↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄騎士物語 ―落ちこぼれ王女と魔法を使えない少年―  作者: kyuto
第2話 学園生活の始まり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/24

魔法が使えないサーバント

 講堂の扉を開けた瞬間、優斗は思わず足を止めた。


「……なんだこれ」


 つい先ほどまで始業式が行われていた場所とは思えない。


 窓はすべて暗幕で覆われ、広い講堂は薄闇に包まれていた。


 明かりが当たっているのは舞台の上だけ。


 その中央には台座が置かれ、上には人の頭ほどもある透明な水晶が鎮座していた。


「なんか、仰々しいセッティングだな……」


「だね……」


 隣にいたルイが、ごくりと息を呑む。


「なんか、ちょっと怖い……かも」


 そう言って、優斗の制服の袖をきゅっと掴んだ。


「お前、能力測定やったことあるんだろ?」


「あるけど……こういう雰囲気は慣れないの!」


「あー、大丈夫だよ!」


 そんな二人の後ろから、マリが明るい声を飛ばす。


「そんな大したことしないから!」


「お前は余裕そうだな……」


「あはは! まあね!」


 そんな話をしている間にも、次々と生徒とサーバントたちが講堂へ入ってくる。


 今日、能力測定を受けるのは中等部一年生と、新たに召喚されたサーバントたち。


 在校生も毎年同じ測定を受けるが、二年生以上は後日、学年ごとに実施されるらしい。


 ルイは優斗の主人として付き添い。


 マリとアンナは、教師から許可をもらって見学に来ている。


 やがて座席も埋まり始めた。


「俺たちも座ろうぜ」


「う、うん」


 優斗、ルイ、マリ、アンナの四人は並んで席へ腰を下ろした。


 しばらく待っていると、舞台袖から一人の男性が姿を現した。


(あれ……)


 優斗には見覚えがあった。


 昨日の召喚の儀式で、進行を務めていた男だ。


「改めまして、本日能力測定を受ける皆さん」


 男の声が講堂へ響き渡る。


「これより、中等部一年生ならびに今年度召喚されたサーバントの能力測定を行います。私は本学園の教頭を務めております、ヨハネ=インシュアルです」


「教頭だったんだな、あの人」


 優斗が小声で呟く。


「うん。そうだよ」


「結構偉い人だったんだな……」


 そんな二人の会話をよそに、ヨハネは説明を続ける。


「本学園では、生徒の成長を確認するため、毎年一度、全生徒を対象に能力測定を実施しております。本日は中等部一年生、そして今年度召喚されたサーバントの皆さんが対象です」


(なるほど。だからルイたちは後日なのか)


