは水属性と無属性の混合なのか・・・?
とりあえずその話は置いておいて4属性、火属性の灯火以外の魔法も教えておきましょうか」
書かれていた灯火の術式が消え、今度は先ほどと同じように文言と図形のセットが3つ当時に表れる
白紙の本に魔法で書き込んだり消したりしているのか、それとも本そのものに魔法術式を組み込んでいるのかは分からないがこれでは本というよりまるでタブレット端末のようだ
『進みすぎた科学は魔法と区別が付かない』と言われる事は少なからずあるが、この場合は科学と魔法が逆である
閑話休題
描かれた図形は左から順に細い円が二つ重なった中に五芒星の灯火とは左右逆の頂点に丸が描かれた物、細い円が三つ重なった中に五芒星のみが描かれた物、細い円が四つ重なった中に灯火よりも更に時計回りに進んだ方向の頂点に丸が描かれた五芒星が描かれた物である
「左から順に滴、凪、礫の構築術式とそれぞれの意味ですね」
今度は魔法陣の下に文言が記されており、それぞれ
『潤いを与える者、全ての生命を育てるその流れの力を我にも与えよ』
『見えざる力にて動かす者よ、その力を我に示し我の一部となれ』
『全ての生命を支えし母なる大地よ、偉大なるその存在の一部を我が手に』
と書かれているのが(厳密にはこの世界の文字が理解できていないにも関わらず)なんとなく理解できた
何故か灯火の文言に比べて他が短い、というかそっちだけがやたらと長くなっているがそれはは気にしてはいけない気がした
「他にも教えたいものは色々あるのですが術式の構築はあと少しの説明で終わりますし、この文言で正しく術が使えるか試してみましょう・・・まずは制御しやすい灯火から」
念のため、とクロウが懐から取り出した道具に魔力を注いで対魔法障壁を展開させるのを待ってから詠唱を始める(勿論それもクロウの指示の内なのだが)
「原始の流動の象徴の一つにして全てを清め原始へと還す光と熱の源・・・」
詠唱を始めると灯火の発動とは思えないほどの量の魔力が動き始め、急激に温度が上がる感覚がした
「おい、なんだこの魔力の量は・・・どう考えても灯火で使う量じゃねーぞ!?」
テリーが驚き、クロウが障壁を強化しようと更に道具に魔力を注いでいく間にも詠唱は続く
「・・・その存在を以て我の前にその力の一端を示せ」
自分の体に突如宿った熱が掲げた右手の先に吸い込まれるように収束していき、同時に灯火ではない発動のキーワードが脳裏に浮かんだ
「火神降臨!」
火属性の大技である焔の息吹でさえ白みがかっていたとはいえまだ橙色を残していたのに対して、火神降臨の炎は青白い上に見えづらくなっている
「文言は間違っていないはずなのに違う魔法が発現した・・・?
しかもサイズの割にかなりの熱を放っている・・・とりあえず火は消してくれ、この様子だと他のは詠ませない方がよさそうだ
ところでカグツチって何なんだ?」
炎と障壁が消えて暫くしてから抗議もとい、講義が再開された
そもそもこの現象を起こす源を『魔力』と呼び、その魔力を使って起こす現象が『魔法』であるのは先述の通りなのだが、そもそもそれらに『魔』の文字が充てられる理由
本来このような講義を受ける層には『魔族が使うものと同質のものだから』で説明を終わらせてしまうのだが、当然拓真ほどの知識を持つような年齢になればその説明では不十分になってしまう―――尤も、辺境の村で一生を過ごすような人間まで現代日本の教育を受けた拓真並みの知識を持っているかどうかは別として
それは最早昔話の域を通り越えて伝承、或いは神話と呼んでもいい時代の話
魔の者と対になる御使と、今は存在していない天上人が居たとされる頃の話である
説明回になるかと思っていたら突然話が広がった、何を言っているか分からねーと思うが(ry




