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英雄騎士物語 ―落ちこぼれ王女と魔法を使えない少年―  作者: kyuto
第2話 学園生活の始まり

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二人で選んだ道

 それから、数日が経った。


 優斗とルイの関係は、別に悪くなったわけではない。


「今日の授業どうだった?」


「先生に当てられて焦ったよ」


「優斗でもそういうことあるんだ」


「あるに決まってんだろ」


 そんな他愛のない会話はする。


 一緒に食事もする。


 朝になれば「おはよう」と言うし、夜になれば「おやすみ」と言う。


 けれど――。


 どこか、ほんの少しだけよそよそしい。


 二人とも、意識して避けている言葉があった。


 ――ランキング戦。


 あの日以来、その言葉だけは一度も二人の間に出ていなかった。


     ◇ ◇ ◇


「そういえばさ」


 ある日の夜。


 ソファに座っていた優斗が、ふと思い出したように口を開いた。


「今日、初めて魔法実践の授業受けたぞ」


「えっ!」


 ルイが興味深そうに振り返る。


「そうなんだ! どうだった?」


「案の定――」


 優斗は遠い目をした。


「何も出てこず」


「ありゃ……」


「水一滴すら出てこなかったよ」


「……残念だね」


「本当にな」


 優斗はため息をつく。


「周りは普通に水出したり、火出したりしてんのにさ。俺だけ手を前に出して――」


 手のひらを突き出す。


「…………」


 沈黙。


「……って感じ」


「ふふっ」


「笑うなよ!」


「ご、ごめん!」


 口元を押さえながらも、ルイは笑っている。


「でもさ」


 優斗は少し嬉しそうに続けた。


「身体強化のやり方は、クラスのみんなに教えてもらったんだ」


「えっ!」


 今度はルイの表情が明るくなる。


「そっちはどうだったの?」


「なんていうかな……」


 優斗は自分の両手を見る。


「全身にパワーがみなぎるっていうか……何でもできそうになるっていうか」


「うんうん」


「今すぐオリンピックに出ても活躍できそうな感じだった」


「オリン……?」


 ルイが首を傾げる。


「え? どういう……?」


「ああ、そっか」


 優斗は苦笑する。


「俺の世界にあるスポーツの世界大会みたいなもんだよ」


「へえ~!」


「とにかく、身体がめちゃくちゃ軽くなるんだ」


 優斗は身振りを交えて続ける。


「試しに走ってみたらさ、いつもの感覚で地面を蹴っただけなのに、ものすごい勢いで前に飛び出して」


「ええっ!?」


「気づいたら練習場の壁が目の前にあって、止まるのに必死だったよ……」


「あははっ!」


「笑い事じゃないぞ! マジでぶつかるかと思ったんだから!」


「ごめんごめん!」


 ルイは楽しそうに笑った。


「でも、すごいじゃん!」


「ああ。自分でもびっくりした」


 優斗は手を握ったり開いたりする。


「力も速さも、普段とは全然違うんだ。ただ、身体が急に速く動くもんだから、感覚が追いつかなくてさ」


「最初はそういうものだよ」


「そうなのか?」


「うん。身体強化って、魔力を込めればいいってものじゃないから」


 ルイは頷く。


「慣れないうちは、力加減を間違えちゃうこともあるんだよ」


「なるほどな……」


「でも、よかったね!」


 ルイは自分のことのように嬉しそうに笑う。


「優斗にも、得意なことが見つかって!」


「ああ」


 優斗も笑った。


「クラスのみんなが教えてくれたおかげだよ」


