朱(あか)い荒野-街へ4
小炎鳥を退けた拓真とテリーはその足で人族のものとしては南方第二の都市、朱都の目前というところまで来ていた
一応、それよりも遥か手前に存在したいくつかの街にも寄ってはみたのだが、その町に滞在しながら拓真の戦闘能力を引き上げるにはもう無理があったのだ
・・・魔法や剣術に関してはテリーの教え方では色々と無理があり、かといって街の人間にしてみれば異質極まりない魔法の扱い方をしている者相手に殆ど無意識にやっている術の構築という基本中の基本を教えなければならないというある種高いハードルが立ち塞がってしまっている訳で
更には武器の方も問題だった
そんなものと言われてしまえばそれまでなのだが、当然小さな町に簡易的な鋳造の量産品よりも質のいい剣を大量かつ安価に揃えられる店などあるはずもなく、また安物とはいえ剣を大量に買い込むのも問題があった・・・主に収納場所と購入資金の面で
結果としてそれらの街では主に周囲の魔獣の間引きで資金を稼ぎつつ、街の間の定期便の護衛を引き受けた足でそのまま移動するというのを何度か繰り返す事で宿と資金、そして食料の心配をすることなく旅を続けられたのである
テリー曰く、資金も知名度もなかった若い頃に良くやった手段とのこと
要は資金稼ぎを兼ねたヒッチハイクそのものなのだが、それなりに大きな街でそれぞれ護衛戦力として雇われている戦闘職以上の戦闘能力を1人で持つ者は重宝される傾向にあるらしい
実際、時々護衛依頼を共同で受けたグループにいるテリーに対するベテラン戦闘職の信頼はある種凄まじいものであった
そのテリーと一緒に動いている拓真も基本的には護衛対象の馬車からある程度離れて動くことが出来る遊撃として配置されてはいたが、評価は・・・そう期待されるものではなかった、とだけ言っておこう
野営を含めても翌日の昼過ぎには朱都に到達するというのが現在共に動いている護衛隊および輸送隊の計画である
既に朱都に近く、魔獣の襲撃の心配も殆どないということもあってか自然と斥候以外は密集に近い布陣での行軍になっていた
そんな中、2人に最も近い位置にいた護衛隊のリーダー、アーサー・A・マゼラーティがテリーと話を始めた
「もうすぐ朱都ですな
今回は貴殿が随伴というのもあってか我らも随分と楽をさせて頂きました」
「俺も昔はそれなりに腕を鳴らしていたが今は隠居した老いぼれ、現役で鍛え続けているものには負けるさ
それよりもこの部隊の方が腕は良いのではないか?」
「またご謙遜を
確かに彼らは選りすぐりの精鋭のようなものですが、いざというときの戦力では貴殿の方が上でしょう
それよりも連れている様子の彼ですが・・・随分と変わった者ですな、戦闘経験自体はかなり浅い上に魔力量も多くはないようですが、それ故か伸びるのも随分と早い
私の元に欲しいくらいの人材です」
「あれはどういう事情があったのかは知らんが、俺の家に文字通り降って湧いた奴よ
流石に何も出来ん者をそのまま住ませる訳にはいかんかったから剣と魔法を教えようと思ったのだが、剣よりも魔法の伸びが凄まじくてな」
「神の恵みとも言うべき物でしょうか・・・後衛向きの能力のようですが、良い師に出会えたようだ」
「全くだ・・・尤も、剣に関しては少々教え方が問題だったかもしれん」
すぐ横で聞いている拓真にしてみれば少々こそばゆい様な話がそのまま続けられるかと思った直後テリーとアーサーが話を中断し、その視線が揃って空を向いた
「随分順調に進んでいたと思ったらこれか、陸を進む者のみ警戒できていればよかったのだが・・・総員停止!上空からの襲撃に備えよ!
