二人の師匠探し(前編)
翌日。
授業が終わると、ルイは優斗のいる教室へと足早に向かった。
教室を覗くと、優斗がルーナと何やら話し込んでいる。
「お、ルイちゃんじゃん。誰かに用事? ルーナ?」
近くにいた上級生が声をかけてきた。
「こ、こんにちは。あ、いや、優斗に……」
突然声をかけられ、ルイは少し緊張しながら答えた。
「あ、そっか! 待ってて! おーい、優斗! 可愛いパートナーが来てるぞー!」
「なんだ、その言い方……。ありがとう!」
優斗が振り返り、ルイの姿に気づく。
「ルイ! ちょっと来て!」
「え?」
ルイは首を傾げながら、優斗とルーナのもとへ向かった。
「なぁに?」
「さっきルーナと話してたんだけど、お前の魔法の先生になってくれないかって」
「え? 優斗もそう考えてたの?」
「『も』? ってことは、お前も?」
「うん。だから優斗の教室に来たの」
ルイはルーナへ向き直った。
「お姉ちゃん、私の先生になってほしいの!」
「ルイと優斗の頼みだからね。一肌脱ぎます! ……って言いたいところだけど」
ルーナは少し考えるように首を傾げた。
「私よりもっと適任がいると思うから、その人にお願いした方がいいと思うよ」
「お前より適任って?」
「姉さんか、姉さんのサーバントのアイクかな」
「ルミナお姉ちゃんも、お願いしたら教えてくれそう! でも、アイクとはしばらく会ってないし、いつもどこにいるか分からないんだよね」
「ルミナさん、そんなに凄いのか! で、アイクってサーバント、何者なんだ?」
「端的に言うと、魔法の天才だよ。恐らく、この国で一番の魔法使いじゃないかな?」
「誰かな? 僕の噂をしてるのは?」
そのとき、廊下から男にしては少し高い声が聞こえてきた。
「あっ! アイク!」
ルイが声の主に向かって手を振る。
「やあ、ルイちゃん、ルーナ。元気かい? そちらはルイちゃんのサーバントだね」
現れたのは、緑色のウィザードハットを被り、薄汚れた緑色のローブを身にまとった男だった。
いかにも胡散臭い格好だが、顔立ちは驚くほど整っている。
身長は百八十センチほど。中性的な美貌の持ち主で、女性だと言われても違和感がないほどだった。
「紹介するね! 私のサーバントの優斗!」
「平賀優斗です。よろしくお願いします」
「ハヤトから聞いてるよ。入学式を荒らした問題児だって」
アイクはニヤニヤと笑いながら言った。
「なっ!?」
「うそうそ、冗談だよ。僕はアイク=シュースティン。ルミナのサーバントだよ。よろしくね」
そう言って、アイクは右手を差し出した。
優斗は少し戸惑いながらも、その手を握った。
「ねえ、アイク。ルイの魔法の先生になってくれない?」
ルーナが話を切り出した。
「ルイもランキング戦に出るつもりで、魔法の特訓をしたいんだけど、先生がいなくてさ」
「おお! ルイちゃんも出るんだ! マッチアップしたら手加減しないよ!」
「あはは……お手柔らかに……」
ルイは苦笑いを浮かべた。
「教えたいのは山々なんだけど、僕も忙しくてね〜。ルミナには聞いてみた?」
「ううん、まだ」
「じゃあ聞いてみなよ。引き受けてくれると思うよ。ルイちゃんの頼みなら」
「ほんと!? じゃあ聞いてみよう!」
「そうね。アイク、お姉ちゃんがどこにいるか知ってる?」
「いや、見てないよ。この時間に何してるか、予想もつかないしね〜」
「そっか。じゃあ、ハヤト兄のところに行くついでに探してみよう」
「そうだな。それがいい」
「うん! ありがとう、アイク!」
「お役に立てなくてごめんね。気をつけて〜」
三人はアイクに別れを告げ、ルミナを探しに向かった。
◇ ◇ ◇
「なんか、アイクって不思議なやつだな」
廊下を歩きながら、優斗が呟いた。
「まあ、ちょっと適当な感じだけど、ランキング戦になるとやばいよ?」
