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英雄騎士物語 ―落ちこぼれ王女と魔法を使えない少年―  作者: kyuto
第1話 出会いは始まり

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それでも、魔法が好きだった

 優斗が会場を出ていくと、周囲がざわめき始めた。


 ルイは閉じられた扉を見つめたまま、立ち尽くしていた。


(私なりの答え……)


 ――お前は、どうなりたいんだ?


 優斗に問いかけられた言葉が、何度も頭の中で繰り返される。


 どうすれば契約してもらえるのか。


 何を言えば、彼は納得してくれるのか。


 考えようとしても、何一つ思い浮かばなかった。


「ルイちゃん!」


「……マリちゃん」


 振り向くと、マリが心配そうに駆け寄ってきた。


「とりあえず、ここから離れよう! こんなところじゃ落ち着いて考えられないでしょ?」


「でも、先生が……」


「大丈夫! 私がお願いしてくる!」


 マリはルイの返事を待たず、近くにいた教師のもとへ走った。


「先生! ルイちゃんを別の場所で考えさせてあげてもいいですか?」


 教師は少し考え、頷いた。


「分かりました。ただし、三十分以内には戻ってきてくださいね」


「ありがとうございます!」


 マリはすぐに戻ってくると、ルイの手を取った。


「さ、行こう!」


「う、うん!」


 二人は会場をあとにした。


     ◇ ◇ ◇


 たどり着いたのは、校舎裏にある小さな中庭だった。


 花壇を囲むように木々が植えられ、中央には古びたベンチが置かれている。


 ルイとマリ、そしてアンナが休み時間によく訪れる、お気に入りの場所だ。


「ふぅ……ここなら落ち着けそうね」


「ありがとう、マリちゃん」


「いいってことよ! さあ、一緒に考えよう!」


 マリがベンチに腰を下ろし、隣をぽんぽんと叩く。


 しかし、ルイは首を横に振った。


「……私、一人で考えてみたい」


「え?」


「彼が聞いたのは、私がどうしたいかってことだったから」


 ルイは胸元で両手を握りしめた。


「マリちゃんに考えてもらった答えじゃ、きっと意味がないと思うの」


 マリは少し驚いたように目を丸くした。


 それから、ふっと微笑む。


「……そっか。そうだよね」


 立ち上がり、大きく伸びをした。


「じゃあ、私はちょっと散歩してくる! あとで迎えに来るからね」


「うん。ありがとう」


「困ったら、いつでも呼んでよ?」


 そう言い残して、マリは中庭をあとにした。


 一人になったルイは、ベンチに腰を下ろした。


 膝の上に置いた両手を見つめる。


(……どうなりたいのか)


 考えても、すぐには答えが出なかった。


 少し前までなら、迷わず答えられたはずなのに。


(私、どうしてこんなふうになっちゃったんだろう……)


