二人で選んだ道
それから、数日が経った。
優斗とルイの関係は、別に悪くなったわけではない。
「今日の授業どうだった?」
「先生に当てられて焦ったよ」
「優斗でもそういうことあるんだ」
「あるに決まってんだろ」
そんな他愛のない会話はする。
一緒に食事もする。
朝になれば「おはよう」と言うし、夜になれば「おやすみ」と言う。
けれど――。
どこか、ほんの少しだけよそよそしい。
二人とも、意識して避けている言葉があった。
――ランキング戦。
あの日以来、その言葉だけは一度も二人の間に出ていなかった。
◇ ◇ ◇
「そういえばさ」
ある日の夜。
ソファに座っていた優斗が、ふと思い出したように口を開いた。
「今日、初めて魔法実践の授業受けたぞ」
「えっ!」
ルイが興味深そうに振り返る。
「そうなんだ! どうだった?」
「案の定――」
優斗は遠い目をした。
「何も出てこず」
「ありゃ……」
「水一滴すら出てこなかったよ」
「……残念だね」
「本当にな」
優斗はため息をつく。
「周りは普通に水出したり、火出したりしてんのにさ。俺だけ手を前に出して――」
手のひらを突き出す。
「…………」
沈黙。
「……って感じ」
「ふふっ」
「笑うなよ!」
「ご、ごめん!」
口元を押さえながらも、ルイは笑っている。
「でもさ」
優斗は少し嬉しそうに続けた。
「身体強化のやり方は、クラスのみんなに教えてもらったんだ」
「えっ!」
今度はルイの表情が明るくなる。
「そっちはどうだったの?」
「なんていうかな……」
優斗は自分の両手を見る。
「全身にパワーがみなぎるっていうか……何でもできそうになるっていうか」
「うんうん」
「今すぐオリンピックに出ても活躍できそうな感じだった」
「オリン……?」
ルイが首を傾げる。
「え? どういう……?」
「ああ、そっか」
優斗は苦笑する。
「俺の世界にあるスポーツの世界大会みたいなもんだよ」
「へえ~!」
「とにかく、身体がめちゃくちゃ軽くなるんだ」
優斗は身振りを交えて続ける。
「試しに走ってみたらさ、いつもの感覚で地面を蹴っただけなのに、ものすごい勢いで前に飛び出して」
「ええっ!?」
「気づいたら練習場の壁が目の前にあって、止まるのに必死だったよ……」
「あははっ!」
「笑い事じゃないぞ! マジでぶつかるかと思ったんだから!」
「ごめんごめん!」
ルイは楽しそうに笑った。
「でも、すごいじゃん!」
「ああ。自分でもびっくりした」
優斗は手を握ったり開いたりする。
「力も速さも、普段とは全然違うんだ。ただ、身体が急に速く動くもんだから、感覚が追いつかなくてさ」
「最初はそういうものだよ」
「そうなのか?」
「うん。身体強化って、魔力を込めればいいってものじゃないから」
ルイは頷く。
「慣れないうちは、力加減を間違えちゃうこともあるんだよ」
「なるほどな……」
「でも、よかったね!」
ルイは自分のことのように嬉しそうに笑う。
「優斗にも、得意なことが見つかって!」
「ああ」
優斗も笑った。
「クラスのみんなが教えてくれたおかげだよ」
「クラスにも馴染めてるみたいだし……なんか私も嬉しいよ」
「ルーナのおかげだな」
優斗は笑う。
「それに、いい奴が多くて助かってるよ」
「そっか」
ルイも安心したように頷く。
「勉強の方は大丈夫?」
「それも大丈夫そう」
「知識補正は?」
「最初はな」
優斗は苦笑する。
「教科書読むたびに、知らないはずの周辺知識がすらすら頭に入ってきて、めちゃくちゃ気持ち悪かったけど」
「うん」
「何日か経ったら慣れた。今はそこまで違和感ないよ」
「そっか!」
ルイは笑顔になる。
「じゃあ、学校生活は問題なさそうだね」
「そうだな」
優斗も頷く。
そこで、会話が途切れた。
「…………」
「…………」
二人の間に、少しだけ静かな時間が流れる。
別に、気まずいわけじゃない。
でも――。
二人とも、あの日のことを忘れたわけではなかった。
「……さて」
優斗が立ち上がる。
「今日はもう寝るか」
「……そうだね」
ルイも立ち上がった。
「おやすみ、優斗」
「ああ。おやすみ」
二人はそれぞれの部屋へ戻っていく。
いつも通りの会話。
いつも通りの夜。
それでも二人の間には、まだほんの少しだけ――見えない壁が残っていた。
◇ ◇ ◇
翌日。
二人はいつも通り学園へ向かい、それぞれの教室で授業を受けた。
そして放課後。
「ん~っ!」
ルイは大きく伸びをしながら、寮へ帰ろうとしていた。
「今日も疲れたぁ……」
廊下を歩いていた、その時。
「……あれ?」
少し先に、見覚えのある後ろ姿があった。
「優斗……?」
一人でどこかへ向かって歩いている。
しかし、その方向は寮ではない。
(どこ行くんだろ……?)