「クラスにも馴染めてるみたいだし……なんか私も嬉しいよ」


「ルーナのおかげだな」


 優斗は笑う。


「それに、いい奴が多くて助かってるよ」


「そっか」


 ルイも安心したように頷く。


「勉強の方は大丈夫?」


「それも大丈夫そう」


「知識補正は?」


「最初はな」


 優斗は苦笑する。


「教科書読むたびに、知らないはずの周辺知識がすらすら頭に入ってきて、めちゃくちゃ気持ち悪かったけど」


「うん」


「何日か経ったら慣れた。今はそこまで違和感ないよ」


「そっか!」


 ルイは笑顔になる。


「じゃあ、学校生活は問題なさそうだね」


「そうだな」


 優斗も頷く。


 そこで、会話が途切れた。


「…………」


「…………」


 二人の間に、少しだけ静かな時間が流れる。


 別に、気まずいわけじゃない。


 でも――。


 二人とも、あの日のことを忘れたわけではなかった。


「……さて」


 優斗が立ち上がる。


「今日はもう寝るか」


「……そうだね」


 ルイも立ち上がった。


「おやすみ、優斗」


「ああ。おやすみ」


 二人はそれぞれの部屋へ戻っていく。


 いつも通りの会話。


 いつも通りの夜。


 それでも二人の間には、まだほんの少しだけ――見えない壁が残っていた。


     ◇ ◇ ◇


 翌日。


 二人はいつも通り学園へ向かい、それぞれの教室で授業を受けた。


 そして放課後。


「ん~っ!」


 ルイは大きく伸びをしながら、寮へ帰ろうとしていた。


「今日も疲れたぁ……」


 廊下を歩いていた、その時。


「……あれ?」


 少し先に、見覚えのある後ろ姿があった。


「優斗……?」


 一人でどこかへ向かって歩いている。


 しかし、その方向は寮ではない。


(どこ行くんだろ……?)


 少し気になって、ルイは優斗の後を追った。


 しばらく歩く。


(何か用事でもあるのかな?)


 やがて優斗が立ち止まった。


 その先にあるのは――記念室。


「……?」


 優斗が中へ入っていく。


 ルイは少し迷った後、音を立てないように扉を開けた。


(ちょっとだけ……)


 そっと中を覗く。


 優斗はルイに気づいていない。


 そのまま、資料棚の奥へ歩いていった。


 ルイも物陰へ隠れながら、その後を追う。


 記念室には、アーノルド王国の歴史に名を残した人物たちの肖像画や武具、書物などが並べられている。


 その中でも、最も大きく扱われている人物。


 英雄騎士――アーノルド=クリスファー。


 そして、彼と共に戦った七人の従者たち。


 優斗は、その資料を真剣な表情で読み込んでいた。


「……やっぱり」


 小さな独り言が聞こえる。


「この英雄騎士が魔法を使ったって記録……どこにもないな」


 別の資料を手に取る。


「本当に身体強化だけで戦ったのか……」


 優斗はしばらく文字を追い――小さく息を吐いた。


「……すげえな、この人」


「…………」


 物陰から見ていたルイは、少しだけ胸が痛くなった。


(優斗も……優斗なりに気にしてるんだよね)


 能力測定の日。


 自分には「心配するな」と言った。


 その後も、いつも通りに振る舞っていた。


 でも――。


 本当は。


「…………」


 もう少し近くで見ようと、ルイが一歩動く。


 ――ゴン。


「……え?」


 背中が、本棚に当たった。


 棚の上に積まれていた古い資料が、ぐらりと傾く。


「…………」


 ルイはゆっくりと頭上を見上げた。


(あ)


 次の瞬間。


「うわぁぁぁぁ!?」


 ドサドサドサドサッ!