 魔法の勉強が嫌いだったわけじゃない。


 むしろ、誰よりも好きだった。


 お兄ちゃんやお姉ちゃんに追いつきたくて、毎日夢中で勉強していた。


 それなのに、いつからだろう。


 魔法を使うことが、怖くなってしまったのは。


 ルイはそっと目を閉じた。


 すると、懐かしい光景が浮かんできた。


     ◇ ◇ ◇


 ――初等部に通っていた頃。


「見て見て、マリちゃん!」


 幼いルイは、授業で使っている杖を両手で握りしめていた。


「昨日できなかった魔法、もう一回やってみるね!」


「うん! 頑張って!」


 マリが期待に満ちた目で見守る。


 ルイは小さく息を吸い、杖の先に意識を集中させた。


 ぽうっ、と淡い光が灯る。


「あっ……!」


 光は小さく揺れながらも、消えることなく輝き続けた。


「できた! マリちゃん、できたよ!」


「すごーい! 昨日は全然できなかったのに!」


「えへへ! いっぱい練習したんだから!」


 ルイは嬉しそうに杖を掲げた。


 昨日は何度挑戦しても、ほんの一瞬しか光らなかった。


 先生に聞いて、本を読んで、何度も練習して。


 そして今日、ようやく成功した。


 それが、たまらなく嬉しかった。


「私、もっともっと魔法が上手になりたい!」


「ルイちゃんなら、きっとなれるよ!」


「うん! いつかお兄ちゃんやお姉ちゃんより、すごい魔法使いになるんだから!」


 あの頃は、そんな夢を当たり前のように口にしていた。


 失敗しても、恥ずかしくなんてなかった。


 できなければ、できるまで練習すればいい。


 新しい魔法を覚えるたび、世界が少しずつ広がっていくようだった。


 初等部の卒業研究が最優秀論文に選ばれた日も、嬉しくて仕方がなかった。


 家に帰るなり、両親のもとへ駆け寄った。


「お父様! お母様! 聞いてください!」


「どうしたんだい、ルイ?」


「私の研究が、最優秀論文に選ばれたんです!」


「おお! それはすごいじゃないか!」


 父が満面の笑みを浮かべる。


「さすがルイだ。お父さんも鼻が高いぞ!」


「ふふっ。お姉ちゃんたちもうかうかしていられないわね」


 母も嬉しそうに笑った。


「えへへ……!」


 褒めてもらえるのは嬉しかった。


 頑張ってきたことを認めてもらえるのも。


 でも、それ以上に。


 昨日まで知らなかった魔法を知ること。


 昨日までできなかったことが、今日できるようになること。


 ただ、それだけで。


 胸が躍るほど、楽しかったのだ。


     ◇ ◇ ◇


「……そっか」


 ルイはゆっくりと目を開けた。


 木々の間から差し込む陽射しが、足元を柔らかく照らしている。


「私……魔法が好きだったんだ」


 口にした途端、胸の奥がきゅっと締めつけられた。


 そんな当たり前のことを、どうして忘れていたのだろう。


 昨年の召喚の儀式に失敗してから、すべてが変わってしまった。


 周りの目が怖くなった。


 また失敗したらどうしよう。


 笑われたらどうしよう。


 お兄ちゃんやお姉ちゃんと比べられたら、どうしよう。


 いつしか、魔法を使うたびにそんなことばかり考えるようになっていた。


 失敗を恐れて挑戦することさえ避けるうちに、以前は簡単に使えていた魔法まで失敗するようになった。


 そして、また笑われた。


(……私、何をしてたんだろう)


 魔法を楽しむことより、失敗しないことばかり考えていた。


 誰かに認めてもらいたくて。


 誰にも馬鹿にされたくなくて。


 気づけば、自分が何をしたいのかさえ分からなくなっていた。


 ――お前は、どうなりたいんだ?


 優斗の言葉が蘇る。


 さっきは答えられなかった。


 でも、今なら。


「……もう一度」


 ルイは膝の上で拳を握った。


「もう一度、あの頃みたいに魔法を使いたい」


 失敗を怖がらずに、新しい魔法に挑戦したい。


 お兄ちゃんやお姉ちゃんにも負けないくらい、強くなりたい。


 そしていつか、みんなが憧れるような魔法使いになりたい。


「私……まだ、諦めたくない」


 もちろん、怖さが消えたわけじゃない。


 明日から急に、昔の自分に戻れるとも思わない。


 また失敗するかもしれない。


 また笑われるかもしれない。


 それでも。


 もう一度、頑張ってみたい。


 ルイは顔を上げた。


 その瞳には、先ほどまでとは違う光が宿っていた。


 ――その時だった。


「おっ! いたいた!」


「――っ!」


 聞き覚えのある声に、ルイの肩が跳ねた。


 中庭の入口に、三人の男子生徒が立っている。


 アレン、ロト、フリッツ。


 いつも自分を馬鹿にしてくる三人組だった。


「なんで……ここが分かったの?」


「お前らがよくここに来てるの、知ってたからな」


 アレンがにやりと笑う。


「それより、サーバントに契約を断られた気分はどうだ?」


「……っ」


「せっかく召喚できたのに、今度は相手にしてもらえないなんてな!」


 ロトとフリッツも笑い出した。


 ルイは思わず視線を落としかける。


 いつもなら、ここで何も言い返さなかった。


 黙っていれば、そのうち飽きて立ち去ってくれる。


 そうやって、何度もやり過ごしてきた。


 けれど――。


(……もう、嫌だ)


