第84話 妖精
感覚共有の魔法は、まだ続いていた。
エリシアは、目の前に広がる世界を夢中で見つめていた。
色とりどりの妖精たちが、楽しそうに空を飛び回っている。
花の蜜を分け合い。
木の枝へ腰掛け。
風に乗って追いかけっこをする。
まるで幼い子どもたちのように、無邪気な笑顔で遊んでいた。
「きれい……」
思わず零れたその言葉に、一人の小さな妖精が振り向いた。
「こんにちは!」
エリシアは驚きながらも、小さく頭を下げる。
「こ、こんにちは」
すると、その声を聞いた妖精たちが次々と集まってきた。
「人間の子だ!」
「かわいい!」
「こんにちは!」
「遊ぼう!」
肩へちょこんと座る妖精。
頭の上へ乗る妖精。
両手の上ではしゃぐ妖精。
くすぐったそうに笑うエリシアを見て、妖精たちも嬉しそうに笑った。
「笑った!」
「かわいい!」
「友達だ!」
エリシアも自然と笑顔になる。
「みんな……」
「こんにちは」
その様子を、ゼノンは優しい眼差しで見守っていた。
その時。
数人の妖精がゼノンの肩へ飛んでくる。
「ゼノン!」
「今日も元気だね!」
「昨日はありがとう!」
ゼノンも穏やかに微笑み返した。
「ああ」
「こちらこそ、いつも助けてもらっている」
まるで長年の友人同士のような、自然なやり取りだった。
エリシアは思わず目を丸くする。
そして。
これまでの出来事が、一つずつ繋がっていく。
黒竜城で見た光景。
侍女たち。
黒竜騎士たち。
料理人たち。
そして。
初めて黒竜王家へ迎えられた日。
アステリアが、誰もいない場所へ向かって楽しそうに笑っていた姿。
あの時は、不思議に思うだけだった。
けれど。
今なら分かる。
皆、妖精たちと話していたのだ。
エリシアは胸へそっと手を当て、小さく呟いた。
「みんな……」
「ずっと、いたんだ」
昨日まで何もないと思っていた世界。
けれど、本当は違った。
見えなかっただけで。
妖精たちは、ずっと人々の傍らで笑い、語り、共に生きていた。
その優しく温かな世界に触れたエリシアは、胸いっぱいの感動に包まれていた。