斥候を呼び戻せ、輸送隊には最小限の護衛のみ残し、いざという時の備えとする」
「「「「「「応!!」」」」」」
返答と共にアーサーの指示通り全部隊が停止、同時に対空戦闘陣形へと形を変える
「また小炎鳥か・・・いや、大きな反応が幾つかあるな
数も多い、今までで最も面倒な相手か」
テリーがそう呟いた頃、拓真にも何となくその群れが近くに来ているのが分かった気がした
尤も、姿が見えるようになる時間との差はあまりなかったが
「こりゃまた多いな、小炎鳥だけで30オーバー・・・大きいのは別種か?」
魔力的にも見た目にも大きいものが10はおり、更に標準サイズの小炎鳥が30オーバー、それらの反応に紛れるように小型のものが多数という群れが急速に接近してくる
魔獣の群れが現れる頃に護衛隊は既に対空戦闘の準備を整えており、剣を片手で持ちながら魔力を練り上げている前衛と防御魔法を用意している中衛、そして付与魔法を矢などの遠距離武器に乗せて待機している後衛がある程度距離を取りつつ密集しているような状態である
護衛隊のリーダーは部隊から少し放れた位置で既に術式の展開を終えており、その頭上には水、風、岩の槍を多数展開していた
後でテリーから聞いたところによると彼は『三又槍のアーサー』の異名を持つ前衛系の戦闘職であり、属性の異なる3種の射撃系魔法を織り交ぜながらの戦闘を得意とするのだそうだ
今回は殆ど使っていなかったが、彼は剣ではなく槍や銛といった技量を要求される代わりに動きも間合いも読まれづらい武器を好んで使うらしい
それと併用して大量の射撃系魔法を待機させたままというのが得意な戦法であり、つまりは1対多数の戦闘に特化した特殊な前衛である
誰のものよりも早く、アーサーの放った魔法が魔獣の群れを迎え撃つように飛んで行く
その攻撃を嚆矢とするかのように他の護衛隊メンバーも一斉に水撃槍を放つ
水撃槍は以前テリーが使ってみせた水球撃や水球弾とは違い貫通力に重点を置いたものであり、使用する魔力の量を増やすとサイズはそのままに威力(貫通力)が上がる攻撃魔法である
拓真もその後を追うように麻痺雷撃を群れの中でも大きいものへ向けていくつか放った
水撃槍や雷雲招来とは異なり直接対象を貫通することによるダメージは期待できないが、代わりに対象が雷撃系への耐性を持っていなければ術名通りの麻痺を引き起こすことが出来る攻撃補助系の魔法である
そんな中テリーは前回の失敗が余程堪えたのか数の多い小型のものから確実に落としていく他のメンバーとは異なり、大型のものさえ確実に仕留める事が出来る水龍撃を放っていた
さすがにそんなものを当てられては堪らないと思ったのか大型の魔獣が炎を吐いて応戦しようとするが、本気を出した『怪鳥狩りのテリー』の前には全く歯が立たず、逆に自身が放った炎ごと激流に呑まれて倒されていた
本来、多数相手の戦闘で消耗の激しい大技を乱発するのは問題などというレベルではないのだが、今回は放った当人の保有魔力量自体がかなり多いこと、それなりに名の知れた人間だったために派手な技でも一撃で大物を仕留め、他のメンバーに対する鼓舞になったことから誰からも問題だと思われなかったらしい
ある程度大型のものの数が減り、今度は数の多い小型のものを纏めて撃ち落そうとしたのだろう
再び水龍撃を放ちかけたところで何かを思いついたかのように術を止め、未だ大量の魔法を放ち続けているアーサーの下へ駆け寄っていた
拓真は水撃槍を放ちながらそれを視界の端で捉えていた(勿論、意識は主に空の魔獣に向いていたが)
暫くするとアーサーが何か指示を出したのか、攻撃の手を緩めないまま突然部隊が後ろに下がり始める
同時にテリーがこちらに向かって駆け寄ってきた
「魔力のストックは充分か?」
「このくらい消耗の少ない魔法ならまだ撃ち続けられるくらいにはありますが・・・」
「なら充分だ、この前のを撃て
出来るだけ魔獣を纏めて倒せるようなのをな」
「いいんですか?少し集中する必要があるのでその間無防備になりますし、使った後も動けるかどうか分かりませんけれど」
「魔力は兎も角戦力は俺がいるから問題ない、撃て」
応の意味をこめてそれまで放っていた魔法を止め、イメージを現象に変えるべく集中を始める
前回は少数相手に当てることさえ出来ればよかったので直接雷撃『のみ』を発生させたが、今回は少しだけ変えてみる
力を見せ付けてやれ、と言外に言われた気がしたのだ
思考に集中し始めるのとほぼ同時、それまで雲ひとつ無かった青空を雲が覆い始めた
発動の対象範囲が範囲なので雲は真上にあり、その形は分かったものではないが遠くから見れば積乱雲であることがはっきり分かるだろう
既にごっそり魔力を持っていかれた感覚があるので術の構築は終わっている筈なのだが、まだ攻撃のための現象は発現していない
まだ人間がいるにも関わらず攻撃が止んだからなのか、それとも大きな魔力反応を察したのか魔獣の群れの内のいくつかの個体がこちらに向かってきた直後、天と地を繋ぐようにいくつかの閃光が走り魔獣数体を纏めて貫いた
「雷雲招来、完成です」
ところで、前回の雷雲招来とは違い雲まで呼んだために消費する魔力も増えたのかと思ったがそうではなかったらしい
何故か魔獣の群れがいる場所にのみ激しい雨が降り始め、そこから逃れようとすると雷がその体を貫く
地上からの攻撃も相まって討伐というより最早蹂躙に近い様相を呈していた
「おい、暗に舐められないようにしろと言った憶えはあるがここまでやれとは言ってないぞ」
「そう言われても制御できないものはできないので・・・」
「魔獣だけに当ててる状況の何処が『制御できてない』なんだ?
とりあえず魔法はやり直したほうがよさそうだな、暴発して味方巻き込んだら目も当てられない」