 ルイは震える指を握りしめた。


「……今、考えているところなの」


「あ?」


「彼と、どうすれば契約できるのか……考えているところなの。だから、邪魔しないで」


 三人の笑い声が止まった。


「……おい。今、何て言った?」


 アレンが眉をひそめる。


「邪魔しないでって……言ったの」


 声は震えていた。


 それでも、ルイは顔を上げたまま答えた。


「へえ。サーバントを召喚できたからって、急に強気になったじゃねえか」


「昨年は一人だけ失敗しましたからね。よほど嬉しかったのでしょう」


「ははっ! あの時の顔、今でも覚えてるぜ!」


 胸が痛んだ。


 何度やっても反応しなかった召喚陣。


 周囲から向けられた視線。


 そして、聞こえてきた笑い声。


 忘れたくても、忘れられない。


「……嬉しかったわよ」


「何?」


「召喚できて、嬉しかったって言ってるの」


 ルイは小さく息を吸った。


「これで、もう馬鹿にされなくて済むって……そう思ったもの」


「はっ! だったら、契約までちゃんと成功させろよ!」


 アレンが鼻で笑う。


「どうせまた失敗するんだろ? 落ちこぼれのくせに!」


「……っ」


 何度も聞かされてきた言葉。


 いつしか、自分でもそうなのだと思い込むようになっていた言葉。


 けれど、今は違う。


「……私は、もう諦めないって決めたの」


「……は?」


「また失敗するかもしれない。でも、もう一度頑張りたいの!」


 アレンは一瞬、呆気に取られたような顔をした。


 しかし、すぐに口元を歪める。


「……ふん。落ちこぼれが、偉そうなこと言いやがって」


 アレンが腰に差していた杖を抜き、ルイへ向けた。


「だったら、今ここで実力を見せてみろよ!」


「……っ!」


 ルイは息を呑んだ。


「こ、校内で先生の許可なく魔法を使うのは、校則違反よ!」


「そんなこと知ってるよ」


 アレンは周囲を見回した。


 中庭には、まだほかの生徒の姿はない。


「でも、先に喧嘩を売ってきたのはお前だろ?」


「私は、喧嘩なんて……!」


「うるせえ!」


 アレンの杖先に、黄色い光が集まり始める。


 パチパチと小さな音を立て、雷光が弾けた。


 ルイも反射的に両手を前へ構えた。


 怖い。


 今すぐ逃げ出したい。


 それでも、ここで背を向けたくはなかった。


「雷光よ、敵を撃て――《スパーク》!」


 アレンの杖先から、雷光が放たれた。


「我が前に集いて、災いを阻む盾となれ――《プロテクト》!」


 ルイの前に、透明な障壁が展開される。


 黄色い閃光が障壁へ迫った。


(お願い……!)


 激しい音とともに、雷光が衝突する。


 ――防げた。


 そう思った、次の瞬間。


「えっ……?」


 一本だったはずの雷光が、三つに枝分かれした。


 正面の一本は障壁に弾かれた。


 しかし、残る二本が左右から回り込む。


(しまっ――!)