少し気になって、ルイは優斗の後を追った。
しばらく歩く。
(何か用事でもあるのかな?)
やがて優斗が立ち止まった。
その先にあるのは――記念室。
「……?」
優斗が中へ入っていく。
ルイは少し迷った後、音を立てないように扉を開けた。
(ちょっとだけ……)
そっと中を覗く。
優斗はルイに気づいていない。
そのまま、資料棚の奥へ歩いていった。
ルイも物陰へ隠れながら、その後を追う。
記念室には、アーノルド王国の歴史に名を残した人物たちの肖像画や武具、書物などが並べられている。
その中でも、最も大きく扱われている人物。
英雄騎士――アーノルド=クリスファー。
そして、彼と共に戦った七人の従者たち。
優斗は、その資料を真剣な表情で読み込んでいた。
「……やっぱり」
小さな独り言が聞こえる。
「この英雄騎士が魔法を使ったって記録……どこにもないな」
別の資料を手に取る。
「本当に身体強化だけで戦ったのか……」
優斗はしばらく文字を追い――小さく息を吐いた。
「……すげえな、この人」
「…………」
物陰から見ていたルイは、少しだけ胸が痛くなった。
(優斗も……優斗なりに気にしてるんだよね)
能力測定の日。
自分には「心配するな」と言った。
その後も、いつも通りに振る舞っていた。
でも――。
本当は。
「…………」
もう少し近くで見ようと、ルイが一歩動く。
――ゴン。
「……え?」
背中が、本棚に当たった。
棚の上に積まれていた古い資料が、ぐらりと傾く。
「…………」
ルイはゆっくりと頭上を見上げた。
(あ)
次の瞬間。
「うわぁぁぁぁ!?」
ドサドサドサドサッ!
「!?」
静かな記念室に、派手な音が響き渡った。
「なんだ!? 誰だ!」
「…………」
本の山から、小さな手が伸びる。
「助けてぇ……優斗ぉ……」
「その声……」
優斗は目を丸くする。
「ルイ!?」
慌てて駆け寄った。
「何してんだお前!?」
「いたたた……」
「ほら、掴まれ」
優斗は本をどかし、ルイの手を取る。
「よいしょっと!」
「うぅ……ありがとう……」
「で?」
助け出したルイを見ながら、優斗は呆れたように腕を組んだ。
「なんで本棚の中からお前が出てくるんだよ」
「あはは……」
ルイは気まずそうに笑った。
◇ ◇ ◇
「なるほどな」
事情を聞いた優斗は、呆れ半分に頷いた。
「俺が気になって、ついてきたと」
「うん……」
「別に普通に声かけてくれたらよかったのに」
「あはは……」
ルイは頬をかく。
「なんとなく、邪魔しちゃ悪いかなって思って……」
「だからって隠れる必要ないだろ」
「それは……そうだけど」
優斗は苦笑した。
「まあいいや。とりあえず、これ片付けようぜ」
「う、うん!」
二人は床に散らばった本や資料を拾い始めた。
「うわ……結構落としたな」
「ご、ごめんね……」
「俺に謝られてもな」
優斗は一冊の本を手に取る。
「これ、元の場所分かるか?」
「えっと……たぶん、こっち……」
「たぶんって」
「だ、大丈夫! ちゃんと分かるから!」
そう言って本棚へ向かったルイが、今度は床に置かれた資料につまずきかける。
「わっ!」
「おい!」
優斗が慌てて腕を伸ばした。
「……頼むから、これ以上増やさないでくれよ」
「うぅ……」
ルイは恥ずかしそうに俯いた。
「気をつけます……」
優斗は小さく笑い、再び資料を拾い始めた。
しばらくして、ようやく片付けが終わる。
「ふぅ……」
優斗は額の汗を拭った。
「これでよし、と」
「ありがとう、優斗」
「まあ、怪我がなくてよかったよ」
「えへへ……」
ルイは照れくさそうに笑った。
そして、優斗が先ほどまで読んでいた資料へ目を向ける。
「ねえ、ここで何してたの?」
「これ」
優斗は一冊の資料を持ち上げた。
「アーノルド=クリスファーについて調べてた」
「そうだったんだ……」
「ああ」
優斗は肖像画を見上げる。