「測定方法は、生徒もサーバントも同じです。名前を呼ばれた方から舞台へ上がり、中央にあります水晶へ魔力を注入してください」


 ヨハネが手で示した先にある水晶が、ライトを受けて鈍く輝く。


「この水晶によって測定するのは、主に三つです。『魔力の性質』『魔法適性』、そして『属性適性』」


 優斗は耳を傾ける。


 ヨハネの説明によれば、魔力の性質には『白魔力』と『黒魔力』の二種類が存在し、その割合や魔力量が測定される。


 魔法適性は――攻撃、防御、回復、補助、身体強化。


 属性適性は――火、水、風、雷、地、無。


 魔力量や各適性は、最高のSから最低のEまで、六段階で評価されるらしい。


「一回手をかざすだけで、そこまで分かるのかよ……」


「うん。去年、私も同じ水晶で測ったから」


「じゃあ、俺もあれに魔力を流せばいいんだな」


「そういうこと!」


 優斗は改めて、舞台中央の水晶を見つめた。


 あれに魔力を流す。


 言葉にすれば簡単だが、そもそも昨日まで魔力なんて存在すら知らなかった自分に、そんなことができるのだろうか。


「測定結果はこちらに記録し、各自へお渡しします」


 ヨハネが手をかざす。


 すると、その隣に置かれていた便箋とペンが、ふわりと宙へ浮かび上がった。


「おお……」


 優斗は思わず身を乗り出す。


「なんか、急に魔法感が出てきたな……」


「あはは……。こんなもんだよ」


「お前、こういうの見慣れてんだな……」


 昨日から魔法らしいものを見るたび驚いている自分が、少し馬鹿らしくなってくる。


「では、名前を呼ばれた方から舞台へ上がってください。まずは――」


 一人目の名前が呼ばれた。


     ◇ ◇ ◇


 呼ばれた一年生が舞台へ上がり、水晶の前に立つ。


「水晶へ手をかざし、魔力を注入しなさい」


「はい」


 生徒が右手を水晶へ向けた。


 その瞬間――。


「っ!」


 水晶から、目も眩むほどの光が溢れ出した。


 暗闇に包まれていた講堂が、一瞬にして白く染め上げられる。


 五秒ほど経つと光は消え、水晶も元の透明な姿へ戻った。


「うわ……」


 優斗が呆気に取られている間にも、今度は宙に浮いていたペンがひとりでに動き始める。


 さらさらと便箋の上を走り、何かを書き記していく。


 書き終わると、ヨハネが便箋を一枚切り離し、生徒へ手渡した。


「測定が終了した方は、一度席へ戻ってください」


 生徒が舞台を下りる。


 同時に、静かだった講堂がざわつき始めた。


「な、なんだ今の光……」


「大丈夫だよ」


 ルイが小声で笑う。


「私たちが測定する時も同じ感じだから」


「先に言ってくれよ……」


「だって聞かれなかったし……」


「そういう問題か?」


 マリがくすくす笑う。


「私も初めて見た時は『すごぉー!』ってなったよ!」


「冷静に考えれば、ただ水晶が光っただけですけどね」


 アンナが淡々と言った。


「お前は夢がないな……」


「事実を言っただけです」


 その間にも、次々と名前が呼ばれていく。


 一年生。


 そして、新たに召喚されたサーバント。


 誰が水晶へ魔力を注いでも、程度の差こそあれ、必ず眩い光が放たれた。


「別に結果をみんなの前で発表するわけじゃないんだな」


「うん。先生たちは記録を残して共有してるらしいけど、基本的には本人たちだけだよ」


「なるほどな」


「あら」


 アンナが口を挟む。


「心配しなくても、すごい能力ならすぐに噂が出回りますよ」


「そうそう!」


 マリも頷く。


「初等部の時もすごい噂になった人いたしね! 特に覚えてるのだと、ルミナさんとか!」


「へえ。あのお姉さん、やっぱりすごいんだな」


 朝に会ったルイの姉を思い浮かべる。


 そんな雑談をしていた――その時だった。


「次――ヒラガユウト」


「……!」


 自分の名前が呼ばれた。


 優斗の背筋が自然と伸びる。


「来たか……」


「優斗」


 隣を見る。


 ルイも立ち上がっていた。


「行こう」


「ああ」


 二人は並んで舞台へ向かった。


     ◇ ◇ ◇


 階段を上がり、舞台の中央へ立つ。


 客席から見るよりも、水晶は大きく感じられた。


「…………」


 優斗は透明な水晶を見つめる。


 心臓の鼓動が、少しずつ速くなっていく。


(大した結果じゃなかったら……どうしよう)


 昨日。


 自分は大勢の前で、あれだけ偉そうなことを言った。


 ルイにだって、自分に自信を持てるように一緒に頑張ろうと言った。


 それなのに、自分に何の才能もなかったら――。


 優斗は隣にいるルイをちらりと見る。


「大丈夫だよ!」


 目が合うと、ルイは両手を胸の前で握り拳にしてみせた。


「頑張って!」


「……おう」


 その姿に、ほんの少しだけ緊張が和らぐ。


「では、水晶へ手をかざし、魔力を注入しなさい」


 ヨハネに促され、優斗は水晶へ向き直る。


(俺は、この世界でルイと一緒に成長するって決めたんだ)