「!?」


 静かな記念室に、派手な音が響き渡った。


「なんだ!? 誰だ!」


「…………」


 本の山から、小さな手が伸びる。


「助けてぇ……優斗ぉ……」


「その声……」


 優斗は目を丸くする。


「ルイ!?」


 慌てて駆け寄った。


「何してんだお前!?」


「いたたた……」


「ほら、掴まれ」


 優斗は本をどかし、ルイの手を取る。


「よいしょっと!」


「うぅ……ありがとう……」


「で?」


 助け出したルイを見ながら、優斗は呆れたように腕を組んだ。


「なんで本棚の中からお前が出てくるんだよ」


「あはは……」


 ルイは気まずそうに笑った。


     ◇ ◇ ◇


「なるほどな」


 事情を聞いた優斗は、呆れ半分に頷いた。


「俺が気になって、ついてきたと」


「うん……」


「別に普通に声かけてくれたらよかったのに」


「あはは……」


 ルイは頬をかく。


「なんとなく、邪魔しちゃ悪いかなって思って……」


「だからって隠れる必要ないだろ」


「それは……そうだけど」


 優斗は苦笑した。


「まあいいや。とりあえず、これ片付けようぜ」


「う、うん!」


 二人は床に散らばった本や資料を拾い始めた。


「うわ……結構落としたな」


「ご、ごめんね……」


「俺に謝られてもな」


 優斗は一冊の本を手に取る。


「これ、元の場所分かるか?」


「えっと……たぶん、こっち……」


「たぶんって」


「だ、大丈夫! ちゃんと分かるから!」


 そう言って本棚へ向かったルイが、今度は床に置かれた資料につまずきかける。


「わっ!」


「おい!」


 優斗が慌てて腕を伸ばした。


「……頼むから、これ以上増やさないでくれよ」


「うぅ……」


 ルイは恥ずかしそうに俯いた。


「気をつけます……」


 優斗は小さく笑い、再び資料を拾い始めた。


 しばらくして、ようやく片付けが終わる。


「ふぅ……」


 優斗は額の汗を拭った。


「これでよし、と」


「ありがとう、優斗」


「まあ、怪我がなくてよかったよ」


「えへへ……」


 ルイは照れくさそうに笑った。


 そして、優斗が先ほどまで読んでいた資料へ目を向ける。


「ねえ、ここで何してたの?」


「これ」


 優斗は一冊の資料を持ち上げた。


「アーノルド=クリスファーについて調べてた」


「そうだったんだ……」


「ああ」


 優斗は肖像画を見上げる。


「この前聞いただろ。この国を救った英雄が、身体強化しか使えなかったって」


「うん」


「本当なのかなって思ってさ。ここ数日、時間がある時にちょくちょく調べに来てたんだ」


「そうだったんだ……」


「で――」


 優斗は資料へ目を落とす。


「どうやら、本当みたいだ」


 アーノルド=クリスファーが、魔法を使ったという記録は見つからない。


 残されているのは、身体強化を駆使し、剣を振るい、数々の戦場を駆け抜けたという記録ばかり。


「すごいよな、この人」


 優斗は小さく笑う。


「もしかして……」


 ルイが尋ねる。


「自分と似てるから調べてたの?」


「まあな」


 優斗は少しだけ黙った。


 そして、正直に答える。


「本当に身体強化だけで戦った人がいるなら――」


 自分の手を見る。


「俺も、みんなと一緒に戦えるかもしれないって」


「…………」


「そう思い込もうとしてる」


「……思い込もうとしてる?」


「ああ」


 優斗は苦笑する。


「まだ自信なんてないからな」


「…………」


 ルイは少し迷った後、口を開いた。


「あのさ、優斗」


「ん?」


「ランキング戦のこと……実際、どう思ってる?」


「……え?」


 数日間。


 二人とも避け続けてきた言葉。


 優斗は少し驚いたが――逃げずに答えた。


「そうだな……」


 資料を棚へ戻す。


「ルイと一緒なら、もしかしたらって思ってる。それは本当だよ」


「……うん」


「でも――」


 少しだけ視線を落とす。


「正直、めちゃくちゃ不安」


「え……?」


「勝てるかどうかなんて全然分からないし、出たところで俺が足引っ張る可能性だって高いと思ってる」


「…………」


「だからここに来てたんだ」


 優斗はアーノルドの肖像画を見る。


「少しでも、自分に自信持ちたくてさ」


「優斗……」


「でも」


 優斗はルイを見る。


「お前が本当に出たくないなら、それでもいいと思ってる」


「……え?」


「ランキング戦だけが全部じゃないだろ?」


 優斗は少し笑う。


「学術研究発表だってある。他にも、お前をサポートする方法なんて色々あると思うし」


「…………」


「この前は悪かった」


 優斗は頭を下げる。


「俺、お前の気持ちを勝手に決めつけた」


「優斗……」


「自分だって不安なくせに、偉そうなこと言ってさ」


「…………」


 しばらく黙っていたルイが、ゆっくり口を開く。


「私ね……」


 優斗が顔を上げる。


「初等部の頃は、ランキング戦に出て……姉さんたちみたいになれるって思ってた」


「…………」