「この前聞いただろ。この国を救った英雄が、身体強化しか使えなかったって」
「うん」
「本当なのかなって思ってさ。ここ数日、時間がある時にちょくちょく調べに来てたんだ」
「そうだったんだ……」
「で――」
優斗は資料へ目を落とす。
「どうやら、本当みたいだ」
アーノルド=クリスファーが、魔法を使ったという記録は見つからない。
残されているのは、身体強化を駆使し、剣を振るい、数々の戦場を駆け抜けたという記録ばかり。
「すごいよな、この人」
優斗は小さく笑う。
「もしかして……」
ルイが尋ねる。
「自分と似てるから調べてたの?」
「まあな」
優斗は少しだけ黙った。
そして、正直に答える。
「本当に身体強化だけで戦った人がいるなら――」
自分の手を見る。
「俺も、みんなと一緒に戦えるかもしれないって」
「…………」
「そう思い込もうとしてる」
「……思い込もうとしてる?」
「ああ」
優斗は苦笑する。
「まだ自信なんてないからな」
「…………」
ルイは少し迷った後、口を開いた。
「あのさ、優斗」
「ん?」
「ランキング戦のこと……実際、どう思ってる?」
「……え?」
数日間。
二人とも避け続けてきた言葉。
優斗は少し驚いたが――逃げずに答えた。
「そうだな……」
資料を棚へ戻す。
「ルイと一緒なら、もしかしたらって思ってる。それは本当だよ」
「……うん」
「でも――」
少しだけ視線を落とす。
「正直、めちゃくちゃ不安」
「え……?」
「勝てるかどうかなんて全然分からないし、出たところで俺が足引っ張る可能性だって高いと思ってる」
「…………」
「だからここに来てたんだ」
優斗はアーノルドの肖像画を見る。
「少しでも、自分に自信持ちたくてさ」
「優斗……」
「でも」
優斗はルイを見る。
「お前が本当に出たくないなら、それでもいいと思ってる」
「……え?」
「ランキング戦だけが全部じゃないだろ?」
優斗は少し笑う。
「学術研究発表だってある。他にも、お前をサポートする方法なんて色々あると思うし」
「…………」
「この前は悪かった」
優斗は頭を下げる。
「俺、お前の気持ちを勝手に決めつけた」
「優斗……」
「自分だって不安なくせに、偉そうなこと言ってさ」
「…………」
しばらく黙っていたルイが、ゆっくり口を開く。
「私ね……」
優斗が顔を上げる。
「初等部の頃は、ランキング戦に出て……姉さんたちみたいになれるって思ってた」
「…………」
「魔法が好きだったし、もっと上手くなりたかった」
ルイは小さく笑う。
「いつか姉さんたちみたいな、すごい魔法使いになれるって……本気で思ってたんだ」
その笑顔が、少しだけ曇る。
「でも……去年、サーバントを召喚できなかった」
「…………」
「それから、どんどん自信がなくなって」
両手を握る。
「好きだった学術研究発表も上手くいかなくて……」
ルイは俯いた。
「もう、自分でも何をしたらいいのか分からなくなっちゃった」
「……そっか」
「ねえ、優斗」
「ん?」
ルイは少し不思議そうに優斗を見る。
「優斗も……不安なんだ?」
「……当たり前だろ」
「え?」
「せっかく魔法がある世界に来たんだぞ?」
優斗は自嘲気味に笑う。
「周りは火出したり、水出したり、雷出したりしてるのに」
自分の身体を指差す。
「俺だけ、身体を活性化できますって」
「…………」
「悲しすぎるだろ」
「ふふっ……」
「笑うところじゃないぞ」
「ご、ごめん」
優斗もつられて笑った。
けれど、その笑みはすぐに小さくなる。
「……でも、まあ。本当は結構へこんでる」
「…………」
「授業で何度やっても魔法が出ないし、身体強化だって、まだ使いこなせてない」
優斗は自分の手を見つめる。
「そんな状態で、みんなと同じようにやっていけるのかなって」
「優斗……」
「だから、少しでも希望が欲しかったんだと思う」
優斗はアーノルドの肖像画を見上げた。
