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英雄騎士物語 ―落ちこぼれ王女と魔法を使えない少年―  作者: kyuto
第2話 学園生活の始まり

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新しい居場所(前編)

 講堂を出た優斗は、一人で食堂へ向かっていた。


「はぁ……」


 思わず、ため息が漏れる。


 頭から離れないのは、先ほどの能力測定の結果だった。


(俺のせいで、またルイが……)


 測定結果を見た時の、ルイの表情。


 ヨハネに食い下がった時の、悔しそうな顔。


 そして――自分に謝った時の顔。


(魔法が使えないのに、魔力量だけ多くて……身体強化が得意?)


 優斗はポケットに入れた測定結果を思い出す。


(引っ越し業者にでもなれっていうのかよ……)


 自分で考えておきながら、全く笑えない。


 魔法の存在する異世界。


 そこで自分に与えられたのが、身体能力を高める力だけ。


 ルイの前ではああ言ったものの、やはり期待外れだったという気持ちは消えてくれなかった。


 そんなことを考えているうちに、食堂へ辿り着いた。


「……ん?」


 中へ入ると、すぐに見覚えのある顔が目に入る。


 三年A組のクラスメイトたちだ。


 テーブルにはすでに料理が並べられている。


 だが――誰一人として、まだ手をつけていなかった。


 談笑しながら、自分を待っていたらしい。


「おっ!」


 真っ先に気づいたルーナが、大きく手を振った。


「優斗ぉー! おかえり! どうだった?」


「おいおい、待ってやれよ。先に乾杯しようぜ」


「そうだよルーナ。もうお腹ペコペコだよ~」


「……悪い。待たせたな」


 優斗は少し申し訳なくなりながら、空いている席へ座った。


「俺も腹減ったよ」


「よし!」


 ルーナが勢いよく立ち上がる。


「では僭越ながら、私ルーナが乾杯の音頭を取らせていただきます!」


「おおー!」


 クラスメイトたちから拍手が起こる。


(なんの会だよ……)


