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英雄騎士物語 ―落ちこぼれ王女と魔法を使えない少年―  作者: kyuto
第2話 学園生活の始まり

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すれ違う想い(前編)

 優斗がクラスメイトたちとの歓迎会を楽しんでいた頃――。


 ルイはマリとアンナの三人で学園を出て、街へ昼食を食べに来ていた。


「いやー! やっぱりここのハンバーガーは美味しいね! ルイ!」


「うん、そだねー……」


 マリの元気な声とは対照的に、ルイの返事にはまるで覇気がない。


 目の前には、大きなハンバーガーと山盛りのポテト。


 普段なら嬉しそうに頬張っているはずなのに、今日はハンバーガーを両手で持ったまま、ちびちびとかじっている。


「……まだへこんでるの?」


 マリがルイの顔を覗き込む。


「魔法が使えないって決まったわけじゃないし、魔力量も身体強化もAだよ!? エー!」


「マリ、うるさい」


 アンナが淡々と言う。


「うぉっと!」


 マリは慌てて口を押さえた。


「失礼しました~」


 周囲の客へぺこぺこと頭を下げる。


 アンナはそんなマリを横目で見た後、紅茶を一口飲んだ。


「サーバントは主人の能力に影響を受ける、という話はありますが……それもどこまで本当なのか分かりませんからね」


「……ありがとう、二人とも」


 ルイは小さく笑った。


 けれど、すぐに視線が下がる。


「でも……やっぱり、私が召喚したせいでって思うと……」


 優斗は、気にするなと言ってくれた。


 身体強化が得意なら、それを伸ばせばいい。


 そんなふうに笑っていた。


 でも――。


(本当に、平気なのかな……)


 測定結果を見た瞬間の、優斗の表情。


 ほんの一瞬だけ見えた戸惑いが、頭から離れなかった。


「ふーむ……」


 マリはポテトを一本つまみながら首を傾げる。


「でも、ルイの去年の測定結果って悪くなかったじゃん?」


「…………」


「魔力量はCだったけど、防御も回復も補助もBだったでしょ? 攻撃と身体強化だってDなんだから、悪い結果じゃないよ! 属性は相性もあるしさ」


「それは……そうだけど」


 ルイはハンバーガーを皿へ戻した。


「もしかしたら……今測ったら、もっと悪くなってるかもしれないし……」


「否定はできませんね」


「はぁぁぁぁぁぁ……」


 ルイがテーブルへ突っ伏す。


「ちょっとアンナまで!」


「可能性の話をしただけです」


「そこは嘘でも『大丈夫です』って言うところでしょ!」


「根拠のない慰めは好みませんので」


「はぁぁぁぁぁぁ……」


「ルイもため息追加しないで!」


 マリが頭を抱える。


「ちゃんと勉強してきたんだから大丈夫だって! ね!」


「……うん」


 ルイは顔を上げた。


 マリが自分を励まそうとしてくれているのは分かる。


 アンナだって、言葉は少し厳しいけれど、心配してくれているのだろう。


 それなのに、気持ちはなかなか晴れなかった。


 去年、サーバントの召喚に失敗してから。


 自分が何かをするたびに、また失敗するんじゃないかと思うようになった。


 そして今度は、自分だけではない。


 優斗まで巻き込んでしまったのかもしれない。


(……嫌だな)


