↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
19/23

新人歌手、復帰会見へ(1)

「そんな事があったんですか…。俺、すっかり寝込んでいて全く気がつきませんでした」


次の日の午後、レッスンスタジオの幽霊騒ぎのことを聞いたシンは、驚きを示しながらもコウにそう告げた。


スタジオは、シンの泊まってる部屋のすぐ下の階だった。

昨夜、ショウがかなり取り乱して大きな声を上げていたため、起こしてしまったのではないかと心配していたが、取り越し苦労だったようだ。

コウは少し拍子抜けしながら、シンのあっけらかんとした顔を眺めていた。


「ただ…スタジオからは、今までも奇妙な声がすることは度々ありましたね…」


「えっ!そうなの…?」 

「ちょっと、あんた!そういう重要なこと…何で今まで黙ってるのよ⁉︎」


シンのあまりにもマイペースすぎる告白に、コウもひかるも気色ばまざるを得なかった。


「すみません…。でも、いつも俺が寝入りばなに聞こえてくるので…夢か気のせいか…と思ってました」


「それ…いつからよ?」


「最初は…俺が昭和からこの事務所に帰って来た日の夜でした。ミラーゲートくぐれとか…サイン帳戻せとか…歴史を守れ…とか…」


「歴史を守れ…?」

ひかるとコウは、思わず顔を見合わせた。

それは昨夜、アキトの口から出た言葉とまさに同じ言葉だった。


「なんか…いつも支離滅裂で…。でも、あの声がアキトさんの声だとは思ってなかったな」

シンは、昭和男特有の(?)マイペースさで、なおも言葉を続けた。


あの後、しばらく意識を失っていたアキトはふいに目を覚まし、ショウに付き添われ、タクシーで帰宅して行った。

今日は一日大事を取り、念のため病院に行っているはずだった。


アキトは、自分がスタジオの窓辺のピアノの椅子に腰掛けて、奇妙なセリフを口走ったことを全く覚えていない様子だった。


だが、シンが言うことが事実ならば、アキトは以前からスタジオでこうした奇行を繰り返していたのだろうか…。


コウが、昨夜の出来事に思いをめぐらせていると、傍らのひかるが閑話休題…とばかりに、両手を打って話題を変えた。


「それで…今日は、改めてシンに確認したいことがあって、時間を作ってもらったの」

ひかるは、少し神妙そうな顔で、シンの顔を覗き込んだ。


「私…、君が昭和から来た日以来ずっと…歌手・坂口シンとしてもう一度、表舞台に立ってほしい…と思っているんだけど、君自身の意志はどうなのかなって…。一度ちやんと聞いてみたかったのよ」


「そりゃ…俺は…歌いたいです…。でも、今…この事務所が色々大変な時期だって知っていますし、わがままは言えないです。お二人が、俺が昭和からタイムスリップして来たことを理解してくれて、ここに置いてくれていることだけで、本当にありがたい…と思っています」


シンは、いつぞやオフィスでコウに語った気持ちと同じことを、ひかるにも告げた。


「うちの事務所がどうとか…は、とりあえず置いておいて…君自身はもう一度歌いたいのね?」

ひかるはもう一度、シンに問いただした。


「はい…俺は歌いたいです…」

シンは、ひかるの目を見据えながら、ゆっくりと答えた。


「わかった…」

ひかるは我が意を得たようにうなづいた。


「これでシンの気持ちがちゃんと確かめられたから、再デビュー計画を改めて始動しましょう」


「あの…」

ひかるの力強い宣言を聞き、今度はコウが大事なことを告白しなければならない番になってしまった…。


「すみません…。実は僕…、既にシンの再デビューの件をアキトさんに相談しているんです」


「え…そうなの?どうしてコウまで大事なことを今ここで言うのよ」

ひかるの声は、さすがに少し険しくなった。


「本当に申し訳ないです…。シンの再デビューについては、うちの事務所で今一番実績を出しているアキトさんにお願いするのが一番だと思ったものですから…。でも、最近のひかるさんとアキトさん…お互い壁を作っているようで、そこに僕が風穴を作りたい…と、勝手に動いてしまいました…」


「そっか…。私とアキトの意地の張り合い…コウにも色々気を使わせちゃってたんだね…」


てっきり、怒られる…と覚悟していたコウは、ひかるの意外に殊勝なリアクションに驚いた。


「でも…アキトさんは、シンがかつて昭和にうちの事務所からデビューした坂口シンと同一人物だとは信じてくれませんでした…」


「まぁ、そうでしょうね。何しろ超現実主義者だから…」


「はい…」


「今、インフルエンサーの売り込みに夢中になっているアキトに、シンのプロデュースを頼んでも、なかなか触手を伸ばすとは思えないわ。だから…シンの売り出しはやっぱり私たちでやらなければならないと思う…」


ひかるは手を組み人差し指を立てて、学校の先生のような口調でコウとシンに語り始めた。

何かにスイッチが入った時のひかる特有の仕草だった。


「ただし…私には、アキトのインフルエンサー作戦みたいな飛び技はないから、シンの売り出しにはとにかく正攻法で行くわよ」


「正攻法…?」


「シンの再デビューにあたって、坂口シン復帰記者会見を行います。シンが40年前に消えた坂口シンと同一人物であることをきちんと世の中に説明した上で、令和の新しい坂口シンを応援してもらいましょう!」


「え…!?」

ひかるの高らかな宣言に、コウとシンは一緒に声を上げた。


正攻法すぎるだろー!?

コウは心で叫びながら、悦にいるひかるの顔を呆然と眺める他なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。