 ゆっくりと手を伸ばす。


(ルイが、この学園で一番の魔法使いになれるように――俺が支える)


 覚悟を決め、水晶へ手をかざした。


 先ほどまでの光景を思い出し、反射的に目を閉じる。


「…………」


 眩い光が来る。


 そう思った。


 だが――。


「…………?」


 何も起きない。


 五秒。


 十秒。


 いつまで経っても、瞼の向こうが明るくなる気配はなかった。


「……あれ?」


 優斗は恐る恐る目を開く。


 水晶は――透明なままだ。


「どうしたんだ?」


「……あれ?」


 ルイも水晶を覗き込む。


「光らない……」


 その声には、先ほどまでとは違う戸惑いがあった。


「おかしいな……。普通は魔力を流したら、すぐ反応するはずなのに……」


 講堂から、小さなどよめきが起こる。


「どうしたのですか?」


 ヨハネの眉間に皺が寄る。


「早く魔力を注入しなさい」


「いや……」


 優斗は困惑しながら、自分の手を見る。


「やってるつもりなんだけど……」


「もっとこう……」


 ルイが隣から身を乗り出す。


「身体の中にある魔力を感じて、それを手の先から水晶へ送り込む感じ!」


「……全然分からん」


「えぇ!? じゃあ……こう!」


 ルイは両手でなぜか三角形を作ってみせた。


「なんで三角なんだよ!」


「イメージだよ!」


「余計分かんねえよ!」


「おほん!」


 ヨハネの咳払いが響く。


 二人が同時に黙った。


「……ヒラガユウト。魔力を注入しているつもりなのですね?」


「は、はい。でも、何も起きなくて……」


 ヨハネは優斗の手と水晶を交互に見つめた。


「…………」


 わずかに目を細める。


「……なるほど」


「え?」


「いえ。では、水晶に直接触れてみなさい」


「は、はい!」


 優斗は言われるがまま、両手で水晶に触れる。


 ――その瞬間。


「……!」


 水晶が光った。


 しかし。


 先ほどまでの生徒やサーバントたちのような、講堂全体を照らすほどの眩い光ではない。


 まるで暗い部屋に灯された電球のような――柔らかく、暖かな光。


「…………」


 優斗も。


 ルイも。


 客席の生徒たちも。


 誰もがその光を見つめていた。


「……こんなの」


 ルイが小さく呟く。


「私の時と、全然違う……」


 数秒後。


 暖かな光は静かに消え、水晶は再び透明へ戻った。


「……え?」


 優斗は水晶から手を離す。


「今ので……いけたってこと?」


「ど、どうなんだろう……」


 二人の視線が、同時に便箋とペンへ向く。


 ――カリカリカリ。


 ペンが動いている。


「……!」


「ご安心なさい」


 ヨハネが書き終えられた便箋を手に取った。


「結果は出ています。こちらです」


「あ、ありがとうございます……」


 優斗は恐る恐る紙を受け取った。


「…………」


 視線を落とす。


 そこに並んでいる文字を、一つずつ追っていく。


「――っ!」


 息が止まった。


「えっ……?」


 隣から覗き込んだルイも、思わず声を上げる。


 魔力量――A。


 身体強化――A。


 しかし。


 それ以外の魔法適性に並んでいたのは――。


 E。


 E。


 E。


 E。


 優斗は、何も言えなかった。


「測定が終了したのでしたら、席へ戻りなさい」


「あ、あの!」


 ルイがヨハネへ詰め寄った。


「先生、これって……何かの間違いじゃないですか?」


「間違い?」


「だって、最初は水晶が反応しなかったし……!」


 ルイは水晶を指差す。


「私が測った時も、今までの人たちも、ちゃんと手をかざしただけで反応してました! それに、優斗だけ光り方も全然違います!」


「測定結果に問題はありません」


 ヨハネは淡々と答える。


「ですが――」


「もう一度言います」


 その声が、少しだけ強くなる。


