朱都(しゅと)-1
朱に塗られた柱と白塗りの壁を持つ建物、その間を走りながらも碁盤の目のように真っ直ぐ東西と南北を結ぶ道
『朱都』と呼ばれる街を空から見ることができるのであれば、このような構造になっているのが分かる
そんな街を囲うように走る石積みの塀を区切るようにして四方に立てられた朱塗りの丸い柱に瓦葺のような黒い屋根の威風堂々とした佇まいの大きな門の一つ、東参門に一行は到着していた
入り口前で街に入る手続きの順番待ちをしている間、護衛隊長のアーサーから朱都についての話を聞くことになった
元々活気のある街で辺境の村という訳でもない為、元々塀や壁といったもので囲われてはおらず、今より二回り以上小さかった門はあくまでも他の街から来た人間や魔族に対して街の力を示す程度のものだったのだという
ところが、ある時からこの街にも少数かつ散発的とはいえ魔獣の襲撃が発生するようになったらしい
元々それなりに大きな街だったため、守護隊内部に周囲を警戒する為の歩哨部隊を新設したのだが、その頃になって早馬によってとある報が持ち込まれた
―――かつて『怪鳥狩りのテリー』と呼ばれた英雄が暮らす街のあったサウスコンプトン地域が魔獣の大量発生によって番外地域となった、と
当時朱都の長だった者は即座に街の拡張と、その拡張予定地外側への防壁の建設を指示
同時に守備隊の大幅な拡張と襲来する魔獣に対する新たな防衛拠点として、それまでの四方の門よりも更に外側に北礼門、南城門、東参門、西塞門が建てられた
これらの新しい門は専属の守備隊の他、緊急時に街で雇った冒険者や魔獣狩りの詰所としての機能を持たせ、尚且つ魔獣の魔法攻撃や突撃に対する防壁の役割も担っている
尤も、それだけなら此処まで大きくしなくても殆どの魔獣に対する防衛能力は充分に得られる
にも拘らず、これだけ大きな門を建造した理由は拓真を含めた一行が既に見えるようになっていた
金剛力士像の如く門の左右に据え置かれるように鎮座する、人を模して精巧に作られた巨大な石像
その高さは6m程あり、しかもこれほどの大きさと精巧さを備えながら有事の際には魔力を注ぎ込むことでその圧倒的な質量と巨大な躯体を武器として戦う自律人形なのだという
そしてそんな石像を見た拓真が金剛力士像を想起した理由、それは大きな門の両側に置かれていたことだけでも、人の形をした巨大な石像というだけでもない
その像は僅かに差があるとはいえ、2体は共にその表情を憤怒の色に染めていた
この怒りの形相は人の街を乱すものに対して向けられているという説明を聞きはしたものの、拓真にはどうも自分のように地球、特に東洋から来た者が伝えたようにしか思えなかった
話を聞いている間にも列は進み、巨大な門に設置されている複数の扉のうち最も外側の扉の横を通り過ぎた場所に設けられた人や魔族の出入りを管理する為の関所のようなものまで辿り着いた
ここではあくまでも行軍中の指揮を取る護衛隊長ではなく、届出上の代表である輸送隊のリーダーが対応する
元々朱都を基点に動いている輸送隊やメンバーの殆どが朱都にて登録している護衛隊は出立時と相違ないことがすぐに確認され、名も顔もそれなりに知られているテリーに至っては殆ど顔パスレベルであった
唯一何処の誰かも分からない拓真だけは時間をかけて検査されるかと思ったのだが、『怪鳥狩りのテリーが珍しく弟子のように同行させている』という理由だけであっさり通過することが出来てしまった
関所を通り過ぎてすぐ門の内側に出るということはなく、何枚か存在する分厚い金属の扉を通り過ぎることで漸く朱都に入ることが出来た
因みに東参門を含め、四方全ての門にはその内部を区切る大きな扉が2枚1セットで壁方向の1列に4セット、更にその4セットの扉が通り方向に5セットの計40枚も存在するのだという
これらの扉は基本的に日中は全てが開放され、夜間も1つは必ず開けられているらしい
それは門ごとに4つ設けられている関所を開けておくことで日中は大量に出入する人を迅速に捌き、夜間は僅かながら出入する人間の他、日中に比べ高いリスクを伴う夜間行軍をしてでも魔獣から逃げなければならない人間を受け入れやすくする為でもある
尤も、1つの関所を開けるためには10枚もある扉を開けておかなければならず、魔獣の襲撃を受けた場合に閉めるまでの時間を稼ぐ必要がある訳だが、人力で閉めていたのではとてもではないが時間が掛かりすぎてしまう
その点も門の建造時に考慮されていたのか、全ての扉が魔法と人力のどちらでも開閉できるようになっている
更に、閉じた後に外側から開けられるのを防ぐ機構は原始的な閂なのだが、これは扉相応に大きく直接魔法で動かすか、そうでなければ高出力の強化魔法で強化した筋力を必要とするらしい