「この人みたいに、身体強化だけでも戦えるっていう希望がさ」
「…………」
ルイはしばらく黙っていた。
そして。
「……なんか」
「ん?」
「それ聞いて……複雑な気持ち半分、ほっとした気持ち半分かな」
「……え?」
「私ね」
ルイは胸元で手を握る。
「私が優斗をこの世界に召喚したから……優斗はこっちで暮らすことになったでしょ?」
「うん」
「それなのに、魔法まで使えなくて」
声が少し震える。
「私が優斗に辛い思いをさせちゃったんじゃないかって、ずっと不安だった」
「…………」
「それに……私のせいで、優斗まで悪く言われたらどうしようって」
「ルイ……」
「いろんなこと考えちゃって」
ルイは困ったように笑った。
「私だけ、こんなに不安なのかなって思ってた」
「…………」
「だから……」
優斗を見る。
「優斗も不安なんだって聞いて……ちょっと安心しちゃった」
「…………」
優斗はしばらくルイを見つめ――。
「ふっ……」
「?」
「あはははは!」
「な、何がおかしいのよ!」
「いや、悪い悪い!」
優斗は笑いながら手を振る。
「お前、本当に優しいなって思って」
「え……」
「俺のことばっかり心配してたんだろ?」
「そ、それは……」
「でも、俺の心配ばっかりしてなくていいんだぞ」
優斗は少し照れくさそうに頬をかく。
「俺だって、お前とか、マリとか、アンナと一緒にいると……なんか、やっていけそうな気がするんだよ」
「…………」
「安心するっていうかさ」
ルイの目が少し見開かれる。
「だからランキング戦も……」
優斗は続ける。
「二人で成長するための一つとして、挑戦してみたかったんだ」
「……そっか」
ルイは小さく呟く。
「優斗は……知らない世界で暮らしてるんだもんね」
「まあな」
「私なんかより、ずっと不安だよね」
「比べるもんじゃないだろ」
「え?」
「不安なもんは不安。それでいいだろ」
「…………」
ルイは少しだけ目を伏せる。
「……うん」
そして。
「私もね」
胸元へ手を当てた。
「マリちゃんや、アンナちゃん……それに優斗といると」
「うん」
「なんていうのかな……」
言葉を探す。
「お腹の奥が、熱くなるの」
「…………」
ルイは自分の胸元へ手を当てたまま、ゆっくりと言葉を続ける。
「もっと頑張りたいって思えるの」
「…………」
「この前は、急に言われて……怖くなって」
両手をぎゅっと握る。
「でも――」
顔を上げる。
「私も、優斗と一緒に挑戦してみたい!」
「……っ」
「今までの私とは違うところを、みんなに見せてやりたい!」
その声が、記念室に響く。
「このままじゃ嫌だ!」
優斗は黙ってルイを見る。
「だから……」
ルイは一度、大きく息を吸った。
「だからっ!」
真っ直ぐ、優斗を見る。
「次のランキング戦――」
一瞬。
時間が止まったように感じた。
「私と一緒に、出てくれませんか?」
「…………」
優斗の目が、わずかに見開かれる。
そして――。
「ああ!」
迷いはなかった。
「もちろんだ!」
「……!」
優斗は、アーノルド=クリスファーの肖像画を見る。
「この英雄騎士みたいな、大それた存在にはなれないかもしれないけどさ」
そして、ルイへ笑いかけた。
「俺も――ルイの英雄騎士になれるように、精一杯努力するよ」
「……っ!」
「だから」
拳を差し出す。
「一緒に、みんなを見返そうぜ!」
「…………」
ルイはその拳を見る。
そして――。
「うん!」
屈託のない笑顔を見せ、自分の拳を優斗の拳へそっと合わせた。
――コツン。
小さな音が、静かな記念室に響く。
「…………」
その笑顔に。
優斗は、一瞬だけ見惚れた。
「……?」
ルイが首を傾げる。
「どうしたの?」
「っ!」
優斗は我に返る。
「い、いや! なんでもない!」
「?」
「そ、そろそろ帰ろうぜ!」
慌てて扉へ向かう。