 優斗が苦笑しながら周囲を見ると――。


「……って、先生もいるのかよ」


 いつの間にか、ヨルミナまで当然のように席に座っていた。


「担任だからな~」


「その割には馴染みすぎだろ……」


 ヨルミナは気にする様子もなく、飲み物の入ったグラスを掲げる。


 見た目はシャンパンのようだが、もちろん酒ではないらしい。


「それでは!」


 ルーナがグラスを高く掲げた。


「まずは優斗! ようこそ、アーノルド学園へ!」


 クラスメイトたちの視線が一斉に優斗へ集まる。


「まだこの世界に来て間もないけど、私たちが精一杯サポートするのでご安心を!」


「当たり前だー!」


「よろしくねー、優斗!」


「分かんないことあったら何でも聞けよ!」


「そしてクラスメイトのみんなも、しっかりサポートするように!」


「任せろー!」


 次々と飛んでくる声に、優斗は思わず笑った。


「おすすめのサボり場所なら教えてやるぞー!」


 ヨルミナがグラスを掲げる。


「いや、それはダメだろ……」


「担任直伝だぞ?」


「余計ダメだろ」


 笑い声が上がる。


「さて!」


 ルーナが仕切り直すように声を張った。


「優斗が一日でも早く、この学園とこの世界での生活に馴染めるように! そして、三年A組の今年一年の活躍を祈念して!」


 大きく息を吸う。


「乾杯ー!」


「「乾杯ー!」」


 グラスが一斉に掲げられる。


 優斗も少し遅れて、それに加わった。


 甘い炭酸のような飲み物を口へ運ぶ。


「それでは――」


 ルーナがにやりと笑った。


「ご歓談、スタァート!」


 その言葉を合図にしたかのように――。


「能力測定どうだった!?」


「昨日、一つ下の子とやり合ったって本当!?」


「剣持ってたよな! 剣術習ってたの!?」


「好きな食べ物は!?」


「好きな女性のタイプは!?」


「ちょ、待て待て待て!」


 一斉に押し寄せてきたクラスメイトたちを前に、優斗は両手を上げる。


「お前ら、一人ずつ話せぇー!」


 食堂に、どっと笑い声が響いた。


     ◇ ◇ ◇


「……で、まず何からだ?」


「好きな女性のタイプは?」


「それが最初!?」


 優斗より先にルーナが突っ込んだ。


「いや、まあ……確かに大事だけどぉ……」


「お前も大事だと思ってんのかよ」


「いや、やっぱり最初じゃない!」


 ルーナがびしっと指を立てる。


「まずは今日の能力測定の結果でしょ!」


「おお! そうだ!」


「どうだったんだ?」


「すごかった?」


「…………」


 優斗の表情が、わずかに曇る。


「あんまり期待するような結果じゃないぞ……」


 そう言いながら、ポケットから測定結果を取り出す。


(みんな……どんな反応するんだろうな)


 講堂で耳にした言葉が蘇る。


 ――魔法使えないの?


 ――身体強化だけって、脳筋じゃん。


 そして、もっと嫌な想像まで頭をよぎった。


(やっぱり、大したことのない奴のサーバントは大したことない――とか)


 自分が何か言われるだけなら、まだいい。


 自分のせいで、またルイまで馬鹿にされるのは嫌だった。


「……ほら」


 優斗はテーブルの上に測定結果を広げた。


 ルーナをはじめ、何人ものクラスメイトが覗き込む。


「どれどれぇー?」


 ルーナの目が紙の上を走る。


「…………えっ!」


 優斗の身体が、わずかに強張った。


(くるか……!)