今の巨大な門が建造される前に訪れたことのあるテリーは兎も角、一度も訪れたことが無い拓真にとって朱都の街並みはある意味新鮮な光景だった
今まで訪れたことのある街は殆どが石か木で出来てはいたものの、コストを抑える為木の部分に腐食防止の塗装がされていただけだったのだが、この街は白く塗られた壁を囲うように配された構造材が朱色に塗られ、その上に載せられたような屋根は門と同じく黒に染められている
門から真っ直ぐ伸びる大通りのみならずそこから分かれている通りや小路の舗装も全て表面を平らになるよう削られた石畳になっていた
輸送隊の目的地は街の中でも中心近くにあるようで、荷馬車を先頭に綺麗に舗装された道を進む
嘗て街の端に位置していた門を通り、それまで建物だと思っていた壁が門と塀であることを認識できるほど中心近くまで進んだ頃、荷馬車が大きな建物・・・の前の塀の切れ目の前で止まった
どうやら此処が輸送隊の目的地だったらしく、飛び込みに近い形で護衛を引き受けたテリーと拓真は依頼達成の給金を受け取って別れた
「さて、聞いていた通り此処が朱都だ
道中殆ど宿を取らずに動いてきたから一先ずはお前の武器を、と言いたいんだが」
「ある程度やり直したほうがいい、ですね」
「そうだ
流石に何でもかんでも座学で身に付く訳じゃないが、だからといって全て体で覚えるのは無理がある
残念なことに俺は言葉で人にもの教えるのが苦手でな、こういうやり方でしか出来ないんだ」
地理的にも政治的にも街の中心にある建物群を囲う塀を背に大通りを少し歩き、右の通りに入る
そのまま歩きながらも話は続く
「とりあえずそういうのを教えるのが出来る奴のアテはあるが、その前に当面の宿を確保しなけりゃならんな
この辺りはまだ商人向けの短期宿が多いが、この先に暫く泊めてくれる所が何軒かあるはずだ
ある程度自分で身の回りのことを出来る必要がある代わりに料金は安くしてくれる、出来なければ追加料金でやってくれるがな
宿が取れたらアテを回るぞ」
そのまま通りから小路に入って幾つかの建物の塀の前を通り過ぎ、他とは少しだけ違う雰囲気の塀の前で立ち止まった
その塀のほぼ中央にある小さな門を潜った先の右手側奥に一つだけある扉のすぐ横に丸窓があり、来客に気付いたのかその窓が内側から開けられ、腕っ節の強そうな女性が応対するのがテリー越しに見えた
「いらっしゃい、泊まりかい?」
「ああ、どのくらい泊まるかは分からんがとりあえずこの金額分で頼む」
「結構長いこと使うのかい
いいよ、前の客が一昨日出て行ったばかりで丁度部屋が空いてるんだ・・・オプションは?」
「今の所無し・・・いや、人の紹介を頼む」
「そっちは専門外なんだけどね
・・・用があるのは連れの方かい?」
「察しが良いな、これに剣と魔法を教えたい」
「アンタほどの人が付いてるってのに?」
「俺は人に教えるのが苦手だからな、とりあえず魔法は使えなくもないが剣が振れないんじゃ意味がない
・・・尤も、剣のアテはあるから魔法の方の話だが」
「今魔法は使えなくもないって言ったばかりじゃないか、言ってることが違う気がするけどね」
「いや、それで合ってるんだ
本来魔法ってのは無意識でも術式に従って構築するだろ?
これは想像だけで出来てしまうらしい」
「それは一種の才能だと思うがね、まあいいよ
紹介してあげる、追加料金は・・・まあ初回な上に前金でこれだけ払える優良客なら無しでもいいかね
そっちのも入りな」
窓の横の扉が開かれ、中へと続く通路が見えるようになった
どうもこの入り口は一度東側だけが塀になったコの字形の建物に囲われた中庭に入るための物らしく、そこから南の管理棟と北の宿泊棟、西の炊事棟に出入りする構造になっているようだ・・・尤も『棟』と表現した建物自体はどう見ても平屋建て程の高さしかないのだが
とりあえず部屋を確認するためテリーに続いて宿泊棟に入ると、やはりそれまでの街の建物とは違い入り口のすぐ先で床が一段高くなっており、板張りの床の上にはスリッパのような履き物が並べられていた
テリーが口を開く前にほぼ無意識の動作で靴を脱ぎ、スリッパに履き替えたあと脱いだ靴を揃えておいた、脚下照顧というやつだ
「・・・ここでは靴を履き替える、と説明する必要は無かったみたいだな」
板張りの部屋を中心に西側、丁度玄関を背にしている拓真には左手側に水回り(今でいうシャワールームやトイレのことだ)があり、反対側には畳が敷かれた部屋があった
「もう説明するまでもないと思うが、こっちが寝室な」
拓真に遅れて畳の部屋の前に来たテリーが言った
「わざわざ置いていく物もないし、とりあえずは剣を教えられそうな奴のところに行くか
付いてこい」
執筆に使ってたメインPCの動作が不安定なのでサブのスティックPCで書こうと思ったらサブ機用の無線キーボードの電池が液漏れ起こして死んでました