「ルイ=アルベルト=フローレス。測定は終了しました。席へ戻りなさい」


「う……」


 ルイが悔しそうに俯く。


「ルイ」


 優斗はそんな彼女の手を掴んだ。


「戻ろう」


「……うん」


 二人はそのまま舞台を下りた。


     ◇ ◇ ◇


「なになに!? どうだったの?」


 席へ戻った途端、マリが身を乗り出してくる。


「…………」


 ルイは何も答えない。


「後で見せるよ」


 優斗は結果の紙を折り、手元に置いた。


「えー! 気になる!」


「後でな」


 そんなやり取りをしている間にも測定は進み、最後の対象者が舞台を下りた。


「さて」


 ヨハネが講堂全体を見渡す。


「これで本日の対象者全員の測定が終了しました。以上をもちまして、能力測定は終了となります」


 生徒たちが席を立とうとしたところで、ヨハネが片手を上げた。


「それと、もう一つ」


 ざわめきが止まる。


「今年度召喚されたサーバントの皆さんへ、お伝えしておくことがあります」


 優斗も顔を上げた。


「今日、寮へ戻りましたら、学園から支給された教科書を何でも構いませんので読んでみてください」


「教科書……?」


「きっと、面白い発見があると思いますよ」


 ヨハネはそれ以上説明することなく、口元にわずかな笑みを浮かべた。


「それでは以上。解散です」


 宙に浮かんでいた便箋とペンを引き連れ、ヨハネは舞台袖へ姿を消した。


「なんだよ……面白い発見って」


「さあ?」


 ルイも首を傾げている。


 だが今の優斗には、それより気になるものがあった。


 手元にある、一枚の紙。


「ねえねえ!」


 案の定、マリが再び顔を寄せてくる。


「結果見せてよ!」


「……ああ。ほら」


 優斗は紙を広げた。


「やった! どれどれ~?」


 マリが覗き込む。


「…………」


 数秒。


「っ!? なんじゃこりゃ!」


「声でけえよ!」


 思わず優斗が突っ込む。


 アンナも横から結果を確認した。


「……あら」


 相変わらず淡々とした表情のまま、ぽつりと言う。


「これは悲しい結果ですね」


「言い方!」


 紙には、優斗の能力が細かく記されていた。


 魔力の性質――白五十、黒五十。


 魔力量――A。


 魔法適性は、攻撃E、防御E、回復E、補助E。


 そして唯一――身体強化だけがA。


 属性適性も無属性がD。


 火、水、風、雷、地は、すべてE。


「つまり……これって」


 優斗が恐る恐る尋ねる。


 マリの表情が少し困ったものになる。


「あー……うん」


 言いにくそうに頬を掻く。


「身体強化はすごいんだけど……それ以外は、センスがないっていうか」


 一瞬、言葉を選び。


「普通の魔法は、ほとんど使えない……かな」


「…………マジか」


「身体強化は」


 アンナが結果を眺めながら続ける。


「一般的な魔法とは少し性質が異なります。体外へ魔力を放出するのではなく、体内の魔力を活性化させるものですから。皆が最初に習う分野ですね」


「……じゃあ、身体強化だけは得意ってことか」


「ええ。A評価は立派ですよ」


 アンナはさらりと言う。


「ただ、他が壊滅的なだけです」


「一言余計なんだよ!」


「事実を言っただけです」


「…………」


 優斗はもう一度、紙を見る。


 魔力量――A。


 それだけを見れば、悪い結果には思えない。


 身体強化の適性も高い。


 なのに、それ以外の魔法を使うための適性がほとんどない。


「なんで……」


 小さな声が聞こえた。


 ルイだった。


 俯き、ぎゅっと拳を握っている。


 優斗はそれに気づきながらも、紙から目を離せなかった。


「だよなぁ……」


 笑ってみせる。


「せっかく魔法のある世界に来たのに……杖から明かり一つ出すこともできないのかよ……」


「ま、まあ!」


 マリが慌てて手を振る。


「それくらいなら、慣れればできるかもしれないし!」


「身体強化のフィジカルで乗り切ればいいのでは?」


