第80話 竜影流
ある日の午後。
黒竜城の訓練場では、第一王子ノクスと第一王女アステリアが木剣を交えていた。
乾いた打ち合いの音が、澄み渡る青空へ心地よく響く。
鋭い踏み込み。
淀みのない剣筋。
流れるような体捌き。
二人の動きは寸分の狂いもなく、美しい舞を見ているかのようだった。
少し離れた場所で、その様子をエリシアは夢中になって見つめていた。
「すごい……」
思わず、小さな声が漏れる。
その時だった。
ゼノンがゆっくりと訓練場へ歩み出る。
「ノクス」
「アステリア」
「私も混ぜてもらおう」
「はい、お父様!」
「お願いします、父上!」
三人はそれぞれ木剣を構える。
その瞬間。
訓練場の空気が静かに変わった。
静寂。
そして。
三人が同時に地を蹴る。
カンッ!
カンッ!
カンッ!
木剣が交わるたび。
風が舞う。
木々がざわめく。
草花が揺れる。
まるで大自然そのものが、三人の剣へ応えているかのようだった。
剣が流れる。
風が流れる。
呼吸が流れる。
三人の動きは一つとなり、まるで世界と調和しているように見える。
エリシアは目を見開いた。
今まで見てきた剣術とは、まるで違う。
速さでもない。
力でもない。
もっと根源的な何か。
剣を振るうたび、世界そのものが共鳴しているようだった。
その神秘的な光景に、少女は思わず息を呑む。
「これが……」
「竜影流」
その美しさに。
その圧倒的な存在感に。
エリシアの心は、一瞬で奪われていた。
そして、この日見た光景が。
やがて少女の運命を大きく変えていくことになる。