 そんなことを考えていると――。


「どうした? お嬢ちゃん」


 低く太い声が、三人の頭上から降ってきた。


「そんなでっかいため息ついて。悩み事か?」


 三人が顔を上げる。


 そこに立っていたのは――巨大な男だった。


 筋骨隆々の身体。


 立派な髭。


 腰にはエプロン。


 そして頭部は、店内の照明を見事なまでに反射している。


「あっ、ガイトさん!」


 マリが嬉しそうに手を上げた。


「実はこの子、失恋したの……」


「なに!?」


 ガイトが目を見開く。


「そうなのか!?」


「ち、違う! 違います!」


 ルイが慌てて両手を振る。


「あれ?」


 マリが首を傾げる。


「じゃあ、ダイエット失敗だったっけ?」


「なにぃー!?」


 ガイトがさらに驚く。


「する必要ないだろ!」


「だから違いますって!」


「そ、そうか?」


 ガイトは腕を組み、しばらく難しい顔をする。


「まあ、おじさんにはよく分からんが――」


 そして突然、にかっと笑った。


「ちゃんと食べて元気出さないと、俺みたいに禿げるぞ!」


 親指を立てる。


 眩しい頭。


 真っ白な歯。


 完璧な笑顔だった。


「うわっ、それは嫌かも」


「絶対嫌です」


「それは困ります……」


「おいおい!」


 ガイトが胸を押さえる。


「冗談でもきついぜ!?」


 三人が思わず笑う。


「そうだ! ちょっと待ってな!」


 ガイトは何かを思いついたように厨房へ戻っていった。


「……なんだったんだろ」


「さあ?」


 しばらくして。


「お待たせ!」


 ガイトが戻ってきた。


 その両手には――三つの大きなパフェ。


「えっ!?」


「嬢ちゃんたち、よく来てくれるからな!」


 ガイトは三人の前へパフェを並べる。


「今日は新学期のお祝いも兼ねて、特別サービスだ!」


「え! いいの!?」


 マリの目が輝く。


「ダメですよ!」


 ルイが慌てる。


「ちゃんとお金払います!」


「いいって、いいって!」


 ガイトは豪快に笑う。


「また来てくれりゃ、それでいいからさ! それに、若い子がそんな暗い顔してちゃ、せっかくの飯がもったいねえだろ?」


 そう言って、ルイの前に置いたパフェを指差した。


「悩み事があるなら、まず腹いっぱい食ってから考えな!」


「……はい!」


 ルイが頷くと、ガイトは満足そうに笑い、厨房へ戻っていった。


「……いい人だね」


「でしょ?」


 マリはすでにパフェへスプーンを伸ばしている。


「いやー! この店はいいお店だー!」


「現金ですね」


「いいじゃん、美味しいんだから!」


「ふふっ」


 ルイもようやく、自然に笑った。


「そうだね」


 パフェを一口食べる。


 甘い。


 冷たいクリームが舌の上で溶けていく。


 優斗の測定結果が変わったわけではない。


 自分の不安が消えたわけでもない。


 それでも、こうして笑っていられる時間があることが、今は少しだけ嬉しかった。


「今度は優斗と来ようかな」


「おっ!」


 マリがにやりと笑った。


「そうだね! ガイトさんに自慢の彼氏って紹介しないとね!」


「だから違うってばっ!」


 ルイの声が店内に響く。


 今度は、ため息ではなかった。


     ◇ ◇ ◇


 昼食を終えた三人は、寮へ戻っていた。


 場所は、ルイと優斗が暮らす部屋。


 リビングのテーブルを囲み、三人で紅茶を飲む。


「まあでもさ」


 マリがカップを置く。


「優斗のことは、そんなに気にしなくていいと思うよ」


「……うん」


「自分のことは自分で何とかする! それに――」


 マリは笑う。


「なんとなくだけど、優斗なら何とかしそうな気がするし!」


「確かに」


 アンナも静かに頷く。


「入学式で、大勢の前であれだけのことをした人ですからね」


「あはは……」


 ルイも苦笑する。


 優斗がアレンたちの前に立ちはだかった時のことを思い出す。


 怖くなかったはずがない。


 それでも、優斗は自分を助けてくれた。


 そして、サーバントとして一緒に歩むことを選んでくれた。


「ありがとう、二人とも」


 ルイは紅茶へ目を落とす。


「そうだよね。あくまで今の測定結果だもんね」


 少しずつ、声に明るさが戻ってくる。


「これから二人で頑張っていけば――」


「違うよ!」


「え?」


 マリが笑顔でルイを指差した。


「二人じゃなくて――みんなで頑張るの!」


「…………」


「ルイと優斗だけじゃないよ。私もいるし、アンナもいる!」


「勝手に巻き込まないでください」


「えぇ!?」


「……とは言っていません」


「どっちなの!?」


 ルイが思わず吹き出した。


「あははっ!」


 そして――。


「うん!」


 力強く頷く。


「みんなで頑張ろう!」


「そうそう!」


「そうですね」


 アンナも小さく頷いた。


 ルイは二人の顔を見つめる。


 自分が落ちこぼれと呼ばれるようになってからも、変わらずそばにいてくれた友人たち。


 優斗が来てくれたことで、もう一度前を向こうと思えた。


 でも、それだけではなかったのだ。


(……私、一人じゃないんだ)


 胸の奥に残っていた不安が、少しだけ和らぐ。


 もちろん、明日になればまた怖くなるかもしれない。


 能力測定の日が来れば、今日と同じように落ち込んでしまうかもしれない。


 それでも――。


 今は、もう一度頑張ってみたいと思えた。


 その時、アンナがふと部屋の扉へ視線を向けた。


「ところで」


「ん?」


「『みんなで頑張る』という話をしている最中に、廊下で聞き耳を立てている変態サーバントは誰でしょうね?」


「え?」


 ルイとマリが同時に扉を見る。


 数秒の沈黙。


 ――ガチャ。


 ゆっくりと扉が開いた。


「聞き耳なんて立ててねえよ!」


 優斗が顔を覗かせる。


「今戻ってきたところなんだけど、話してる途中だったから、入るのは野暮かなって思って待ってただけだよ!」


「そうですか」


 アンナは無表情のまま頷く。


「扉の前で足音が止まったので、てっきり盗み聞きかと」


「分かってて言ってるだろ、お前!」


「うわぁ~」


 マリが身体を引く。


「女の子の話を盗み聞きなんて、趣味悪ーい!」


「だから違うって!」


「…………エッチ」


 ルイが頬を赤くしながら呟く。


「なんでそうなるんだよ!」


 優斗は頭を抱える。


「はぁ……」


 諦めたように息を吐き、リビングへ入った。


「……まあ、最後の方を黙って聞いてたのは悪かったよ」


 三人を見る。


「でも、俺も同じ気持ちだ」


「え?」


「みんなで頑張ろうぜ」


 優斗は少し照れくさそうに笑う。


「なんとなくだけど……お前たちといれば、何とかなる気がする」


「優斗……」


 ルイの胸が、じんわりと温かくなる。


 けれど同時に、講堂で見た優斗の表情が脳裏をよぎった。


(……本当に、大丈夫なのかな)


 今、目の前にいる優斗は笑っている。


 それが無理をした笑顔なのかどうか、まだルイには分からない。


 だからこそ、これ以上自分が不安そうな顔をしてはいけない気がした。


「……うん!」


 ルイは笑顔で頷いた。


「一緒に頑張ろうね!」


「おう」


「おぉ~!」


 マリが嬉しそうに両手を合わせる。


「嬉しいこと言ってくれますなぁ~!」


「そうですね」


 アンナが立ち上がる。


「出涸らしの紅茶でも飲みますか?」


「わざわざ出涸らしって言わなくていいよ……」


「嫌なら結構です」


「飲むよ! 残ってるなら頂くよ!」


 アンナは無言で優斗のカップへ紅茶を注ぐ。


 優斗は一口飲んで、顔をしかめた。


「……本当に薄いな」


「出涸らしなので」


「だから分かってるよ!」

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