 アンナが真顔で言う。


「それができたら、みんなそうするだろ……」


「確かに」


「納得すんなよ」


「でもさ!」


 マリが何かを思い出したように手を叩いた。


「この国の英雄だった人も、身体強化一本で国を救ったらしいよ!」


「……英雄?」


「そうそう! 確かすっごく昔の人!」


 マリは大きく頷く。


「だから優斗だったらいけるよ! うんうん!」


「お前、その励まし方雑じゃない?」


「気持ちが大事なのだよ!」


「またそれかよ……」


 だが――。


 マリの声は、少々大きすぎた。


「身体強化だけ?」


「マジかよ、魔法使えないのか?」


「身体強化のみって、脳筋じゃん」


「でも、せっかく召喚されたのに魔法使えないのは可哀想だな……」


 周囲から、そんな声が聞こえてくる。


「…………」


 優斗の手に、わずかに力が入った。


 ――魔法が使えない。


 たった今知ったばかりの事実を、他人の口から聞かされると、妙に胸へ刺さった。


「……優斗」


 ルイが心配そうにこちらを見る。


 その顔を見て。


 優斗は、紙を折り畳んだ。


「ま、でも」


 わざと明るい声を出す。


「元々、魔法なんてない世界から来たんだ」


「え……?」


「身体強化が使えるようになるだけでも、俺の世界にいた頃よりプラスだろ」


 優斗はルイを見る。


「だから心配すんな」


「でも……」


 ルイは唇を噛む。


「優斗……ごめんね。色々と……」


「なんでお前が謝るんだよ」


 優斗は苦笑した。


「お前は何も悪くないだろ? これは俺のセンスの問題だ!」


 そして、周囲にも聞こえるくらいの声で続ける。


「しかも、この国の英雄だって身体強化だけだったんだろ?」


 ざわついていた周囲の声が、少しだけ静かになる。


「だったら、まだ何も決まってないじゃねえか」


「…………」


 ルイが優斗を見つめる。


「お、おお……!」


 マリが感心したように頷いた。


「そうだね! あくまで今の能力だし! 前向きだねぇ~!」


「ふっ。まあな」


 優斗は得意げに笑ってみせた。


 ――本当は。


 少しも、平気ではなかった。


 魔法が存在する世界へ来た。


 自分にも何か特別な力があるのかもしれない。


 そんな期待を、心のどこかで抱いていた。


 それをたった一枚の紙で否定されたような気がして――。


 悔しくないはずがなかった。


 けれど。


 今にも泣きそうな顔で自分を見るルイの前で、それを口にする気にはなれなかった。


「じゃ、俺はクラスメイトと飯食ってくるから」


 優斗は立ち上がる。


「マリちゃん、アンナちゃん。ルイのことよろしく頼むよ」


「うん、分かった!」


 マリが元気よく返事をする。


「…………」


 アンナがじっと優斗を見る。


「何?」


「……アンナちゃんって」


 心底嫌そうな顔だった。


「そこ!?」


「馴れ馴れしいです」


「マリちゃんはいいのかよ!」


「私は全然いいよー!」


「マリは黙っていてください」


「えぇ!?」


 いつもの調子に戻った三人を見て、優斗は小さく笑う。


「じゃあ、また後でな」


「うん……」


 ルイの返事だけが、少し沈んでいた。


 優斗は三人に背を向け、講堂を後にする。


 扉が閉まったところで――。


「…………」


 笑顔が消えた。


 優斗はポケットから、先ほどの測定結果を取り出す。


 もう一度だけ目を落とした。


 魔力量――A。


 身体強化――A。


 それ以外には、無情なほど並ぶDとE。


「……魔力だけ多くても、使えなきゃ意味ねえだろ」


 ぽつりと呟く。


 けれどすぐに紙を折り畳み、ポケットへ押し込んだ。


「……飯、行くか」


 顔を上げる。


 そして、待ってくれているクラスメイトたちのいる食堂へ向かって歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。