「こんなところで二人きりでいるの見られたら、また変な噂が――」
「っ!」
今度はルイの顔まで赤くなった。
「そ、そうだね!」
二人は妙に距離を空けながら、記念室を後にした。
数日間、二人の間にあった見えない壁は――。
いつの間にか、なくなっていた。
◇ ◇ ◇
その夜。
夕食と風呂を済ませた二人は、リビングのソファでくつろいでいた。
「ねえ、優斗」
「ん?」
「ランキング戦に出るなら、武器はどうするの?」
「…………あ」
優斗が固まる。
「何も持ってねえ」
「やっぱり?」
「それに最近、まともに稽古してないんだよな……」
「そういえば」
ルイが思い出したように尋ねる。
「入学式の時もそうだったけど、優斗って剣術を習ってたの?」
「ああ」
優斗は頷く。
「俺の世界じゃ『剣道』っていうんだけどな」
「ケンドウ……」
「じいちゃんにマンツーマンで教えてもらってた」
「じゃあ」
ルイは少し考える。
「武器にするなら、やっぱり剣?」
「そうだな~」
優斗は腕を組む。
「それが一番しっくりくると思う」
ただ、と続ける。
「この世界の剣術を全然知らないんだよな」
「それなら!」
ルイがぱっと顔を明るくした。
「明日、ハヤト兄さんのところに行ってみる?」
「ハヤト……」
優斗は思い出す。
「ああ。お前の兄さんか」
「うん!」
「そういや、腰に剣提げてたな」
「ハヤト兄さん、剣術もすっごく強いんだよ!」
「へえ!」
「お願いしたら、教えてくれるかも!」
「それはありがたいな」
優斗は少し期待する。
「俺の知ってる剣道とは、戦い方も違うだろうし」
「そうなの?」
「ああ。剣道は決まったルールの中で戦うものだからな」
優斗は自分の手を見る。
「じいちゃんに教わったことを活かしながら、この世界の剣の使い方も覚えられたらいいんだけど」
「きっとハヤト兄さんなら、色々教えてくれるよ!」
「快く引き受けてくれたらいいけど」
「大丈夫だよ!」
ルイは自信満々に胸を張る。
「ハヤト兄さん優しいし!」
「そっか」
「本当に強いんだから!」
「そこまで言われたら楽しみになってきたな」
優斗は笑う。
「じゃあ明日、お願いしに行ってみるか!」
「うん!」
ルイも嬉しそうに頷く。
「じゃあ明日、授業が終わったら優斗の教室に迎えに行くね!」
「え?」
優斗が首を傾げる。
「いや、俺が迎えに行くよ」
「大丈夫!」
「いやでも――」
「私が迎えに行きます!」
「なんでそこだけ頑ななんだよ」
「それに、ちょっと用事もあるし」
「用事?」
「うん」
「……まあ、それなら」
優斗は頷く。
「お願いするよ」
「任せて!」
ルイが立ち上がる。
「じゃあ、また明日ね」
「ああ」
「おやすみ、優斗」
「おやすみ」
二人はそれぞれ、自分の部屋へ戻っていった。
◇ ◇ ◇
ベッドへ横になった優斗は、天井を見上げていた。
(ランキング戦……か)
数日前までは、自分が参加することになるなんて思ってもいなかった。
魔法は使えない。
剣術だって、しばらくまともに稽古していない。
この世界の戦い方も知らない。
不安を挙げれば、きりがない。
それでも――。
(いよいよ、始まるな)
ルイの笑顔を思い出す。
(どこまでやれるか分からない)
目を閉じる。
(でも、決めたんだ)
自分たちの可能性に賭ける。
もう一度、前へ進むために。
(やるしかない)
そこで、優斗はふと別のことを思い出した。
(……そうだ)
明日のこと。
ハヤトに剣術を教えてもらう。
それとは別に――。
(ルイのこと……あの人にお願いしてみるか)
きっと、快く引き受けてくれる。
そんな気がした。
(明日、話してみよう)
そう考えているうちに、優斗の意識は少しずつ眠りへ落ちていった。
この日。
二人は、自分たちの意思で同じ道を選んだ。
それが――。
これから先の二人の運命を、大きく動かすことになるとは。
この時の二人は、まだ知らなかった。




