第85話 竜族の見る世界
妖精たちと別れた後。
ゼノンはエリシアと並んで中庭のベンチへ腰を下ろした。
感覚共有の魔法は、まだ続いている。
妖精たちは今も城のあちこちを飛び回り、思い思いに過ごしていた。
エリシアは、楽しそうに笑い合う妖精たちを見つめながら呟く。
「みんな……」
「ずっと一緒に暮らしていたんですね」
ゼノンは静かに頷いた。
「ああ」
「竜族にとって妖精は、特別な存在ではない」
「共に生きる隣人だ」
風が吹けば、風の妖精が笑う。
花が咲けば、土の妖精が喜ぶ。
雨が降れば、水の妖精が歌う。
竜族は、生まれた時からそんな景色の中で育ってきた。
ゼノンは一人の風の妖精へ優しく視線を向ける。
「妖精とは、魔粒子そのものを身体とする生命体だ」
「魔粒子そのものの身体であるが故に、自らと同じ属性の魔粒子を自在に操ることができる」
エリシアは目を丸くした。
「だから……」
「魔粒子を自由に操れるんですね」
「ああ」
ゼノンは頷く。
「そして竜族は、生まれながらに妖精を見ることができる」
「だからこそ、妖精と共鳴し、魔粒子を導くことができる」
「それが妖精誘導法」
「そして、その技術を武術へ昇華したものが竜影流だ」
エリシアは静かに木剣を見つめた。
今日見た演武。
風が舞い。
木々が揺れ。
世界そのものが剣へ呼応していた理由。
ようやく、その意味が分かった。
「だから私には……」
「できなかったんですね」
ゼノンは優しく微笑む。
「人間だからではない」
「妖精が見えなかっただけだ」
その言葉に、エリシアは顔を上げる。
「もし妖精が見えれば……」
「私にも竜影流を学べますか?」
ゼノンは少し考え、静かに頷いた。
「理論の上では可能だ」
「だが、人間が妖精を見る術は、今のところ存在しない」
エリシアは再び妖精たちへ視線を向ける。
楽しそうに笑う妖精たち。
自然と共に生きる竜族。
その景色は、あまりにも美しかった。
胸へそっと手を当て、小さく呟く。
「私も……」
「みんなと同じ景色が見たい」
その願いは。
まだ誰も成し遂げたことのない、新たな研究への第一歩となるのだった。