「どうやばいんだ?」
「お姉ちゃんもかなり強いけど、アイクは別格。誰も太刀打ちできなくて、されるがままって感じ。唯一、ハヤト兄はアイクに勝ってるけど」
「その話聞くと、ハヤトさんの方がやばそうだけどな」
「確かに!」
ルーナは苦笑いを浮かべた。
「でも、ルミナお姉ちゃんもすごいよね! 異名があるんだよ!」
今度はルイが嬉しそうに話し始める。
「異名? なんだそれ?」
「うーんとね、確か……」
「『雷光の女神』、ではありませんでしたか?」
不意に、曲がり角の向こうから女性の声が聞こえてきた。
「あっ、お姉ちゃんだ!」
「あら、ご機嫌よう。ルーナ、ルイちゃん」
「お姉ちゃん!」
ルイは嬉しそうに駆け寄り、その女性に抱きついた。
一方、優斗は思わず息を呑んだ。
(……すげぇ)
目の前にいる女性は、まるで女神がそのまま人の姿になったかのような美しさだった。
整った顔立ちに、落ち着いた立ち居振る舞い。
その優雅な雰囲気に、優斗は思わず見とれてしまった。
「あら、優斗さん。ご無沙汰しております」
女性は優斗へ微笑みかけた。
「改めまして、ルミナ=アルベルト=フローレスです。ルイのサーバントになってくださり、ありがとうございます」
そう言って、握手を求めてくる。
「え、ああ。いえ! こちらこそ、いつもルイにはお世話になってます。平賀優斗です。よろしくお願いします」
優斗は少し照れながら、その手を握った。
「…………」
ふと気づくと、ルーナとルイが揃ってこちらを見つめていた。
「な、なんだよ、お前たち」
「別に〜?」
「なんか、私のときと違う……」
「そ、そんなことないだろう」
「ウフフ。面白い人ですね」
ルミナが口元に手を添えて笑った。
「あはは……。それより、『雷光の女神』ってなんですか?」
「ああ、それですか」
ルミナは困ったように微笑んだ。
「私、雷魔法が得意なんですけど、みんなが勝手につけた異名でして。私はあまり好きではないんですよね」
「へぇ、そうなんですね」
「なので、私の前でその名を言いましたら……分かっていますよね?」
にっこり。
確かに笑っている。
しかし、その目はまったく笑っていなかった。
「こ、心得ました……」
(どちらかと言えば、氷の女神じゃね……?)
優斗は心の中で呟いた。
「それより、お姉ちゃん!」
ルイが勢いよく顔を上げる。
「私の魔法の先生になってほしいの!」
「あら、急にどうしたの?」
「色々あって、ランキング戦に出ようと思ってるんだってさ」
ルーナが事情を説明する。
「それで、実戦的な魔法を学びたくて、私たちを頼ってるってわけ」
「そうなの。アイクには頼んでみた?」
「アイクは忙しくて無理だって言ってた。ルミナお姉ちゃんにも頼んでみたらって言われて、探してたの」
「ルミナさんが嫌でなければ、俺からもお願いします!」
優斗も深々と頭を下げた。
ルミナは二人を見つめ、少し考えるような素振りを見せた。
「そうだったの。毎日は難しいかもしれないけど、空いているときだったら大丈夫よ」
「ほんと!? ありがとう、お姉ちゃん!」
ルイは満面の笑みを浮かべ、再びルミナに抱きついた。
「姉さん、ありがとう!」
「いいのよ。それに、私が忙しい日は……」
ルミナは優雅に微笑んだ。
「アイクに無理やり行かせるわ」
その瞬間、目つきが鋭くなったような気がした。
(……アイク、大丈夫か?)
優斗は先ほどの飄々とした男の顔を思い浮かべた。
「ありがとうございます!」
それでも、ルイの嬉しそうな顔を見て、優斗はほっと胸を撫で下ろした。
これで、ルイの魔法の先生は見つかった。
残るは、自分の剣術の先生だけだ。
そして優斗は、まだ知らなかった。
その相手から教えを受けることが、どれほど難しいことなのかを。