 避ける間もなかった。


「きゃあっ!」


 左肩とみぞおちに、焼けるような衝撃が走る。


 ルイはよろめき、その場に倒れ込んだ。


「っ……痛い……!」


 地面に手をつこうとした途端、肩に鋭い痛みが走る。


 思うように身体を起こせない。


「ははっ! やっぱり落ちこぼれだな!」


 アレンが得意げに笑った。


 そして、倒れたルイへゆっくりと歩み寄ってくる。


 靴音が近づくたび、ルイの身体が強張った。


 アレンは目の前で立ち止まると、わざとらしく腰をかがめ、その顔を覗き込んだ。


「ほら、どうした? さっきまでの威勢はどこへ行ったんだ?」


「……っ」


「なあ、落ちこぼれの王女様。もう一回、偉そうなこと言ってみろよ」


 アレンは愉快そうに笑う。


 見上げた先には、自分を嘲笑う顔があった。


 悔しい。


 怖い。


 ルイは唇を噛んだ。


 障壁は出せた。


 けれど、攻撃を防ぎきれなかった。


(……やっぱり、私……)


 いつもの考えが頭をよぎる。


 何をやっても、うまくいかない。


 自分には、もう才能なんてないのかもしれない。


 ――違う。


 ルイは唇を噛みしめた。


 失敗したから、何だというのだろう。


 たった今、自分で決めたばかりじゃないか。


 もう一度、頑張ると。


「……もう、やめて」


「あ?」


 アレンが顔を近づける。


「聞こえねえな。何だって?」


「そうやって、私を馬鹿にするの……もう、やめてよ」


「はっ! 事実を言って何が悪いんだ?」


 アレンは鼻で笑った。


「サーバントの召喚に失敗した、落ちこぼれの王女様だろ?」


 その言葉に、ルイの胸がずきりと痛む。


 何度も聞かされてきた言葉。


 何度も俯いて、やり過ごしてきた言葉。


 けれど、もう目を逸らしたくなかった。


 ルイは震える膝に力を込め、ゆっくりと立ち上がった。


「……おい。何してんだ?」


 アレンが怪訝そうに眉をひそめる。


 ルイは痛む肩を押さえながら、真っ直ぐにアレンを見据えた。


 目の前にいる相手が怖くないわけじゃない。


 足だって、今にも崩れそうなほど震えている。


 それでも、もう見下されたままではいたくなかった。


「……黙って」


「何だって?」


「黙ってって……言ってるの!」


 ルイの声が、中庭に響き渡った。


「黙って聞いていたら……落ちこぼれ、落ちこぼれって……いつもそればっかり!」


 今まで押し込めていた言葉が、溢れ出した。


「私があなたに何をしたの? 何か悪いことをした?」


 声が震える。


 涙が滲みそうになる。


 それでも、ルイはアレンから目を逸らさなかった。


「私はただ、普通に学園生活を送りたかっただけじゃない!」


「お、お前……!」


「召喚に失敗したことは、私だって悔しかった! 誰よりも、私が一番悔しかったの!」


 あの日、誰にも見られない場所で泣いたこと。


 何度練習しても思うように魔法が使えず、次第に魔法そのものが怖くなったこと。


 ずっと誰にも言えなかった気持ちだった。


「なのに、あなたたちは……!」


 ルイは拳を握りしめた。


「人の失敗を笑って、何度も何度も馬鹿にして……!」


「うるせえ! 落ちこぼれが偉そうに――」


「あなたは誰かを下に見ないと、安心できないの!?」


 その声に、アレンが口を閉じた。


 中庭が静まり返る。


 ルイは一歩、前へ出た。


「私だって、失敗するわ。できないことだってある!」


 足はまだ震えている。


「でも、だからって……あなたに私の全部を決めつけられたくない!」


 その時、中庭の入口から声が上がった。


「おい、何かあったのか?」


「魔法を使ったみたいだぞ!」


 騒ぎを聞きつけた生徒たちが、次々と集まってくる。


 アレンの顔がみるみる赤くなっていった。


「……てめぇ、いい加減にしろよ」


 ルイは退かなかった。


「自分より弱いと思った相手にしか威張れないあなたの方が――」


 一度、息を吸う。


「よっぽど落ちこぼれよ!!」