「魔法が好きだったし、もっと上手くなりたかった」


 ルイは小さく笑う。


「いつか姉さんたちみたいな、すごい魔法使いになれるって……本気で思ってたんだ」


 その笑顔が、少しだけ曇る。


「でも……去年、サーバントを召喚できなかった」


「…………」


「それから、どんどん自信がなくなって」


 両手を握る。


「好きだった学術研究発表も上手くいかなくて……」


 ルイは俯いた。


「もう、自分でも何をしたらいいのか分からなくなっちゃった」


「……そっか」


「ねえ、優斗」


「ん?」


 ルイは少し不思議そうに優斗を見る。


「優斗も……不安なんだ?」


「……当たり前だろ」


「え?」


「せっかく魔法がある世界に来たんだぞ?」


 優斗は自嘲気味に笑う。


「周りは火出したり、水出したり、雷出したりしてるのに」


 自分の身体を指差す。


「俺だけ、身体を活性化できますって」


「…………」


「悲しすぎるだろ」


「ふふっ……」


「笑うところじゃないぞ」


「ご、ごめん」


 優斗もつられて笑った。


 けれど、その笑みはすぐに小さくなる。


「……でも、まあ。本当は結構へこんでる」


「…………」


「授業で何度やっても魔法が出ないし、身体強化だって、まだ使いこなせてない」


 優斗は自分の手を見つめる。


「そんな状態で、みんなと同じようにやっていけるのかなって」


「優斗……」


「だから、少しでも希望が欲しかったんだと思う」


 優斗はアーノルドの肖像画を見上げた。


「この人みたいに、身体強化だけでも戦えるっていう希望がさ」


「…………」


 ルイはしばらく黙っていた。


 そして。


「……なんか」


「ん?」


「それ聞いて……複雑な気持ち半分、ほっとした気持ち半分かな」


「……え?」


「私ね」


 ルイは胸元で手を握る。


「私が優斗をこの世界に召喚したから……優斗はこっちで暮らすことになったでしょ?」


「うん」


「それなのに、魔法まで使えなくて」


 声が少し震える。


「私が優斗に辛い思いをさせちゃったんじゃないかって、ずっと不安だった」


「…………」


「それに……私のせいで、優斗まで悪く言われたらどうしようって」


「ルイ……」


「いろんなこと考えちゃって」


 ルイは困ったように笑った。


「私だけ、こんなに不安なのかなって思ってた」


「…………」


「だから……」


 優斗を見る。


「優斗も不安なんだって聞いて……ちょっと安心しちゃった」


「…………」


 優斗はしばらくルイを見つめ――。


「ふっ……」


「?」


「あはははは!」


「な、何がおかしいのよ!」


「いや、悪い悪い!」


 優斗は笑いながら手を振る。


「お前、本当に優しいなって思って」


「え……」


「俺のことばっかり心配してたんだろ?」


「そ、それは……」


「でも、俺の心配ばっかりしてなくていいんだぞ」


 優斗は少し照れくさそうに頬をかく。


「俺だって、お前とか、マリとか、アンナと一緒にいると……なんか、やっていけそうな気がするんだよ」


「…………」


「安心するっていうかさ」


 ルイの目が少し見開かれる。


「だからランキング戦も……」


 優斗は続ける。


「二人で成長するための一つとして、挑戦してみたかったんだ」


「……そっか」


 ルイは小さく呟く。


「優斗は……知らない世界で暮らしてるんだもんね」


「まあな」


「私なんかより、ずっと不安だよね」


「比べるもんじゃないだろ」


「え?」


「不安なもんは不安。それでいいだろ」


「…………」


 ルイは少しだけ目を伏せる。


「……うん」


 そして。


「私もね」


 胸元へ手を当てた。


「マリちゃんや、アンナちゃん……それに優斗といると」


「うん」


「なんていうのかな……」


 言葉を探す。


「お腹の奥が、熱くなるの」


「…………」


 ルイは自分の胸元へ手を当てたまま、ゆっくりと言葉を続ける。


「もっと頑張りたいって思えるの」


「…………」


「この前は、急に言われて……怖くなって」


 両手をぎゅっと握る。


「でも――」


 顔を上げる。


「私も、優斗と一緒に挑戦してみたい!」


「……っ」


「今までの私とは違うところを、みんなに見せてやりたい!」


 その声が、記念室に響く。


「このままじゃ嫌だ!」


 優斗は黙ってルイを見る。


「だから……」


 ルイは一度、大きく息を吸った。


「だからっ!」


 真っ直ぐ、優斗を見る。


「次のランキング戦――」


 一瞬。


 時間が止まったように感じた。


「私と一緒に、出てくれませんか?」


「…………」


 優斗の目が、わずかに見開かれる。


 そして――。


「ああ!」


 迷いはなかった。


「もちろんだ!」


「……!」


 優斗は、アーノルド=クリスファーの肖像画を見る。


「この英雄騎士みたいな、大それた存在にはなれないかもしれないけどさ」


 そして、ルイへ笑いかけた。


「俺も――ルイの英雄騎士になれるように、精一杯努力するよ」