「嘘! 見て!」


 ルーナが勢いよく顔を上げる。


「魔力量Aだよ! すごい!」


「……え?」


「マジで!?」


「うわ、本当だ!」


「すげぇ……羨ましい!」


「待って! 身体強化もAじゃん!」


「二つもAあるのかよ!」


「……でも、他の適性は全部Eなんだな」


 一人の生徒が、少し不思議そうに首を傾げた。


「ああ……だから、普通の魔法はほとんど使えないらしい」


 優斗が答えると、別の男子生徒が身を乗り出した。


「でも身体強化Aだろ? それだけでも相当すごくないか?」


「そうそう! 身体強化なら、むしろ俺たちが教えてもらうことになるかも!」


「…………」


 優斗は目を瞬いた。


 想像していた反応と――まるで違う。


「え……でも」


 思わず自分から口にしてしまう。


「俺、魔法はほとんど使えないんだぜ?」


「それは――」


「君が魔法の存在しない世界から来たからだろう」


 気だるげな声が割って入った。


 ヨルミナだった。


「そもそも昨日まで魔力の使い方すら知らなかった人間だろう? その結果だけで、自分に何ができて何ができないかを決めつけるのは早いんじゃないか?」


「……先生」


「魔力の扱い方は訓練で変わる部分もある。もちろん、適性そのものが簡単に変わるわけじゃないけどな」


 ヨルミナは料理を口へ運びながら続けた。


「それに、身体強化がAなんだろ? だったら、まずはその才能を伸ばしてみればいい」


「おぉ……」


 ルーナが目を丸くする。


「初めて先生っぽいこと言った……」


「こう見えて先生だからな」


「自分で言ったら世話ねえな……」


「お前、先生への扱い雑じゃない?」


「先生が雑なんだろ」


「確かに」


「ルーナまで!?」


 再び笑いが起こる。


「でも先生の言う通りだと思うよ」


 ルーナが測定結果を眺める。


「今の結果だけで、全部決めつける必要ないんじゃない?」


「そうそう」


 別のクラスメイトも頷いた。


「それに身体強化だけなら、あの人だってそうだったし」


「あの人?」


「我が国の英雄――アーノルド=クリスファー」


「アーノルド=クリスファー……」


 優斗は一瞬考え――すぐに思い当たった。


「ああ、さっき聞いた英雄のことか……」


 講堂でマリが話していた。


 身体強化だけで国を救ったという英雄。


「そうそう。その人」


「どんな人なんだ?」


「大昔、この国が悪魔の侵攻を受けて滅びかけた時、それを救った英雄だよ」


「悪魔……」


「しかも一度じゃない。二度もこの国を救ったって言われてる」


「二度も……?」


 優斗は思わず聞き返した。


「そんなにすごい人なのか」


「すごいどころじゃないよ」


 ルーナが笑う。


「この『アーノルド王国』って国名も、その人の名前が由来なんだから」


「国の名前にまでなってるのかよ……」


 優斗は感心する。


「その人が、本当に身体強化だけで?」


「そう伝わってるよ」


「へえ……」


 優斗は、もう一度自分の測定結果を見る。


 身体強化――A。


 さっきまでは、どこか虚しく見えていたその文字が、ほんの少しだけ違って見えた。


「まっ!」


 ルーナが優斗の肩を軽く叩く。


「今の結果だけで気にしすぎなくていいってこと!」


「……そうだな」


 優斗は小さく笑った。


「で!」


 先ほど質問してきた生徒が、再び身を乗り出す。


「好きな女性のタイプは!?」


「まだ覚えてたのかよ!」


「大事な質問だ!」


「どんだけ知りたいんだよ……」


 優斗は呆れながら腕を組む。


「そうだな……。特にこれっていうのはないけど」


 少し考える。


「あ、見た目だけならルーナの姉さん。すげえ綺麗だったよな」


「「あぁー……」」


「……え?」


 なぜか一同の反応が薄い。


「なんだよ?」


 ルーナが残念そうに首を振る。


「優斗、それはありきたりすぎるよ……」


「それが一番期待外れだよ……」


「しょうもない奴だな……」


「えぇー!? なんなんだよお前ら!」


 優斗は納得できずに声を上げる。


「綺麗な人聞かれたら、綺麗な人答えるだろ普通!」


「もっとこう、意外性をだな!」


「知らねえよ!」


「あっ」


 ふと、優斗が思い出したように言う。


「でも、ルイは妹に似てて可愛いなって思ったよ」


「…………」


 一瞬。


 テーブルが静かになった。


「ほほぉ~?」


 誰かがにやりと笑う。


「言われてますよ~、ルーナ氏?」


「…………」


 ルーナは満面の笑みを浮かべた。


 それはもう、見惚れるほど完璧な笑顔だった。


「優斗?」


「……はい」


「ルイに手を出したら――」


 笑顔のまま。


「容赦しないわよ?」


「…………御意」


 優斗は静かに頭を下げた。


「なんで敬語になってんだよ!」


 再び食堂に笑い声が響いた。


     ◇ ◇ ◇


 食事をしながら、会話はその後も続いた。


「そういえばさ」


 ルーナが思い出したように口を開く。


「昨日、一つ下の子とやり合った時、剣を握ってたよね?」


「ああ」


「剣術、習ってたの?」


「一応な」


 優斗は頷く。


「あの時は、とっさに武器になりそうなものを探してて、ちょうど剣が目に入ったから使っただけだけど」


「やっぱり」


 ルーナは少し考え込む。


「昨日、私も遠くから見てたんだけど、あの構え方……見たことないんだよね」


「そりゃそうだろ」


「え?」


「俺がいた世界の剣術だからな。この世界で知ってる奴はいないんじゃないか?」


「なるほど……」


 ルーナは興味深そうに頷く。


「剣術だったら、ハヤト兄さんもやってるけど……知ってるか聞いてみようかな」


「へえ。兄さんも剣使うのか」


「うん。かなり強いよ」


「そりゃ一度見てみたいな」


 その時、ルーナが時計へ目を向けた。


「――って、うわ! もうこんな時間!」


 慌てて立ち上がる。


「みんな食べ終わった?」


「終わったよー!」


「おなかいっぱいだー!」


「早く校内案内行こう~」


「よし!」


 ルーナが元気よく腕を上げる。


「じゃあ片付けて、校内案内に行こう!」


「おー!」


 優斗も食器を手に取り、クラスメイトたちと一緒に片付けへ向かった。

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