「……なんだと?」


 アレンの顔から、完全に笑みが消えた。


 周囲の生徒たちが息を呑む。


 ルイ自身も、言ってしまったと思った。


 怖い。


 今すぐ謝れば、許してもらえるだろうか。


 そんな考えが、一瞬だけ頭をよぎる。


 けれど。


 ここで謝ったら、また自分の気持ちを押し殺すことになる。


「……私は、本当のことを言っただけよ」


 ルイは震える声で続けた。


「何度でも言うわ。あなたの方が、よっぽど落ちこぼれよ!」


「てめぇ!!」


 アレンが激昂し、右拳を振り上げた。


 人垣の向こうから、教師の声が飛ぶ。


「あなたたち! 何をやっているんですか!」


 教師が生徒たちをかき分け、こちらへ向かってくる。


「アレン! やめなさい!」


 しかし、アレンは止まらなかった。


 目の前のルイへ、拳を振り下ろす。


(……っ!)


 ルイは反射的に目を閉じた。


 ――来る。


 そう覚悟した。


 けれど。


 いつまで経っても、痛みはやってこなかった。


「……え?」


 恐る恐る、目を開ける。


 最初に見えたのは、目の前で止まったアレンの拳だった。


 その右手首を、誰かの右手がしっかりと掴んでいる。


 ルイはゆっくりと視線を上げた。


「……なんだよ」


 聞き覚えのある声。


「ちゃんと言えるんじゃないか」


 そこに立っていたのは――。


「……優斗?」


 ルイは目を見開いた。


 どうして、ここに。


 さっきまで、自分との契約を拒んでいたはずなのに。


 優斗はアレンの手首を掴んだまま、ルイへ視線を向けた。


「……大丈夫か?」


「う、うん……」


 返事をしようとした途端、声が震えた。


 怖かった。


 本当は、ずっと怖かった。


 それでも、誰にも助けを求めずに立っていた。


 そんな自分の前に、優斗がいる。


「でも……どうして……?」


「……途中から聞こえてたよ」


 優斗は小さく息を吐いた。


「お前が何を考えて、どうしたいのか。少しは分かったつもりだ」


「……っ」


「だからって、さっきまでの話が全部なかったことになるわけじゃないけどな」


 その言葉に、ルイははっとする。


 そうだ。


 優斗には優斗の事情がある。


 自分がどれほど必死でも、彼の意思を無視していい理由にはならない。


「でも、少なくとも――」


 優斗はルイを見た。


「今ここでお前が殴られるのを、黙って見てるつもりはない」


「……優斗……」


 その言葉を聞いた瞬間、ルイの目に涙が滲んだ。


 優斗が来てくれた。


 自分の言葉を、聞いてくれていた。


 それが、どうしようもなく嬉しかった。


「……ありがとう」


 ルイは涙をこらえながら、小さく呟いた。


 優斗はアレンへ向き直った。


「お前、女の子に手を上げるなんて最低だな」


「はぁ!? そいつが先に喧嘩を売ってきたんだろうが!」


「だから殴っていいって?」


「うるせえ! そいつは落ちこぼれなんだよ!」


「……落ちこぼれ?」


 優斗の眉がぴくりと動いた。


「ふざけるな。勝手に決めつけんなよ」


「……何?」


「こいつが落ちこぼれかどうかを、お前が決める権利なんてないだろ」


 優斗はアレンを真っ直ぐに見据えた。


「それに、自分より弱いと思った相手を三人で囲んで、笑いものにして……最後には殴るのか?」


「……っ!」


「ずいぶん立派なことだな」


 アレンが歯を食いしばる。


 周囲は静まり返っていた。


 誰もが、二人のやり取りを見つめている。


 優斗はアレンの手首を放し、一歩距離を詰めた。


「……一つ、教えてやるよ」


 その声は、決して大きくなかった。


 けれど、不思議なほどはっきりと響いた。


「一番の落ちこぼれは――」


 優斗は、アレンを見据えたまま言い放った。


「他人を落ちこぼれと決めつける人間と、自分を落ちこぼれだと諦める人間だ!」

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