「……っ!」


「だから」


 拳を差し出す。


「一緒に、みんなを見返そうぜ!」


「…………」


 ルイはその拳を見る。


 そして――。


「うん!」


 屈託のない笑顔を見せ、自分の拳を優斗の拳へそっと合わせた。


 ――コツン。


 小さな音が、静かな記念室に響く。


「…………」


 その笑顔に。


 優斗は、一瞬だけ見惚れた。


「……?」


 ルイが首を傾げる。


「どうしたの?」


「っ!」


 優斗は我に返る。


「い、いや! なんでもない!」


「?」


「そ、そろそろ帰ろうぜ!」


 慌てて扉へ向かう。


「こんなところで二人きりでいるの見られたら、また変な噂が――」


「っ!」


 今度はルイの顔まで赤くなった。


「そ、そうだね!」


 二人は妙に距離を空けながら、記念室を後にした。


 数日間、二人の間にあった見えない壁は――。


 いつの間にか、なくなっていた。


     ◇ ◇ ◇


 その夜。


 夕食と風呂を済ませた二人は、リビングのソファでくつろいでいた。


「ねえ、優斗」


「ん?」


「ランキング戦に出るなら、武器はどうするの?」


「…………あ」


 優斗が固まる。


「何も持ってねえ」


「やっぱり?」


「それに最近、まともに稽古してないんだよな……」


「そういえば」


 ルイが思い出したように尋ねる。


「入学式の時もそうだったけど、優斗って剣術を習ってたの?」


「ああ」


 優斗は頷く。


「俺の世界じゃ『剣道』っていうんだけどな」


「ケンドウ……」


「じいちゃんにマンツーマンで教えてもらってた」


「じゃあ」


 ルイは少し考える。


「武器にするなら、やっぱり剣?」


「そうだな~」


 優斗は腕を組む。


「それが一番しっくりくると思う」


 ただ、と続ける。


「この世界の剣術を全然知らないんだよな」


「それなら!」


 ルイがぱっと顔を明るくした。


「明日、ハヤト兄さんのところに行ってみる?」


「ハヤト……」


 優斗は思い出す。


「ああ。お前の兄さんか」


「うん!」


「そういや、腰に剣提げてたな」


「ハヤト兄さん、剣術もすっごく強いんだよ!」


「へえ!」


「お願いしたら、教えてくれるかも!」


「それはありがたいな」


 優斗は少し期待する。


「俺の知ってる剣道とは、戦い方も違うだろうし」


「そうなの?」


「ああ。剣道は決まったルールの中で戦うものだからな」


 優斗は自分の手を見る。


「じいちゃんに教わったことを活かしながら、この世界の剣の使い方も覚えられたらいいんだけど」


「きっとハヤト兄さんなら、色々教えてくれるよ!」


「快く引き受けてくれたらいいけど」


「大丈夫だよ!」


 ルイは自信満々に胸を張る。


「ハヤト兄さん優しいし!」


「そっか」


「本当に強いんだから!」


「そこまで言われたら楽しみになってきたな」


 優斗は笑う。


「じゃあ明日、お願いしに行ってみるか!」


「うん!」


 ルイも嬉しそうに頷く。


「じゃあ明日、授業が終わったら優斗の教室に迎えに行くね!」


「え?」


 優斗が首を傾げる。


「いや、俺が迎えに行くよ」


「大丈夫!」


「いやでも――」


「私が迎えに行きます!」


「なんでそこだけ頑ななんだよ」


「それに、ちょっと用事もあるし」


「用事?」


「うん」


「……まあ、それなら」


 優斗は頷く。


「お願いするよ」


「任せて!」


 ルイが立ち上がる。


「じゃあ、また明日ね」


「ああ」


「おやすみ、優斗」


「おやすみ」


 二人はそれぞれ、自分の部屋へ戻っていった。


     ◇ ◇ ◇


 ベッドへ横になった優斗は、天井を見上げていた。


(ランキング戦……か)


 数日前までは、自分が参加することになるなんて思ってもいなかった。


 魔法は使えない。


 剣術だって、しばらくまともに稽古していない。


 この世界の戦い方も知らない。


 不安を挙げれば、きりがない。


 それでも――。


(いよいよ、始まるな)


 ルイの笑顔を思い出す。


(どこまでやれるか分からない)


 目を閉じる。


(でも、決めたんだ)


 自分たちの可能性に賭ける。


 もう一度、前へ進むために。


(やるしかない)


 そこで、優斗はふと別のことを思い出した。


(……そうだ)


 明日のこと。


 ハヤトに剣術を教えてもらう。


 それとは別に――。


(ルイのこと……あの人にお願いしてみるか)


 きっと、快く引き受けてくれる。


 そんな気がした。


(明日、話してみよう)


 そう考えているうちに、優斗の意識は少しずつ眠りへ落ちていった。


 この日。


 二人は、自分たちの意思で同じ道を選んだ。


 それが――。


 これから先の二人の運命を、大きく動かすことになるとは。


 この時の二人は、まだ知らなかった。

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