第81話 真似事
演武が終わると。
エリシアは壁際に立て掛けられていた木剣を一本手に取った。
先ほど見たばかりの竜影流。
その美しい剣筋が、頭から離れなかった。
(私も……)
(やってみたい)
深く息を吸う。
ゆっくりと構える。
ノクスの踏み込み。
アステリアの体捌き。
ゼノンの流れるような剣筋。
思い出しながら、一つひとつ丁寧に真似をする。
木剣を振る。
一振り。
二振り。
三振り。
何度も。
何度も。
同じように身体を動かした。
しかし。
何も起こらない。
風は吹かない。
木々も揺れない。
世界は静かなままだった。
エリシアは不思議そうに木剣を見つめる。
「……あれ?」
その様子を見ていたノクスが首を傾げた。
「おかしいな……」
「動きは、ほとんどできている」
アステリアも驚いたように頷く。
「ええ」
「初めてとは思えないくらい綺麗よ」
「でも……何かが違う」
二人にも理由は分からなかった。
そこへ。
ゼノンが静かに歩み寄る。
エリシアは申し訳なさそうに俯いた。
「ご、ごめんなさい……」
「私、何か間違えましたか?」
ゼノンは優しく首を横へ振る。
「いや」
「お前は間違ってはいない」
そう言って木剣へ視線を向ける。
そして静かに告げた。
「竜影流は剣術ではない」
その一言に。
エリシアはもちろん。
ノクスも。
アステリアも、不思議そうにゼノンを見つめた。
「剣を振るう技術ではないのですか?」
ノクスが尋ねる。
ゼノンは静かに頷いた。
「ああ」
「剣術は、あくまでも形に過ぎない」
「竜影流の本質は、もっと別のところにある」
エリシアは小さく首を傾げる。
「別の……ところ?」
ゼノンは穏やかに微笑んだ。
「竜影流とは――」
「妖精誘導法だ」




