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第88話 届かなかった
男の修行は始まった。
朝日が昇る前から木剣を振るい。
夜遅くまで型を繰り返す。
竜族の誰よりも汗を流し。
誰よりも真摯に学び続けた。
私は、そんな男を見守りながら竜影流を教えた。
一年。
二年。
三年。
歳月は流れた。
男の剣術は、見違えるほど上達していく。
型は完璧だった。
身体の使い方も申し分ない。
技の理合も理解していた。
だが。
何も起こらなかった。
剣は風を呼ばず。
妖精は応えない。
魔粒子は動かない。
男は何度も挑戦した。
何度も。
何度も。
何度も。
それでも。
妖精が見えることは、一度もなかった。
やがて私は静かに首を横へ振る。
「……これが人間の限界だ」
竜影流は剣術ではない。
妖精と共鳴し。
魔粒子そのものを操る妖精誘導法。
妖精が見えなければ。
共鳴することはできない。
どれほど才能があろうとも。
どれほど努力を重ねようとも。
その壁だけは越えられなかった。
男は木剣を見つめたまま、静かに拳を握り締める。
私は、その背中を見つめながら思った。
これで終わりだ、と。
だが。
その男は。
私の想像を遥かに超えていた。




