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英雄騎士物語 ―落ちこぼれ王女と魔法を使えない少年―  作者: kyuto
第3話 ランキング戦に向けて

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二人の師匠探し(後編)

 ルイの魔法の指導は、ルミナにお願いできることになった。


 次は、優斗の番だ。


「じゃあ次は優斗の方だね。姉さん、兄さんがどこにいるか知ってる?」


 ルーナが尋ねると、ルミナは少し考えるように首を傾げた。


「いえ、知らないけど……でも、大体この時間は剣の鍛錬をしているんじゃないかしら?」


「じゃあ模擬戦施設の近くか! ありがとう! 行ってみるね!」


「バイバイ! お姉ちゃん!」


「気をつけてね!」


 三人はルミナに別れを告げ、模擬戦施設へと向かった。


     ◇ ◇ ◇


 模擬戦施設に到着すると、その隣にプレハブ小屋のような小さな建物があった。


「あの小さい建物が、剣の鍛錬場だよ」


 ルーナが建物を指さした。


「隣のグラウンドでは、剣術の鍛錬をしてる連中が走ったり、跳んだり、筋トレしたり……色々むさ苦しいことをしてるわ」


「まあ、剣を握るんだから、それくらいやらないとな。俺もめちゃくちゃしごかれたし……」


 優斗は祖父との厳しい稽古を思い出した。


 何度も繰り返した素振り。


 容赦なく打ち込まれた竹刀。


 思い出すだけで、少し気が重くなる。


「とりあえず、お兄ちゃんがいるか覗いてみようよ」


「そうだな」


 三人は小屋の扉を開けた。


「失礼します……」


 ――ヒュン!


 中から、鋭い風切り音が響いた。


 優斗が視線を向けると、一人の男が剣を振り下ろしていた。


 無駄のない動き。


 剣を振り下ろすたび、空気が鋭く切り裂かれる。


 その男は、静かに型の確認を繰り返していた。


「ハヤトお兄ちゃん……」


 ルイが小声で呼びかける。


「ん? なんだ、ルイか。それとルーナ」


 男が剣を止め、こちらへ振り返った。


「あとは、入学式の問題児か」


 低く、よく通る声だった。


「あのときはすみませんでした。ああするしかなかったもんで……」


 優斗は苦笑いを浮かべた。


 目の前の男は、服の上からでも分かるほど鍛え抜かれた体つきをしていた。


 無駄な肉のない引き締まった身体に、しっかりとついた筋肉。


 彫りの深い整った顔立ちは、十人いれば全員が美男子と答えるだろう。


 身長は優斗より十センチほど高い。


 黒みがかった深緑色の髪は、前髪を中央で分け、後ろは襟元まで伸びていた。


(……この人が、ハヤトさんか)


 優斗は改めて背筋を伸ばした。


「改めまして、平賀優斗と言います。よろしくお願いします」


「ハヤト=アルベルト=フローレスだ。こちらこそよろしく」


 ハヤトは優斗を一瞥した。


「で、みんなで何の用だ?」


「あのね、優斗の剣術の稽古をつけてほしいの」


「ん? どういうことだ?」


「突然すみません。実は、俺たち、次のランキング戦に出ようと思っています」


 優斗は真っ直ぐにハヤトを見た。


「元々、自分がいた世界で剣の型を習っていたので、戦うなら剣だと思っています。俺に、この世界の剣術を教えていただきたいんです!」


「ほぉー。ルイ、やっと出られるんだな。良かったな」


「ありがとう。ねえ、お兄ちゃん。お願い! 優斗に教えてあげてほしい!」


「お願いします!」


 優斗は深々と頭を下げた。


 しばらくの沈黙。


 そして――。


「なるほどな。ダメだ」


「えっ……?」


 ルイが目を丸くした。


「なんで……?」


 優斗は頭を下げたまま、動かなかった。


「ちょっと! なんでよ、兄さん! いいでしょ! 減るもんじゃないし!」


 ルーナが抗議する。


「俺も生徒会の仕事や、自分のことで忙しいんだ。こいつに構ってやる暇なんてない」


「えっ……でも……」


「それに、入学式で暴れたやつに剣術を教えると、どうなるか分からんしな」


「ちょっと兄さん! 優斗はそんなやつじゃないわ!」


「俺はこいつがどんなやつか知らん。お前たちの頼みではあるが、他を当たってくれ」


「えっ、あの……」


 ルイが困ったように優斗を見る。


 だが、優斗はまだ頭を下げたままだった。


(……やっぱり、そう簡単にはいかないか)


 ハヤトの言い分は分かる。


 突然現れた人間に、自分の時間を割いて剣術を教えてくれと言われても、簡単に引き受けられるはずがない。


 それでも――。


(ここで引き下がったら、ルイと一緒に戦うなんて言えない)


 優斗は拳を握りしめた。


(こうなったら、この手を使うしか……)


「……ってのか?」


「なんだと?」


 ハヤトの眉がわずかに動いた。


「弟子を取るのにビビってんのかって言ったんですよ」


 空気が、一瞬で張り詰めた。


「…………」


「ちょっと! 優斗、何言って……!」


 ルイが慌てて声を上げる。


 だが、優斗は止まらなかった。


「何も言い返せないんだから、図星なんでしょう」


 優斗は顔を上げ、ハヤトを真っ直ぐに見据えた。


「俺に教えて、あんたより強くなったら面目がなくなるし、逆に俺が弱いままだったら、教え方が悪かったって評判が落ちますもんね!」


「ちょいちょいちょい! 優斗! やめなよ!」


 ルーナまで慌て始めた。


 しかし、ハヤトは怒鳴り返すことも、剣を構えることもしなかった。


 ただ、静かに優斗を見つめている。


「……随分と安い挑発だな」


「……っ!」


「俺を怒らせれば、剣を交えてもらえるとでも思ったか?」


 優斗は返す言葉を失った。


(……全部、お見通しかよ)


 目の前の男は、怒ってなどいなかった。


 ただ、こちらの考えを見透かすように、静かに優斗を見つめている。


 その落ち着きが、かえって恐ろしかった。


「だが、一つだけ興味が湧いた」


 ハヤトは優斗を真っ直ぐに見据えた。


「お前がそこまでして、ルイと共に戦おうとする理由だ」


「…………」


 優斗は何も答えられなかった。


 ハヤトはしばらくその顔を見つめていたが、やがて静かに口を開いた。


「一度だけ、機会をやろう」


「……え?」


「俺に一太刀でも浴びせられたら、お前に剣術を教えてやる」


 ハヤトはそう告げると、模擬戦施設の方へ歩き始めた。


「ついてこい」


 優斗はその背中を見つめた。


 ようやく手に入れた、一度きりの機会。


 だが、その条件はあまりにも厳しいものだった。


「え? 何? どうなるの?」


 ルイが戸惑いながら尋ねる。


「あんな本気の目をしたハヤト兄さん、初めて見たかも……。私たちも行こう!」


「う、うん……」


 二人も慌てて後を追った。


(どうしよう……)


 ルイの胸に、不安が広がっていく。


 優斗がお兄ちゃんを怒らせてしまった。


 でも、優斗がここまでして剣術を教わろうとしているのは、自分とランキング戦に出るためだ。


「優斗……」


 ルイは小さく、その名を呟いた。


 その声は、少し先を歩く優斗には届かない。


 優斗は一度も振り返ることなく、ハヤトの背中を追っていた。

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